真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS)  -6ページ目

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 13

この世界には仮の姿を持ったサナの兄、ケヴィン・ナッシュがいる。

唯一、サナも含めた『気』や『魔法』を完全無効化する能力を持ち合わせている。

ケヴィン・ナッシュが持ち合わせている能力はそれだけで、体力的には一般人よりも劣り、背は高いがヒョロリと細い。相手が女でも、少しは手馴れた戦士であれば、彼はあっさりと斬り捨てられるだろう。

しかしその卓抜した能力。

『無効化』はすべての攻撃魔法を打ち消す。

間合いにさえ入られなければ、彼は最強である。

妹のサナと違い、争いごとを好まない彼らしい能力である。



サナは。

ミリアム、リリス親子の暮らす街に鼻歌まじりに溶け込みながらふたりを倒すことを考えている。

ふたりの能力を奪うことと、サムソンへの精神ダメージのために。

そのあとは兄の『無効化』能力を奪う。

それは簡単だとサナは考える。最初から格闘技戦に持ち込めばいいだけだ。

さて。

サナから発せられる不穏な気配に、ミリアムは気づき始めていたが、彼女の記憶にサナの姿形はない。


ある晩のこと、サナはバスケットにたっぷりのスコーンを焼いた。

宿屋の店主に頼んで台所を借りたのである。

ほんのりとレーズンと、焼き菓子独特の薫りたつスコーンを抱えてサナはミリアムの家を訪ねた。

(毒は入ってないわよ。ほんのご挨拶。いずれあなたたちの力をいただくのだから、安いくらい…)

しかし。


兄がミリアムたちの味方につく前に手は打たねばならない。

それだけは確かだ。

力となるもの

生きているとお腹が空く。


眠くもなる。


悩みもする。


立ち向かう日もある。


あえて逃げる日もある。


”愛”ではお腹も心も満たせないけれど、活力とすることはできる。


活力とユーモアがあれば人はいくらでもやり直せる。


SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 12

サムソン。

そうだわサムソンよ。

この街にはあいつがいた気配がする。

ケイティが勇気を振り絞って剣を握り立ち上がったとき。あいつは新しい恋人とゆったり暮らしていたのね。

そんな生ぬるい、吐き気すらする空気がここにはあるわ。

リリス、ミリアム。

あなたたちも同じ。

消滅してわたしの糧となれ。

恋人の特殊能力で再び消える運命のサムソン。

まあ可哀想! なんて思ってみただけ。同情なんかしないわよ。

リリスたち親子にとどめを刺す前に食事にでもしようかな。

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 11

あの人ケイティのこと思い出したのかしらね。

それで彼女のところに行こうとしたのではないのかしら、ねえ母様。

リリスは記憶を失う以前のサムソンを知っている。目を真っ赤に充血させた戦士に塵にされたことも含めて。

そんなサムソンがなぜ復活を遂げたかは知らない。

しかし記憶がない以上、サムソンの心に滑り込むチャンスはいくらでもあった。昔の恋人ケイティの思い出さえなければ、いくらでもサムソンの気持ちを引っ張ることができると確信した。

案の定、サムソンは妖しい魅力を放つリリスに魅せられた。やがてふたりの生活が始まったときに、サムソンは消えた。

闘いに行ったことだけはわかる。サムソンは武術家なのだ。恋人と静かに暮らせる性格など持ち合わせてはいない。

それでもリリスはサムソンを傍に置こうとした。

サムソンが闘う理由は単純である。

拳を交えるべき相手をみつけたということだろう。

それが終わったら帰ってくるのだろうか?

リリスは不安になる。

サムソンはサナを倒してすべてに終止符を打ったはず。それにも係わらず、ケイティとはぐれ、記憶もなくして彷徨っていた。

リリスは考える。

また世界が動き出している。

そしてまだ見ぬ敵は自分にも攻撃をしかけるだろう。

サムソンが勝つか負けるかそんなことはどうでもいい。

平和だった暮らしが戻ってきさえすれば、他には何も望まない。


その頃、サナはリリスとミリアムの住む街に辿り着いた。

(食糧だけじゃないわ、ここにはふたり、敵がいる)

サナは街を見下ろす高台を滑り降り、街の中心部へ向かった。

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 10


真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS) 

ミリアムは娘のリリスから目が離せない。


いなくなったサムソンを追って家を飛び出そうとすることが続き、幾度となく引き留めた。


この人間の身から生まれながらも妖魔の属性を持つ娘を愛しながらも、ミリアムは持て余してもいる。


自分はリースロット大陸を統治するための役割を引き受けたうえに、妖魔の娘を授かったのだ。それでも娘に愛情はある。


しかし、分厚い魔術書を守り、大陸を守り、そうしながら娘も愛することは並み大抵のことではない。


統治者として特別な魔力を持つミリアムには、大陸全体の空気が歪んでいくことが手に取るようにわかるのだ。今、本当に守らなければならないのはリースロット。


愛するのは娘。



いったい神とはどんな存在なのか。


ミリアムは毎日のように恋人の名を呼ぶ娘を見つめながら、溜息をつかずにはいられない日々を送っている。



その頃、サナは新たなマルシェを地図上でみつけた。


そしてそれはまさしくミリアムとリリスの住まう街であった。