真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS)  -5ページ目

自己愛の肯定

そこにいることが証明でしたね。


自分の価値はけっきょくのところ死んだあとに他人様が決めることです。


生きているうちに自分に対してしてあげられることもあります。


自信過剰にならない程度に自分を褒めて、愛してあげることです。


自分を愛してくれるのなんてせいぜいが肉親です。


なかには肉親の愛さえ得られない人もいます。


だけど自分で自分を愛することはできるはずです。


諦める前に試してみて。




ここのところ

最近わたしはこちらにアクセスすることが怖かった。


なぜだかわからないけどとにかく怖かった。


書きたいことは山ほどあるが、少し自分を見失っていた。


SANAにとっての"LAST EXIT"

とうとう兄が来た。

わたしは兄を倒せるだろうか。最後の一撃に躊躇しないだろうか。


愚問よね。

これだけリースロットの住人を倒してきて。まだまだ倒そうとしているのに。


言い訳かもしれないけどさ。


ここはわたしの世界なのさね。


だから終わりもわたしが知っている。決めたのではなく自らによって知らされた。


リューゲンたちの敵が百年以上の未来にいたように。

子供の頃にわたしの精神世界に生まれたこの世界の始まりも終わりも、二十年以上前のわたしにはわからなかった。


だからさ。


わたしの敵もまた未来にいたのよ。わたし自身の未来に。


ピリオドを打つには、わたしひとりの力では足らないの。


この世界のあらゆる能力をこの掌に集めて、デーモンと名乗ったわたしの心と闘わなくてはならない。


みんな頑張らなくていいのよ。百年以上も彷徨わなくてよかった。

でもそれがこの世界における筋書きになったのなら、もう退路はない。


来るわ、ケヴィン・ナッシュ。

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 15

息のない娘を寝台に横たわらせて、ミリアムはあの本を開いた。

文字は追っていない。ただ捲っているだけ。


そこに死人を蘇らせる術は記されていない。


そこまで魔術は万能ではない。


では魔術とは、何か?


すでに夜中。日付も変わったことだろう。


いつものように夕餉の支度をして、ごく当たり前の会話をして「おやすみママ」という声を聞けるものだと信じていた。


突然娘を失ったミリアムは、まだ放心状態なのである。



真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS) 


床に転がっていた食べかけのスコーンを見て、毒殺であると判断できた。しかしその菓子に”毒”はなかったのだ。


事実、ミリアムが娘の後を追う覚悟でそれを口にしても、何の変化も起こらなかった。少なくともミリアムには。


ミリアムは、近隣の住人に娘のことは悟らせず、ただ薬師のもとを訪れた。


リリスを死なせた焼き菓子の欠片を持って。


奇妙な顔をされたものの、そこには明確な答えが表れた。


菓子の材料には粉を練るために、ミルクではなく”水”を使っているという。毒物は一切混入されていないと。


「だがね、ミリアム。これは聖水だね。ただの水ではないようだよ」

そう薬師は告げた。


ミリアムは瞬時に悟った。自分には何の影響もなく、リリスだけに影響を及ぼしたもの。


ミルクではなく”水”。その水とは”聖水”。


リリスはミリアムの娘だが、妖魔として生まれている。娘は生まれながらにして”魔族”なのだ。


聖堂で清められた水は、人間にとっては聖なるものでも、”魔族”にとっては攻撃用のアイテムにさえなる。


皮肉にもリリスは聖なるものによって命を奪われたのだ。



SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 14

胸騒ぎがしてミリアムは家路を急いだ。

いつも通りマルシェに買い出しに行き、娘の待つ家に帰る途中だった。

柔らかなスコーンの薫りをミリアムは感じた。すれ違いざま、二十代後半だろうか、リースロットでは見かけない異国の風貌を持つ女を見た。

売り子だろうか?

マルシェでは店を開かなくても、道すがら客に声をかけてパンや衣類を売る者も多い。

ミリアムも、ただすれ違っただけならば何の違和感もなくやりすごしただろう。

だがほんの一瞬、スコーンのバスケットを抱えた女はミリアムを一瞥し、笑みをもらした。それは偶然目があっての愛想笑いなどではなく。

自分を知っている目だった。


リリスは家で母の帰りを待っていた。

ドアをノックする音がして、

『こんにちは。お菓子を売って回っているのですが、味見をしていただけませんか? お代はいただきませんので…』

それはサナだった。

しかし、ミリアム同様、サナの姿形はリリスの記憶に残っていない。

リリスは声の主が女であることに油断した。

お腹も空いていることだし、とドアを開け玄関先でサナを迎える。

レーズンとバターをふんだんに使ったスコーンがリリスの食欲をさらにそそった。

「じゃあいただくわね」

リリスは何の迷いもなくスコーンを食べた。口いっぱいに広がる甘味にリリスの顔はほころんだ。


サナは指先から、また新たな力が吸い込まれてゆく感触を楽しんで、微笑んだ。




それからしばらくして、ドアが開け放たれたままの家の居間でミリアムは見た。床に倒れている娘を。

すでに息はない。

周囲にはマルシェでかいだのとまったく同じ焼き菓子の薫りが残っていた。