真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS)  -7ページ目

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 9

指先からすうっと新たな”氣”が入る感触はどこか冷たい。死人の手を握ったような気持ちになる。


そしてそれはあながち間違ってもいなくて。



暗闇の中で放ったナイフは思ったより重い音を響かせ、垂直に三本突き立てられた。


まだサナには見えていない。明かりを落としているのだから。



これは実験とその確認。そしてすぐに結果は出た。


その”感触”と共に。



ジェフは保安官だったのだと長は話していた。

腕利きのナイフの使い手だったとかなんとか…。

それでジェフにさよならをしたとき、指先から新たな”氣”が入ってきたのね、と納得する。

ああ、それでよそ者のわたしを気にかけたのかしら? あの人。

そんなことも思った、ほんの一瞬だけ。


ランプの明かりをつけて、暗闇で放ったナイフを確認する。


確かに狙った通りの位置にそれは命中していた。



サナの新たな特殊能力は。



”倒した相手の特技を吸収できる”こと。

攻撃や防御に係わる能力は、それを持つ相手を倒したところで、”氣”という形でサナに取り込まれる。



サナが欲しいものはサムソンの膂力であり、パワーを生かした攻撃力そのもの。


サムソンへの雪辱が目的ではない。


本当の意味はサムソンの能力を自らのものにしてしまうこと。


そういったことでは、リリスもケイティもエヴァンも免れない。


これはもう歴戦の英雄たちとデーモン属との戦いに備えたことである。

惚れたのなんだの、そんなことはどうでもいい。



強さ。


力。


求めるものはそれ。



あとはいらない。



ランプの明かりがゴルドを照らした。

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 8


真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS) -20090603162302.jpg

マリアってイウ、寺院を飛び出した女のひとト一緒ダッタよ。


アレは夢だったのかな? 叢の中で昼寝シテたら、走ってきたマリアに抱きかかえラレテ彼女と旅スルことになったんだヨネ。


いつかってオレ思うンダ。


いつか、イツカ、オレもサナと離れてオレの旅に出るのカモしれない。


ソウシテ、いつの間にか、イツの間ニカ。


サナの敵にマワッテ、オレも倒されるのかなって怖いね。


マリアって人は間違いナクいるよ。サナとサムソンの決着ガついたら、出会うのかもな。


ってことはダ。



やっぱりサナが勝つのかな?


サムソンも強いけど、”昔カラきた”(オレはこう呼ぶヨ)奴等と闘うのナラ、サムソンには余裕デ勝たないとイケナイナ。


ソレトモもっと違うことを考えてるのカイ?


なんてパンを齧ってるサナを見て思ったよ。



SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 7

時折、祈りたくなることがある。


自分は何か大事なことを忘れている。それは誰かを傷つけることであるとわかる。


なぜだかわかる。


だから神に祈る。


リースロットの神に、故郷ぺケージャルの守護神に。


サムソンは次の戦闘はそうそう勝たせてはくれないだろう、もしかしたら敗れるかもしれない、そんな思いに苛まれていた。


手負いの獣は強い。


次は必勝を期してどんな手でも使うだろう。


そうなんだろう? サナ。


対戦相手、しかも女であるその名前を心の中で静かに呼んでみれば、夜の静寂がさらに深みを増して孤独という感覚で迫ってくる。


孤独。


俺にはいたんだ。リリスより前に、誰か、きっと恋人が。


彼女は誰で、今どこで何を思っているのか。


思い出せたのは”サナ”という名前。


(あの女、俺と闘って、死んだ。そのはずだ)



その考えが脳裏を過ぎったあと、惨殺された自分の姿がイリュージョンのように浮かんだ。


鍛錬しなくてはならない。


やっと自分を取り戻す。


自分は武術家だ。


ただ、目の前の敵を倒すだけだ。


そう思い、それに集中したかった。



失われた記憶に悩む日々は続く。それがサムソンの戦いでもあった。


真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS) 

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 6

翌朝、昼近くにならなければ開かないはずの酒場にサナは呼び出されていた。

サナは、昨晩ジェフという男が、村の外れで死んでいたこと(それで初めてサナはあの男の名がジェフということを知った)、さらに死体となって発見される直前までこの酒場で彼女と喋っていたことが他の利用客に確認されていることで尋問を受けていた。

サナを問い詰めるのは村の長。ありきたりで欠伸のでる思いだった。

酒場には立ち入り禁止の札が立てられていたが、外で村人たちが騒いでいるのが、分厚い樫の木でできた扉を通してでも伝わってくる。


今頃は宿泊した宿の自分の取った部屋を調べられているはずだ。ここには財布と口紅一本持って来ただけで、買い出しした缶詰めやら果実やらいじられているのだと思うと嫌気がさした。


何かみつかりました?

ここからそう呼びかけてやりたいくらいだ。


確かにジェフを『死なせ』た。


静かに対決に備えるサナは、自分の本来の塒や修行場を知られたくなかったし、過去の英雄たちがデーモン属との戦いに乗り出した今、もはや一般人に構っている必要はなかった。

むしろそこからあらゆる情報が洩れ、憶測が憶測を呼び、デーモン属との戦いに関係のないところで世界が揺れるのを避けたかった。


つまり、ジェフが彼女に目を付け会話を求めた時点で、彼の運命はリースロットを統べる者の行く先を妨げる障害物となっていたのである。


だから酒場を出て別れる間際にサナはジェフに向かって呪詛を唱え、一瞬で絶命させた。お別れの挨拶だった、それはまさしく。


問題は今のこの状況である。

ジェフを殺したことは認めるが、それだけではすまなくなってしまう。わかることは買い出し先がさらに遠くになる手間を受け入れ、村人を土地ごと消滅させることだ。


ゴルドお腹空かせてるだろうな。


かわいい猫のことを思ったら、この村に対する情のような感情は一気に薄らいだ。


ジェフを『死なせ』た昨晩のように。


尋問がうるさい。

何を聞かれているかなどと考えなくなった。


問いかけには呪詛で答えた。


サナはその日の夜遅く、買い出し袋を抱えてゴルドのもとへ帰った。


ゴルドに餌を与えると、自らはパンを頬張りながら、羊皮紙でできたこの近隣を示す地図を広げた。

いつも買い出しに行っていた村は今日で更地になってしまったのだから、次の買い出し先を探さなければならない。

SANA VS SAMSON "LAST EXIT" 5

二杯目のジュースが運ばれてきた頃、すでに陽は傾き、サナは今夜はこの村で宿をとるだろうと考え始めていた。


男の方は飲み物をすでにビールに切り替えていたので、頬はほのかに赤らみ、口調もかなりフランクになっていた。


「この世界を統括している者は神をも支配している」


そういったサナに、初めは笑ったものの、会話自体は面白く捉えた男は、サナともう少し話していたいと思ったのだ。


「神に毎日祈ることはない。週に一度寺院には行くが」


「こんな話をして、わたしが神に失礼だとは思わないの?」


男はビールの残りを呷って言う。


「家族に付き合ってさ。俺も信仰は持っているが、絶対ではないんだ」


「もう一杯飲めば?」


「そのつもりさ」


男はバーテンにビールを注文した。そうしてすぐにサナに尋ねる。


「そんな遠くじゃもう帰りは危険だろ? ここは宿屋も多いから、一泊して朝出かけるといい。すまんな、足止めさせて」


男は酔いながらも、すまなそうにしている。


「お気持ちだけで十分よ。わたしも今日はここに泊まろうかと思ってたとこだから気にしないで」


「神は・・・いや、違うな。神より上の存在ってあるのかい?」


男は運ばれてきたビールを受け取る。


「あるわよ。あなたの目の前」


一瞬の間。


そのあと男の笑い声。


「そうかい? 君が神様より上なんだな。でもいいよ。女性に支配されるのなら大歓迎だね」


サナも一緒になって笑った。


どこかこの男には嫌味がない。素直に会話を楽しんでいるようだ。



そんな人間を、サナは本当に羨ましく思う。


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


でもね・・・・・残念。


明日あなたは死体になるのよ。


わたしとリースロットに係わる話を知った人間は、信じる信じないとは別に、生きていられては困るの。


だから今夜は気の済むまで会話とお酒を楽しんでね。