真説ミリアムの魔術書・武術家たちの誇り (THE REAL FIGHTERS)  -45ページ目

女魔法使い カーラを追う


「この世界を創ったのは神だろう」


「神様も用意しているわ。でも創造主はわたし」


「わからん・・・」


気を失ったケイティも心配だが、この声はどこからくるのか。


「もう体は休めたでしょう。そろそろ次に行きましょう」


「闘いは終わったはずだ」


「前哨戦はね」


「なに?」


サムソンはいささか気を悪くした。命を懸けて、様々な記憶に襲われ、その中でいまだしっくりこないそんな穴だらけで、それでもなかったことになどできないサナとの戦闘を軽んじるのか。


「お前は誰なんだ?」


「もう言った。この世界を創った女よ」







「あなたはこの本を持って、まずはカーラという女の魔法使いを探しなさい」


「本・・・・」



”トレス”から姿を変えた”剣”のそばに一冊の皮表紙の本が現れた。


「あなたには魔力がない。だからそこに記されている内容を理解し術を使える者と行動しなければならない」


「勝手に決めるな。俺はここでやり直すと決めたんだ」


「どうかしら? もうひとつくらい山を越えてもらわないと、あなたみたいな男は同じ人生を繰り返すと思うわよ? その女の子はまたあなたに振り回されるわね、きっと」


サムソンはこの得体の知れない声に腹を立てることのないよう、自分に言い聞かせる。

不可解であると同時にそれはまったくもって”図星”だったからだ。



”この世界を創った女”


こうやって語りかけてくることが、常人とは異なる何かである証拠だろう。


普段のように殴ってすませられる相手ではない。

そもそも実体すら見えないのだ。



カーラ、と言ったな? 女の魔法使いだな?」


「その通り。・・・そうしたらやがてミリアムという女にも会うことになるわ。まずはそんなところ」


「・・・お前にはサナがどうなったかわかるか?」


突然、異なる話を振ってみた。

間違いなく知っているはずだ、この女ならば。



「そうね・・・・・いつでも実体化させてあげられるけど」


「どういうことなんだ? 生きているのか?」


「残念ですけど。ここでそのことを話しても、あなたはわたしとこうして会話したことを忘れ、自分にとっての”始まりの地”へ飛ぶわ。いつかまた会うんじゃない? それだけは言っておいてあげる」


「実体・・・・・」


瞬間、サムソンの姿が消えた。


皮表紙の本と共に。




やがてケイティが目を覚ました。


「こんにちは、ケイティ」


”この世界を創った女”は語りだす。







言葉は魔法


自分のことも大事だけど、知らない誰かのことも心配だわ。


誰がどうとか理屈ではないのね。


いつも心を痛めているわけではないけど、時々そんな気分になるならわたしは人間で、ちゃんと感情もあると安心もする。



魔女でいるときもそれは似ている。


言葉を発して奇跡を起こすのが魔法なら、倒れかけた人を言葉で起こすことも魔女の起こす奇跡だわ。



わたしは天使ではないし、ましてや悪魔になるほどの勇気もないから、”魔女”という属性でいい。






Miriam-magic-The-Witch

天の足枷 地の手枷


見えない縛めに戸惑う


見上げた空に月が浮かぶ


明るい太陽は消え


いつからここに留まっていたのかと首を傾げた



天と地に縛められたその枷は幻影のようで


月の光を浴びて消えた



自由になった手足をもって


月の光に導かれて歩く



また明日


再び太陽が昇るときまで




魂の抜け殻(真説ミリアムの魔術書)



サムソンはケイティの隣で”トレス”を弾いていた。


「あなたが楽器を使えるなんて意外」


「あの猫もそんなようなこと言ってたな」


「ゴルドのこと?」


「そうだ」


「月を見て憂鬱になる癖は?」


「今はもう平気だよ」


”トレス”を爪弾くサムソンの手が時折止まり、右側の手で拳を作って眺める癖は、サナとの対戦以来だ。

そのことにお互い気付いているし、理由もわかっているから悩む必要もなかったが、”不可解”という言葉は残る。



「・・・・・・ねえ、サナさんはあのあと、ほんとに、どうなったのかな? 猫もいなくなってたよね」

ケイティはサムソンの顔色を窺うように呟く。


もうこの疑問を幾度となく繰り返しているので、サムソンが怒りはしないかと。



コロッセオそのものは大半が崩れたものの、幸い戦闘に立ち会ったケイティたちに怪我はなかった。


サムソンは”トレス”を置いてぼんやり月を眺めて、そのまま言葉をつないだ。


「最後の一撃。あれで俺は勝ったんだ。サナは正面きって闘えば勝てないことを悟っていた。その分潜在能力をフルに使ったんだな」


最近の癖、右の拳を眺めるそれ。


「この手であいつの胸を貫いた。だがな」


”あるべきところに心臓がなかった”でしょう?」

ケイティが続ける。


それは不思議なことだったが、サムソンはあの闘いから怪我と疲労がおさまってくるのと同時に、サナが口にした言葉や、存在そのものの不可解さに苛まれていた。


「もしかしたら俺とあいつは、まず”会話”をしなければいけなかったのかもしれん」


「そう?」


「俺とサナの共通点があったんだよ」


「え?」


”寂しくない”って俺、ずっと言ってた。なぜだかわかるんだが、あいつもそうだったんじゃないかな? 猫と一緒でも埋められないものがあってさ。今では想像するしかないが」


「今も寂しい? あなたは」


「いいや、ケイティがいるからな。寂しくないんだよ。ほんの少し前の俺はやっぱり孤独だった。それを平気だと自分に言い聞かせるためにあえて単独行動をとっていたんだ。自分に念を押すように」


「かえって寂しいな、わたしなら」


「そうなんだよ。それを素直に認められるのも強さだ」




心臓のなかったサナ。



心を表現するとき、人はよく胸に手をあてる。

ちょうど心臓のあたりに。



サナはリースロットの存在ではなかったのだから、どんな解釈でもできるだろうが、闘ったサムソンにはずっとサナが泣きそうな心でいたように思える。


コロッセオから避難するときには倒れたはずのサナはいなかった。


そしてサムソンの、サナにとどめを刺した右手には、いまだ”生”を感じさせない無表情な心と体の感触が残っている。



サナは一体?


泣くと言っていたな。寂しくないと言い張っていたんだろうな。


闘う以外になかったのか?



「あ・・・・・・・」


いつの間にか考え事に集中していたサムソンの耳に、ケイティの声が届いたときには。


彼女はすでに気を失っていた。


「大丈夫か? どうした?」


ガタン、と音を立てて”トレス”が床に倒れた。


それは。


サムソンの目にもはっきりと、”剣”の姿に変貌した。






”勝利おめでとう、サムソン”


声がした。


「誰なんだ?」


”この世界を創った女よ”



新しい旅が始まる。






その前にちょっと種明かし





この物語をイメージしやすくするなら、たとえばSANA VS SAMSONはカードゲーム”マジック・ザ・ギャザリング”に近い。


お互いに手札を持ち、駆け引きに似た闘いをする。

一対一にはうってつけゲームですね。


だから傍観者側だけでなく、本人たちですらも何が起こるかわからないのです


「間違いなく何かがくる、でもそれが何かはわからない」




サナがやろうとしたことは”ファイアボール”というカードを手元に残し、枚数を集めるだけ集めて最後にぶつける。これが”気を練る”、”魔力を溜める”に当たります。(そのゲームにおけるこの手はレジスト不可能)。



ただ、彼女(わたし?)は、”武術家”でありたい一心でそのカードを自ら棄てました。

そんなイメージです。


だからわたしは様々な絵や画像を集めて、そこに言葉を添えるという書き方をしてきた。



これから先はオンラインゲームなどのハードを使うゲームとは異なり、 ”TRPG”(テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム)のように書き手がそのままゲームマスターとなる。だから、読んでくださる方々も、また、登場人物たちですらも、


「これからどうなるの?」


と感じる、もしくは感じてきたのかもしれません。




それで言うなら、サナとサムソンもまたテーブルトークと同じに表現できるかもしれません。



サナはBruja(Miriam-magic-The-Witch)が操るNPC(ノンプレイヤーキャラクター)として現れたので、誰も彼女のことをわからない。



この例に挙げたふたつのゲームを経験したことのある方ならば、リアルな世界にいながら、いつの間にか仮想の世界の登場人物に、自分自身がなったような気持ちになるのではないかしら?


そんなことを思います。







*例にあげたゲームをご存知でない方にはかえってわかりづらいかもしれません。その点をお詫び致します。