定期的な名古屋医療センター受診 その1 | 太閤クリニック

太閤クリニック

TAIKOH neurosurgical service

7月19日(水曜日)名古屋医療センターの神経内科 小林 麗先生の定期受診の日である。先生の指示でその日までクリニックで療養していた。

麗先生「どうですか?不随意運動や先生のおっしゃる発作の前兆の前兆あります?」

私「全くありません。よく食べるようにしてよく眠るようになったらら調子がよくなりました。薬の調節とストレスから離れるようにしていたからだと思いす。」

麗先生「それはなにより。明日からでも診察を再開してもいいですよ。ただストレス(ここには書かない。)からは離れることよ。良く寝てね!」

睡眠の効能は良くわかっていなかった。ただ疲れを取るくらい??最近の新説だが「睡眠中も脳は活動していて、前日の記憶やストレスを調整しているらしい。」参照した。英語の論文はたくさんあるが読みにくかろう。日本語で読みやすいものを提示する。

睡眠と心身の健康

井 谷 修 日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野

Sleep and Physical/Mental Health

Osamu ItanI
Division of Public Health, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine

This paper reviews some of the representative epidemiological evidence for the relationship between sleep and physical and mental health. Sleep has elements of quantity (sleep duration), quality, and rhythm, and the evidence is summarized by focusing on abnormalities of each element. Regarding sleep duration, we present the results of a systematic review and meta-analysis of short sleep duration and health outcomes. Similarly, the results of a study on longer sleep duration and health outcomes are also presented. Regarding abnormalities in sleep rhythms, a systematic review and meta-analysis of systematic reviews and meta-analyses conducted on shift work and var- ious health outcomes are reviewed to examine the evidence. The relationship between sleep and mental health is discussed in terms of the relationship between sleep and depression in previous epidemiological studies. Based on the findings from these observational epidemiological studies, future research is expected to be based on sleep hygiene education and intervention studies aimed at improving health by improving sleep.

Key words: depression, insomnia, meta-analysis, shift work schedule, systematic review うつ病,不眠症,メタアナリシス,交替制勤務,システマティックレビュー

1.は じ め に

 睡眠は最も身近で人間誰しもが日々経験している生活
習慣であるが,医学の歴史において健康への重要性が認
識され,疫学・生理学などの分野で研究が進展したのは
ごく最近のことと言ってよい.睡眠は単に「なにもして
いない」時間ではなく,人間の心身の健康を維持する上
で非常に重要なものであることが,近年徐々に明らかに
されてきており,睡眠と心身の健康について様々な有力
なエビデンスが示されてきている.本項では,睡眠にお
ける研究のうち,特に疫学の分野で得られているエビデ
ンスについて,代表的なものを紹介する.

2.睡眠時間と健康アウトカム

睡眠に関する疫学研究において,睡眠時間と各種健康 アウトカムに関する研究は,最もポピュラーなものの一 つであると言える.1990 年代初頭より睡眠時間と死亡 や肥満・高血圧・糖尿病といった各種の生活習慣病との 関連について,様々な疫学研究が現在までに精力的に行 われてきている.これら個々の研究についての結果につ いては,睡眠時間と各種健康アウトカムについて有意な 関連が認められたとする研究もあれば,有意な関係は認 められなかったという報告もあり,必ずしも一致するも のではない.近年,過去に行われた個々の疫学研究を体系的・網羅的にまとめたうえで,質的・量的な結合を行 い,より強力なエビデンスを提示する「システマティッ クレビュー」や「メタアナリシスの」手法を用いた疫学 研究も行われている.筆者らは,短い睡眠時間と死亡リ スク・各種動脈硬化性疾患との関連について調査された 過去の縦断研究を集約し(縦断研究のみ集約した理由は 睡眠時間と健康アウトカムの因果関係について研究デザ インの面で整合性を取るためである.研究デザインとし て横断研究では因果関係について言及することができな い),統一的かつ強固なエビデンスを提示するべく,シ ステマティックレビューおよびメタアナリシスを行った1). 短い睡眠時間と死亡リスクとの関連について調査された 先行縦断疫学研究は 38 編を同定し,そのうち 36 編につ いてメタアナリシスを行った結果,通常睡眠時間に対す る短時間睡眠での死亡の相対危険度は 1.12(95%信頼区 間 1.08–1.16)と有意にリスクが高まっていた (Fig. 1). また,メタ回帰分析により,6 時間未満の睡眠では死亡 リスク増加との相関が有意であり,さらに定義時間が短 くなるとこの相関が強くなることが示された.同様の手 法を用いて,短い睡眠時間と他の健康アウトカムについ ても可能なものについてメタアナリシスを行った結果, 糖尿病,高血圧,心血管疾患,脳卒中,冠動脈疾患,肥 満について,短時間睡眠が有意な発症リスク要因となっ ていることが認められた.更に,同じ手法を用いて,長

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Fig. 1 Meta-analysis of short sleep duration and total mortality risk. (This figure was drawn by the author using data from the cited article1).)

時間睡眠と各種健康アウトカムについてもシステマティッ クレビューおよびメタアリシスを行った2).その結果, 137 編の研究を同定し,可能なものについて量的結合で あるメタアナリシスを行った.その結果長い睡眠時間は, 死亡,心血管疾患.脳卒中,冠状動脈性心臓病および肥 満の新規発症リスクを有意に高めているという結果を得 た.

以上の結果を考え合わせると,極端に短い睡眠時間 や,逆に長い睡眠時間は,各種疾病の発症にとって高リ スクであるといえる.この生理的メカニズムは現時点で は不明であるが,疫学研究結果の見地から言えば,健康 にとって最良の睡眠時間は大体 6 ~ 8 時間くらいという ことが示唆される.この事実は,適切な睡眠時間の指導 を行う上で有用であろう.

3.交替制勤務と健康アウトカム

睡眠を構成する要素として,量(時間)・質・リズム の 3 つの要素があると考えられている.睡眠時間と健康

アウトカムについての先行研究の報告に関しては先程の 項で述べたとおりであるが,睡眠リズムと健康の関係に ついても疫学研究が行われてきている.具体的には,睡 眠リズムの乱れ・変調を来すものとして,労働者の勤務 形態における「交替制勤務」と各種健康アウトカムの関 係について,疫学研究が行われてきている.近年の社会 的な 24 時間稼働に伴い,交替制勤務の需要が高まって いる一方で,交替制勤務が健康に及ぼす影響が懸念され ている.交代制勤務によるサーカディアンリズムの乱れ により様々な心身の健康への悪影響がおこることが示唆 されており3),疫学的な研究が進められてきた。

筆者らは,交替制勤務と各種健康アウトカムの関係に ついて,先行研究のエビデンスについて検証した.具体 的な手法としては,交替制勤務と各種健康アウトカムに ついて体系的にまとめられたシステマティックレビュー・ メタアナリシスについて,データベース (MEDLINE) を 用いて検索・同定を行った.その結果,28 編の研究を 抽出した.内訳としては睡眠障害が 2 編,癌が 7 編,

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内分泌代謝疾患が 7 編,生殖が 7 編,心血管系疾患が 4 編,消化管疾患が 1 編であった.そのうちメタアナリシ スによる量的結合にて有意にリスクが上昇したことが報 告されている疾患は,乳癌,糖尿病,早産,流産,低体 重出生,子宮内発育遅延,生理不順,不妊症,虚血性 心疾患(心筋梗塞),虚血性脳卒中 があった。有意なリ スク上昇の研究報告のある疾患として睡眠障害 , 前立腺 癌,体重変化,メタボリックシンドローム,多胎妊娠, 消化器疾患があった.

交替制勤務による健康障害発生のメカニズムについて は以下の機序が想定されている4).交替制勤務は多少の 個人差(年齢や性格や睡眠特性など)はあるが,睡眠制 限やサーカディアンリズムの乱れを招く.睡眠制限は神 経内分泌ストレスや免疫反応や酸化ストレスを引き起こ す。サーカディアンリズムの乱れも免疫反応や酸化スト レスを引き起こす。更に神経内分泌ストレスは,コルチ ゾールやカテコールアミンの上昇により高血圧を引き起 こし,結果的に心血管疾患の発症リスクを高める.免疫 反応は,白血球や炎症性サイトカインや C 反応性タン パクを上昇させることにより炎症をもたらし,動脈硬化 を促進させ,心血管疾患の発症リスクを高める.また, 免疫反応は NK 細胞活性を低下させ,免疫防御が低下 し,発がんリスクを高める.酸化ストレスは酸化促進状 態を高め,抗酸化作用を低下させることにより,動脈硬 化を促進させたり発がんリスクを高めたりする.

 交替制勤務が以上のような各種疾病のリスクになりう
ることが示されており,労働衛生上充分に考慮する必要
があると思われる.疾病リスクが高いグループへの就業
配慮や交替制勤務のシフトスケジュールをより健康リス
クの小さいものにする検討も必要であろう.

4.不眠症とうつ病

睡眠の「質」が低下する代表的な疾患として,「不眠 症」がある.不眠症の症状として一般的には,寝付きに 時間がかかる(入眠障害),夜中に何度も目が覚める(中 途覚醒),朝早く目覚めてしまう(早朝覚醒)がある5). 不眠症との関係が深い精神疾患として,「うつ病」が挙 げられる.DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアルに おけるうつ病の診断基準においても「ほとんど毎日の不 眠」が条件の一つとして入っている6).また、うつ病に おける不眠症の頻度は実に 84.7%と高い水準にあったと の報告もある7).不眠症とうつ病の疫学研究としては, Chang らが,Johns Hopkins 大学の卒業生 1,053 人の卒業 生を平均 34 年,最長 45 年間追跡した研究がある8).こ の研究によると,学生時代に不眠を有する場合,その後 にうつ病を発生するリスクが有意に高かった.更に,う つ病は追跡開始より 18 年以降に発症している対象者が 多かった.この長い期間を考慮すると,不眠とうつが同 一の病態に含有されると考えるより,不眠を有する対象

Fig. 2 Time of appearance of insomnia symptoms in depression.

者においては,新たな病態であるうつ病が発生しやすい と解釈したほうが自然である.更に,不眠症とうつ病発 症の縦断研究についてのシステマティックレビュー・メ タアナリシスでも,不眠症が将来的なうつ病発症リスク を有意に高めていたことが報告されている9).このこと より,不眠症はうつ病発症の危険因子で有ることが示唆 される.また,観察期間が 1 ~ 3 年と比較的短いいくつ かの研究においても,不眠症とその後のうつ病の発症が 有意に関連していたことが報告されている10–12).この場 合は,観察期間が短いということで,うつ病と不眠は同 一の病態と考えた方がより自然であり,不眠症がうつ病 発症の前駆症状であることが示唆される.また,不眠症 がうつ病における最も大きな残存症状であることや13), 不眠症状の残存がある場合うつ病の再発リスクが高くな ることも報告されている14).以上のことを考え合わせる と,不眠症はうつ病にとって,危険因子であり,前駆症 状であり,併存症であり,残存症状でもあるといえる (Fig. 2).更に,Morphy らの研究では,調査開始時のうつ病 の存在が将来的な不眠症の発症に有意に関連していたこ とを報告しており15),うつ病は不眠の前駆症状であるこ とも示唆されている.不眠症はうつ病の前駆症状であり, うつ病は不眠症の前駆症状であるということは,不眠症 とうつ病の関係性は一方通行というよりも,両方向の関 係性があることが考えられる.

以上のように,不眠症とうつ病の関係性は非常に多彩 なものであることがわかってきている.日常の診療にお いて役立つポイントとしては,うつ病の診療を行う際 に,不眠症の存在について意識することが重要であると 思われる.うつ病にとって不眠症は発症予知,重症度の 把握,予後予測,治療効果の評価など,様々な点で有用 なマーカーとなり得る.特に,うつ病についての予防医 学的観点で言えば,一次・二次・三次予防の重要なター ゲットである.

5.今後の展望

以上のとおり,睡眠と心身の健康の関係について,様々

 

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な疫学的エビデンスが蓄積されてきており,今後のさら なる発展が期待されている.国民の健康の向上を図る際 に,「睡眠」を核にして様々な政策を考えることは,様々 な関連疾患を同時に改善できる可能性があり,効率的な 面から見ても有用であろう.また,疫学的研究面から考 えた場合の次の段階としては,介入研究の進展が期待さ れている.一般的に疫学研究においては「疫学の 3 段 階」という概念がある.第 1 段階は横断研究により有症 率や罹患率などが求められる「記述疫学」であり,第 2 段階はコホート研究や患者対照研究といった「分析疫 学」であり,第 3 段階は何らかの要因を与えたり除去し たりしてその後の健康事象を観察する「介入研究」であ る。本稿において紹介してきた研究は主に第 2 段階まで のものであるが,最近睡眠の領域でも第 3 段階である「介 入研究」が行われてきている.これまでも,睡眠そのも のの改善を目的とした介入研究としては薬物による介入 や非薬物療法である認知行動療法による介入研究が行わ れているが,アプローチとしては特定の集団・患者群に アプローチするいわゆる「ハイリスクアプローチ」が主 である.最近はこういったハイリスクアプローチのみな らず,睡眠衛生教育などの手法を用いて一般集団を対象 に広くアプローチする「ポピュレーションアプローチ」 による睡眠改善効果を検証する介入研究も徐々に行われ てきている.更に,睡眠そのものの改善を目的とした介 入に加えて,睡眠状態の改善が実際の健康アウトカムの 改善をもたらすのかどうかの検証も今後の介入研究とし ては必要であると思われる.

本論文については,著者の COI 無し. 文 献

1) Itani O, Jike M, Watanabe N, et al. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta- regression. Sleep Med 2017; 32: 246–256.

2) Jike M, Itani O, Watanabe N, et al. Long sleep duration and health outcomes: A systematic review, meta-analysis and meta- regression. Sleep Med Rev 2018; 39: 25–36.

3) Vogel M, Braungardt T, Meyer W, et al. The effects of shift work on physical and mental health. Journal of neural trans- mission (Vienna, Austria: 1996) 2012; 119: 1121–1132.

4) Faraut B, Bayon V, Leger D. Neuroendocrine, immune and oxidative stress in shift workers. Sleep Med Rev 2013; 17: 433–444.

5) 清水徹男.【不眠症】概念 不眠症の現状と問題点.ク リニシアン 2012; 59: 106–111.

6) Diagnostic and statistical manual of mental disorders: DSM-5. 5th ed. ed. Arlington, VA: American Psychiatric Association; 2013.

7) Sunderajan P, Gaynes BN, Wisniewski SR, et al. Insomnia in patients with depression: a STAR*D report. CNS spectrums 2010; 15: 394–404.

8) Chang PP, Ford DE, Mead LA, et al. Insomnia in young men and subsequent depression. The Johns Hopkins Precursors Study. Am J Epidemiol 1997; 146: 105–114.

9) Baglioni C, Battagliese G, Feige B, et al. Insomnia as a pre- dictor of depression: a meta-analytic evaluation of longitudinal epidemiological studies. J Affect Disord 2011; 135: 10–19.

10) Breslau N, Roth T, Rosenthal L, et al. Sleep disturbance and psychiatric disorders: a longitudinal epidemiological study of young adults. Biol Psychiatry 1996; 39: 411–418.

11) Ford DE, Kamerow DB. Epidemiologic study of sleep distur- bances and psychiatric disorders. An opportunity for preven- tion? JAMA: the journal of the American Medical Association 1989; 262: 1479–1484.

12) Roberts RE, Shema SJ, Kaplan GA, et al. Sleep complaints and depression in an aging cohort: A prospective perspective. The American journal of psychiatry 2000; 157: 81–88.

13) Fava GA, Fabbri S, Sonino N. Residual symptoms in de- pression: an emerging therapeutic target. Progress in neuro- psychopharmacology & biological psychiatry 2002; 26: 1019– 1027.

14) Tranter R, O’Donovan C, Chandarana P, et al. Prevalence and outcome of partial remission in depression. Journal of psychi- atry & neuroscience: JPN 2002; 27: 241–247.

15) Morphy H, Dunn KM, Lewis M, et al. Epidemiology of in- somnia: a longitudinal study in a UK population. Sleep 2007; 30: 274–280.

(J. Nihon Univ. Med. Ass., 2020; 79 (6): 333–336)

本日はここまで…