先日のこと、朝起きると枕元に見覚えのない紙袋。
中を見ると、ワインが1本。
二日酔いの頭の中に垂れ込めた霧の彼方に記憶が蘇る。
昨夜は銀座のフレンチでかなり飲んでしまった。
その帰り道、駅のKALDIにふらりと立ち寄り、棚に並んだワインを見て歩いた。
すると、一本のワインに目が釘付けになった。
ラクリマ・クリスティ、キリストの涙という名のワイン。
彼女と出会い、初めての誕生日。
六本木のクラブの個室を借り切り、二人だけで彼女の誕生日のお祝い。
個室は30畳ほどの広さがあり、西洋の館の書斎風。
壁には羊皮紙の本が並び、部屋の真ん中のテーブルを重厚なソファーが取り囲む。
馴染みの支配人が気を利かし、部屋の天井には色とりどりのバルーンが浮いている。
料理はイタリアンのフルコース。
最初のボトルはシャンパーニュ。
二本目は支配人お薦めの赤、ラクリマ・クリスティ・デル・ヴェスヴィオ。
軽い赤なので不安に思ったが、これは美味しいですので飲んでみて下さいとのことだった。
その言葉通り、素晴らしいワインだった。
先日のこと、「貴方に初めて誕生日のお祝いをしてもらった時のラクリマ・クリスティ、美味しかったわね」と彼女が一言。
酔っていても、それが頭に残っていた。
そこで迷わず購入したことを思い出した。
ラクリマ・クリスティの名前の由来は興味深い。
その昔、神によって天国から追放された大天使サターンは天国の土地の一部を持ち去りました。逃げる途中サターンは盗んだ土地を地上に落としてしまい、その場所にナポリの街ができました。そしてナポリの人々は、悪徳の限りを尽くすようになったのです。その悲惨な様子を天上から眺めたキリストは、悲しみのあまり涙を流します。その涙が落ちたヴェスヴィオ火山の麓にぶどうの樹が生え、そのぶどうから素晴らしいワインが生まれたのです。
ゲーテがイタリアを旅した時にラクリマ・クリスティを飲んで気に入り、「サターンにドイツにも土地を落としてもらいたかった」と語ったそうだ。
ラクリマ・クリスティのぶどうは、”ピエディ・ロッソ”=”赤い足”、つまり”鴨の足”という面白い名前。
このぶどうの葉っぱの形が鴨の足に似ているのだそうだ。
日本でも、京都には”鴨足”という苗字があり、これで”もみじ”と読む。
中国では”鴨の足”は”ヤーチャオ”で、”銀杏”のこと。
韓国では”銀杏”は”ウネン”と発音し、”銀行”と同じ読みである。
話しがどんどんそれてしまったが、抜栓。
すると、白ワイン?!
ボトルをよく見直すと、ビアンコと書かれている。
そこで翌々日、再び銀座で飲んだ帰り道、同じKALDIにロッソを捜しに行った。
そして追い打ちのショック。
ロッソは無くビアンコだけだったが、ワインにはセールの札が掛けられ、先日購入した時より200円も安くなっていた。
”酔ってワインを買うべからず”、という教訓になりました。