今夜は彼女を誘って、 初めての店に行く。
友人から、和食とフランスワインのマリアージュをコンセプトにした店があると聞いたので、試してみることにしたのだ。
秋葉原駅からすぐの、昭和通りに面したビルの地下にある。
階段を下りドアを開けると、和服姿の素敵な女性が迎えてくれる。
奥にはテーブル席もあるが、カウンター席を予約しておいた。
最初の白は、ロワール川河口、ナント周辺のワイン、ミュスカデを選ぶ。
久し振りに飲むミュスカデは、キリリと締まった、そしてしっかりとした深みと熟成感を持つなかなかの出来。
造り手は、ドメーヌ・ピエール・ルノー=パパン、別名ドメーヌ・ピエール・ド・ラ・グランジェ。
18世紀から続く名門ドメーヌである。
ワインの名前は、ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー・キュヴェ・ル・エル・ドール。
発酵したワインを澱に触れさせて熟成させる、シュール・リーによる、素晴らしい白。
彼女も美味しいと言う。
初めての店の訪問は期待と不安と共に始まるが、今夜のスタートは上々とひと安心。
お通しは、タラのホホ肉の唐揚げ、ふぐの煮こごり、出汁巻き玉子。
金目鯛も真鯛も、そして鯖も美味い。
これは目利きが選んだ魚だ。
春菊の天麩羅が添えられているのが気が効いている。
でもジューシーなのでどんどん箸が進む。
ルモワスネの、サヴィニー・レ・ボーヌ、2000年。
ルモワスネは、1877年創立のボーヌのネゴシアン。
豊富な資金力を背景に、地下カーヴに100万本の在庫を有し、熟成を待って最高の状態で出荷している。
これは伝統的な造り方のサヴィニー・レ・ボーヌ。
口に含むと、まさにピノ・ノワール。
決して強くは無いが、ぶどうの果実味を大切にし、円やかな酸とタンニンを上手くバランスさせている。
飲んでいる内に、複雑なニュアンスが息を吹き返し、表情が変わっていく。
ブルゴーニュのピノの楽しさを満喫する。
あれ、ここは和食のお店だったはず。
そうか、カルパッチョではなく、たたきなのだ。
彼女は苦手な食材だが、フォアグラを大根に乗せて食べると、脂っこさが消えて美味い。
もう充分に飲んでいるが、目の前に置かれているマールから目が離せなくなった。
ドメーヌ・デュジャックの、マール・ド・ブルゴーニュ・オール・ダージュ。
1985年に生産が終了した、デュジャックの幻のマール。
テーブルの色と重なりマールの色合いがわかりにくいが、綺麗な琥珀色をしている。
オーク樽で熟成させているのだ。
立ち昇る芳香。
骨太で、しかもスムースなボディ。
久し振りに飲む素晴らしいマールである。
あれ、ここは和食のお店のはず、とまた思ってしまうが、和食とフレンチを融合させたような、とにかくワインとの相性が素晴らしいお店、『葡萄屋』。
シニアソムリエの福永さん、ソムリエールの山川さん、大変お世話になり、ありがとうございました。