ANAでシンガポールに飛んだ時のこと。
ニュージーランドの南島、マールボロにあるマウント・ネルソンというワイナリーのソーヴィニヨン・ブランである。
マールボロ地区は、世界で最もソーヴィニヨン・ブランの生産に適している産地のひとつと言われており、モエ・エ・シャンドン・グループもここでクラウディ・ベイという素晴らしいソーヴィニヨン・ブランを生産している。
マウント・ネルソンといえば、イタリアの名門、アンティノリ家の一員、ロドヴィコ・アンティノリがニュージーランドに設立したワイナリーである。
ロドヴィコ・アンティノリと聞いて、オルネッライアを思い出す人は、なかなかのワイン通である。
ロドヴィコ・アンティノリが、トスカーナのボルゲリにテヌータ・ディ・オルネッライアを設立したのは、1981年のこと。
そして、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローから造られるオルネッライアは、あっという間にスーパー・トスカーナの仲間入りを果たす。
ところで、ロドヴィコの兄、ピエロ・アンティノリ侯爵も、ソライアという素晴らしいスーパー・トスカーナを生産している。
さらにロドヴィコは、コンサルタントにミッシェル・ロランを招き、単一畑のメルロー100%で、偉大なワイン、マッセートを世に送り出した。
その後、ロドヴィコは兄ピエロと共に、ボルゲリに新しいワイナリー、テヌータ・カンポ・ディ・サッソを1995年に設立した。
そしてミッシェル・ロランを迎え、イル・ピーノ・ディ・ビセルノというメルロー主体の素晴らしいワインを生み出している。
その一方で、ロドヴィコは2002年に、超有名ワイナリーに成長していたオルネッライアを、カリフォルニアのワインの帝王、ロバート・モンダヴィに売却してしまう。
そしてロバート・モンダヴィは、2005年にオルネッライアをマルケージ・ディ・フレスコヴァルディに手放してしまう。
つまり、ロドヴィコが育てたオルネッライアは、トスカーナにおけるアンティノリ家の最大のライバル、フレスコヴァルディ家の所有するところとなってしまったのだ。
テヌータ・カンポ・ディ・サッソはその後も順調に素晴らしいワインを生産しているが、2009年に名前をテヌータ・ディ・ビセルノに変えている。
マウント・ネルソンを味わって、こんなことを思い出してしまった。
「ワインは頭で飲むのではなく、心で飲むものである」と常々言っているのに、今夜は蘊蓄を語ってしまった。
さて、無用の蘊蓄を洗い流すため、今から飲むワインを選ぶとしよう。