さて、会議も終盤に近づき、余裕も出来てきた。
そこで今夜は、ブラジル人の友人を誘って、『マイ・ハンブル・ハウス・シンガポール』に行くことにした。
東京では良く行く『マイ・ハンブル・ハウス』。
でも、シンガポールの本店は初めてなのだ。
友人に、「今夜はどんな料理なのか」と聞かれ、「フレンチ・シノワ」と答える。
友人は怪訝な顔で、「何故、中華がフレンチなのか?」と更に問いかける。
「食べてみればわかるよ」と答えながらも、本当にどんな料理に出会えるのか期待と不安が入り混じる。
店のモダンな造りに、友人も驚き顔。
「これ、本当に中華なの?」
窓の外には対岸のビル群が聳え立ち、右手の林の先には小さくマーライオンが見えている。
「こんな内装で驚いちゃいけない。サム・レオンの中華は特別だよ。今夜はシェフのお勧めを頼んだから、何が出てくるか楽しみだね」
早速白ワインで乾杯し、前菜が運ばれてくるのを待つ。
マウント・ネルソン、ソーヴィニヨン・ブラン、2008年。
ニュージーランドの南島、マールボロー地区のワインである。
華やかなフルーツの香りを持つが、最初は冷え方が足りなかったため、甘味が前面に出てしまった。
しばらく多めの氷に付けておいたらボディが引き締まってきたが、その頃にはもうボトルはほとんど空になってしまった。
西瓜の上に、フォアグラのソテーが乗って出てきた。
フォアグラの濃厚な味と西瓜の淡白な味とが調和して、これはミスマッチングな素材が生み出した、素晴らしいハーモニー。
急いで辛口の白に切り替える。
今度は、南アのレオパーズ・リープ、シュナン・ブラン、2009年。
これは極めてドライで、料理によく調和する。
友人は、ワールド・カップの話に夢中になっていたところだったので、南アのワインに大喜び。
次の皿は、ふかひれのクリームソース煮。
たっぷりのフカヒレに、薄味のソースがよく調和している。
次の料理にも驚いた。
フライドポテトを束ねたような盛り付けだが、中身は鱸のフライ。
白身が旨い逸品である。
エノキの牛肉巻き。
これがサム・レオンの創作なの?
でも、中華には無い料理なのだろう。
とても良い牛ロースを使っていて、美味い。
ここで赤に切り替える。
オーストラリアのミトロ・ワインズが生産する、ジェスター・シラーズ、2007年。
ぶどうの20%を陰干しして造る、濃厚なボディのシラーズ。
アルコール度数は、14.5度。
友人も、これは美味いと高評価。
そしてメインは、ラムのグリル。
ここは本当に中華なのかと、友人が再度確認してくる。
私も自信無さげに、そうだと答える。
メインで終わりかと思いきや、大きなカクテル・グラスで出された料理は、冷やしそうめん。
店のスタッフは、「うどん」と説明したが、これはうどんだしに入ったそうめんである。
なるほど、シンガポールの『マイ・ハンブル・ハウス』では、中華、フレンチだけでなく、和食の融合をも狙っているのか。
チョコレート・ケーキとバニラ・アイスクリームが、テーブルを覆い尽くすドライアイスの煙と共に運ばれてきた。
今夜の趣向には、こんな店はリオデジャネイロにも無いと、友人も驚きの連続。
とにかく楽しいシンガポールの夜でした。