ある冬の日曜日、ミラノから車を走らせ、国境の街、トリエステに到着した。
日曜日の夕方の街は寒く、見掛けるレストランはどこも閉まっていた。
市庁舎のそばの、小さな古いホテルでチェック・インを済ませると、どこか開いているレストランを教えてくれと頼んだ。
冬の日曜日の夕方である。
良い店は期待していなかった。
読みづらい手書きの地図を頼りに数分ほど歩くと、港に面した一軒のレストランに、明かりが灯っていた。
ドアをくぐると、ホテルから連絡を受けていた店の主人が暖かく迎えてくれた。
私はイタリア語ができない。 主人は英語がわからない。
お腹が空いたので、何か美味しい食べ物とワインが欲しいと身振り手振りで伝えると、主人は私を厨房に案内し、氷に漬けられた魚介類を見せてくれた。
大振りの素晴らしいスカンピを見つけ、早速焼いてもらう。
スカンピは、日本ではアカザエビ。
ついでにフランスではラングスティーヌ。
私の好物だ。
ワインは主人が選んでくれた。
良く冷えたソーヴィニヨン・ブランは華やかなブーケを持ちながら、キリリと辛口で素晴らしい出来である。
樽を効かせず、ぶどう本来の果実味がギュッと詰まっている。
フリウリには優れた造り手が多く存在するが、私が好きなのは、リス・ネリス・リス。
リス・ネリスはスロベニアとの国境近くにあるワイナリーで、創業は1879年。
リス・ネリス・リスはシャルドネとピノ・グリージョから造られ、その年のぶどうの出来によって配合は変えられている。
「リス・ネリス」とはフリウリ地方の方言で、イタリア語では「レ・ネーレ」、つまり「黒い女性たち」との意味。
戦争で男たちを失い、黒い喪服の女性たちがぶどう畑の仕事を行ったことからこの名が付いたそうだ。
トリエステは、アドリア海に面した国境の軍事拠点。
今はイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の州都だが、長い歴史には常に戦争があった。
共和制ローマ、西ローマ帝国、東ローマ帝国の軍事拠点として栄え、その後は隣国ヴェネツィアとの戦争。
そしてフランク王国、オーストリアと所属を変え、イタリアに併合。
第二次世界大戦後はチトー率いるユーゴスラビアに町の半分を占領され、1954年にイタリア返還。
でも、ローマ時代の円形劇場や、古い教会、城砦が数多く残る素敵な街でもある。
皆さんも、白ワインを愉しみに、一度訪問されてはいかがでしょうか。