海外から帰国すると、鮨を食べたくなる。
日本に居る時は、何時もイタリアン、フレンチ、カリフォルニア料理を食べ歩いているのに、海外から成田や羽田に到着すると、何故か鮨屋に行きたくなるのだ。
成田から彼女に連絡し、東京駅で待ち合わせることにした。
電車の中で、どの鮨屋に行こうかと思案する。
時間があれば浅草の先の『鮨勝』(今戸)が美味くて良いのだが、東京駅からだちょっと遠い。
南青山の『花井』のカウンターも好きだが、やはり遠い。
日本橋の老舗、『蛇の市』も美味い江戸前だが、ワインを置いていないので、彼女と一緒のときは行きづらい。
『蛇の市』に行く時は、三越本店で冷えたシャンパーニュか白ワインを仕入れて行くのだが、今夜はそんな時間的余裕が無い。
という訳で、東京駅から車でそんなに時間のかからない六本木に行くことにした。
『琴』(六本木)のカウンターに陣取ると、早速ワイン選定に取り掛かる。
食事は、席を予約する時に、板さんのお任せを頼んである。
選択に迷っていると、店長がリストに無い、私達が好きなシャンパーニュを特別に出してくれるという。
出されたボトルは、ペリエ・ジュエ、ベル・エポック、2000年である。
彼女は、今夜は鮨よりもフレンチかイタリアンの方が良かったようで、少し不機嫌気味。
ところがベル・エポックを見た途端、急に明るくなり、顔が輝いた。
ベル・エポック、”美しき良き時代”、まさに彼女にお似合いのシャンパーニュだとつくづくそう思う。
今までは1999年のヴィンテージだったが、もう2000年に切り替わったようだ。
お通しは、ほうれんそうのおひたしと、つぶ貝。
続いて、旬の刺身、そして鱈の白子に鰤大根。
帆立の安倍川が出されるときに、赤ワインに切り替える。
赤は、和食に合わせ、強いものは避ける。
そして選んだのは、シャンドン、ピノ・ノワール、2008年。
今まではグリーンポイントと呼ばれていたが、このヴィンテージからシャンドンと名前が変わった。
シャンパーニュの大御所、モエ・エ・シャンドンがオーストラリアで経営するワイナリーである。
さすがモエ・エ・シャンドン。 ピノの奥深い味わいがしっかりと乗った良い出来である。
彼女も今夜のワインの選択には満足の様子。
私はずっと日本に居たのに、何故お寿司屋さんに行かなければならないのかと不満を口にしたことなんかとっくに忘れた模様。
でも、それで好いのです。
君が喜んでくれれば、その何倍も私は嬉しいのだから。
平目の握り。
塩でいただく。
彼女も満足したようだ。
やはり、日本は素晴らしい。
そして、彼女も。
ベル・エポックとシャンドン。
日本は美味いと言いながら、フランスのシャンパーニュのお陰で、彼女の心を掴んだ夜でした。