夕方の羽田空港は発着便が集中する。
地方から到着する便は出発空港か、羽田の上空で待機させられ、延着することが多い。
今夜も到着が遅れた。
ターミナルを出るとタクシーに飛び乗って、丸の内に向かう。
ところが首都高速も真っ赤な渋滞サイン。
運転手と相談し、高速を避けて一般道の抜け道を疾走する。 道に詳しい車に乗れて幸運だった。
それでも『グランド・セントラル・オイスター・バー丸の内』に到着したときには、ワイン会の開催時間を既に10分も過ぎていた。
ニューヨークの『グランド・セントラル・オイスター・バー』には、オイスターを食べに良く行った。
当時は薄暗い地下道を延々と歩く、恐ろしい場所にあった。
今では再開発が進み、華やかな場所になっている。
遅れると、彼女と主催者に連絡してはいたが、気が咎める。
レストランに飛び込むと、ウェイティング・スペースで彼女が心配顔で待っていた。
私を待たずに先に会場に入るように言っておいたが、待っていてくれたなんて嬉しくなる。
ところが、彼女の言葉は予想外だった。
「ね、急いで。 みんな貴方を待っているから」
どうして私を待つ必要があるのかと訝りながら広い会場に入った途端、その理由がわかった。
メイン・テーブルに座る、主賓のネイスン・ワックス(NATHAN WAKS)氏と奥様の隣に、二つの席が空いている。
主賓の隣の席の客が来ないので、会を始めることができなかったのだ。
ワックス氏に遅れたことを詫びて着席すると、すぐにキリカヌーン・ワインズの試飲会が始まった。
キリカヌーン・ワインズのオーナー、ネイスン・ワックス氏はシドニー交響楽団のチェロ首席奏者でもあり、美しいワインを生産している。
最初に供されたのは、ヴーヴレ・スパークリング、2006年。 キリカヌーンがフランスで生産するスパークリングである。
次は、ザ・ラッキー・シャルドネ、2007年。
(写真は、シラーズ)
ザ・ラッキー・シリーズは、キリカヌーンのセカンド・クラスであるが、充分に美味い。
続いて、モーツ・ブロック・リースリングが抜栓される。
リースリングは今やオーストラリアの辛口が主流となった感があるくらいだが、キリカヌーンのリースリングも華やかさを保ちながらも切れの良い辛口で、とても美味い。
ワックス氏と奥様との会話も楽しい。 会話にはお二人の暖かな人柄と、ワインと音楽への情熱が溢れている。
彼女も久しぶりの英語での会話を心から楽しんでいる。
生き生きとした彼女を見るのは、本当に嬉しい。
私は、主賓や多くの参加者を待たせてしまったことで最初は気後れしていた。
しかし、ワックス氏の機知に富んだ話しと、彼女の輝く横顔のお陰ですっかり立ち直り、ホストとしての役割を楽しむことができた。
そしていよいよ今夜のメインのワイン、キラーマンズ・ラン・シラーズ、2005年がグラスに注がれた。
これは美味い。
ぶどうの凝縮感に富む、重厚な仕上がりである。
彼女もこのシラーズには満足した様子。
彼女の要求レベルは非常に高く、妥協を許さないところがある。
今夜の彼女は、ワインというよりそれを生み出すワックス夫妻が好きになり、従ってワインの評価点も上がっているようだ。
キリカヌーン・ワインズ。
数多いオーストラリアの優良ワイナリーが生産するワインの中でも、長くお付き合いをしたいワインとなった夜でした。


