「ね、また出張なの?」
「うん、大分に行ってくる」
「国内ならまだいいけど。でも、何かあってもすぐに会えないかと思うと、なんだか不安なの」
「僕もすぐに君のもとに駆けつけることができない所に行くのは寂しいけど、でも僕の心は常に君と共にあることを忘れないでね」
ということで、大分にやって来た。
ここには好きなレストランがある。
大分全日空ホテルの最上階、21階にある『ラウンジ21』である。
大分の街が、そして別府の高崎山まで一望できる、静かなラウンジである。
彼女が一緒なら楽しいのにと思いながらも、友人たちとの会話に花が咲く。
最初に抜栓したのは、フェッラーリ、ペルレ、2002年。
イタリア、トレンティーノ・アルト・アディジェ州の高名なスプマンテ、フェッラーリのミレジメである。
深い味わいは、並みのシャンパーニュを凌ぐ素晴らしいスプマンテだ。
乾いた喉を潤すと、あっという間にボトルは空に。
そこで、二本目に白を注文する。
ヴィッラ・ブローリアの、ガヴィ・デ・ガヴィ、2007年。
イタリア、ピエモンテ州を代表する、辛口の白である。
そうこうする内に、前菜が運ばれてきた。
パルミジャーノのクリーム・ブリュレである。
お腹が空いていたので、あっという間に平らげてしまう。
ガヴィとの相性がとても良い。
ここでワインを赤に切り替える。
フレンチ・レストランに敬意を表し、赤はボルドー、ポイヤックのグラン・クリュ、ポンテ・カネ、1999年を選んだ。
ふくよかな香りと酸味、そして滑らかなタンニンのバランスが良く、10年を経ているとは思えない若々しさを保った素晴らしいワインである。
ここで、口直しのシャーベットが供される。
かぼす風味の洋ナシのシャーベットである。
ポンテ・カネとの絡みが絶妙で、ワインの選択が正しかったことに安堵する。
デザートを食べながら、今夜のワインと食事をどのように彼女に報告しようかと考える。
そのまま報告すると、彼女が一緒に居ない時に、素敵なワインと食事を楽しんだことに心が痛みそうだ。
でも、今夜のワインの選択を評価し、褒めてもらいたいとの思いもある。
彼女の反応を考えていると、一人でニヤニヤしていたようだ。
友人達から、何を考えているんだと言われ、急いで顔を引き締める。
今夜の彼女へのお休みメールは、「僕の心は常に君の傍らにあり」から始めよう。
暖かな気持ちを抱き、満足した胃と共に、『ラウンジ21』を後にした夜でした。