「痛絶〜印象違〜/ムック」レビュー | brilliant-memoriesのブログ

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ドエルさんでもあり、V系好きのギャ男でもあり、60〜00年代の音楽好きでもある私がお送りするこのブログ。アルバムレビューや自作曲の発表、日常、ブログなどいろんなことをします!

「今回のニンダイ、まさかまさかのMOTHER3の発表きましたね。今回はソフトメーカーラインナップなので、余りに大きすぎる目玉は来ないと思いましたが、まさかまさか、ここで来ちゃうとは。」

 

お疲れ様です。今回からはMUCCのアルバムのレビューをしていこうと思います。今回レビューするのは2001年に発売されたムックの1stアルバム「痛絶」のレビューです。密室ノイローゼ時代にリリースされたフルアルバム。当時の密室系だったムックの初々しく完成されすぎた世界観が広がっています。

 

このアルバムは「痛絶」は1st pressとして「初回限定盤」、2nd pressとして「~印象違~」、翌年2002年に3rd plessとして「通常版」がそれぞれリリースされており、曲順が変わったりボーナストラックがついていたりとどこかしらに変化が見られます。今回はその3種類の「痛絶」の中から2nd press「痛絶〜印象違〜」のレビューをしていこうと思います。よろしくお願いします。

 

アルバム「痛絶〜印象違〜」のポイント

 

・密室系時代のムックの特徴は人間の「負の感情」を表現した世界観。「人間の亀裂」や「心身的な痛み」、「社会の闇」といったテーマを苦痛を味わった人間の痛みをここまでも生々しく表現した歌詞が特徴です。そしてその歌詞を感情を込めて歌う低音を轟かせたり、声を震わせて歌ったり、叫んだりと様々なアプローチを加えながら歌う逹瑯の表現力も圧巻で、痛い程に聴き手に突き刺さります。

 

・楽曲面も様々な観点から生み出されたダークな楽曲が勢揃い。ヘヴィロックからメタル、歌謡曲、フォークソングまで幅広いジャンルが収録。今後もムックは様々ジャンルを取り入れた楽曲にチャレンジしますが、それでもメロディラインやフレーズなどにこれらの要素は見られます。まさにムックの基礎ともいっていいでしょう。

 

それではいってみましょう。

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青→シングル曲 黒→アルバム曲)

 

1.「ーーーーー。」(作曲:ミヤ)

 

さて皆様、このアルバムの世界に入る準備は出来ましたか?。入る前にテレビの砂嵐のザーという音だけのこのインストを聴いて、頭の中の余計なものを全て排除しましょう。さぁ頭の中にもう一人の自分が映し出されましたね?、誰にも見せてないもう一人の自分が...。それでは2曲目へ参りましょう。

 

2.「盲目であるが故の疎外感」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

さぁ、いかがでしょうか?これがムックの生み出す世界です。歌詞、曲調、演奏、ボーカル、世界観、全てが痛い程心臓に突き刺さりますね。どんどん堕ちていきましょう...。広がっていたのは真っ黒なハードロックの世界。全ての楽器が泣き喚いているような混沌の世界に支配されます。お経のようにひたすら同じトーンで感情を吐き出すボーカルも印象的ですね。

 

歌詞は自身が盲目であるが故に周りから軽蔑され、ひとりぼっちになってしまった主人公が描かれています。ラストには社会からも孤立して人殺しを働こうとする無敵の人に成り果てた主人公が映し出されて終了します。「もう誰も信用できない」、「もしかしたら自身が盲目であることすら自覚しておらず、知らぬ間に軽蔑されている可能性もある…」聴き手も一気に疑心暗鬼に陥るかなり痛烈な歌詞に胸が抉られます。

 

盲目である故に疎外される人間…、明日は我が身かもしれません。

 

3.「」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

両A面で発売された1stシングルの2曲目。シングルにはミヤではなく「雅」名義でクレジットされてましたね。こちらもミディアムテンポのハードロックナンバーとなっており、暗黒の空間に漂い、そして押し流されていくような様な感覚に陥ります。

 

歌詞には、なにもかも全てを捨てて「廃」となってしまった主人公が描かれています。中盤では主人公の孤独に対して問いかけてきたので返事を返したら、何も返ってこなかったという電信柱と会話する奇行シーンまで映され、全て捨てて生まれた自分だけの世界に逝ってしまった主人公。「辛かったよね…」思わず声を掛けてあげたくなります。しかし、抜け殻になってしまった彼はもう彼ではありません。そもそも声を掛けてくれる人なんて滅多に居ないのがこの現実です。

 

4.「イタイ手紙」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

出ました。ストーカーがテーマの楽曲です。出だしの同じセリフを繰り返すこの感じが完全にメンヘラで好き。その気持ちを抑えることは当然出来ず、この主人公は相手を束縛して監禁するという行為に走ります。静かになったり、ハードになったり、早口になったり、拍やテンポが狂ったり…この展開の多さも主人公の人格や歪んだ思考回路を表現している感じがしますね。逹瑯の歌声に乗る感情の使い分け方も見事に役に入り込んでいるので、よりリアルさを感じます。今度は第三者視点では無く、相手役になりきって聴いてみると鳥肌モノの臨場感を味わうことが出来ますよ。

 

5.「鎮痛剤」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

ジャズの姿をした歌謡曲。シャッフルビートを使っておりキャッチーさが漂うので、かなりリズムには乗れるナンバーなのですが、ここはムック。その楽曲のキャッチーさを狂気に変貌させてしまう真っ黒な歌詞が乗ります。

 

その歌詞とは、汚い大人達を見て、醜い大人になるのがイヤになり現実逃避を図ろうとする主人公。しかしながら、それが故に浮いてしまい周りからは軽蔑されて孤独になってしまい、孤独感から心臓が痛むから鎮痛剤を買いに行こうという、この社会のダークサイドを映したような救いようのない歌詞となっています。同時に、この世の中を生きていくには、「自身も汚い大人になる」or「現実逃避して孤独に生きていく」という2択であるという現実も証明されてしまっている気がします。

 

6.「夜」(作詞:逹瑯 作曲:YUKKE)

 

YUKKE作曲のナンバー。現代こそ「夜」というタイトルが出てきたら煌めく都会を映したエレクトロポップのイメージが強いですが、この「夜」はその真逆を征く寝静まった住宅街の誰も居ない公園をイメージ出来るようなスローでダークなナンバー。重圧で脳が抉られるような感覚に陥ります。サビの壊れてしまいそうな程の儚さを放つメロディラインこそ、本来の「夜」って感じがしますよね。

 

また夜は人の心の闇が深まる時間帯とも聴いたことがあります。この曲の主人公もまさにその心の闇を溜めすぎてしまった故に制御できず闇に支配されてしまった状態であることが分かります。思い出したくない記憶のフラッシュバック、自己肯定感の低さ故のひたすらな謝罪する様、どうせならこの夜に閉じ籠り居なくなりたいという本音、、、共感出来る部分がありすぎて胸が痛いです。

 

7.「砂の城」(作詞:逹瑯 作曲:逹瑯)

 

逹瑯が作曲まで手掛けたアコースティックギターのみでお送りするフォークソング。ここまでがっつりとしたフォークソングをやってくれると本来のフォークソングに込められた和のテイスト哀愁を全身で感じられるのでオススメです。歌詞は幼少期の一夏の運命的な出会いが、恋として果たされることは無く、一コマの思い出を回想する主人公が映ります。この「回想」するシチュエーションだからこそ、フォークソングな曲の世界観がかなりマッチしているような気がするのですよね。

 

8.「背徳のヒト」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ・SATOち)

 

SATOちはムックの陽の側面を映したストレートな楽曲を提供するイメージが強く一貫している印象ですね。本編は激しい歌謡メタルが展開されますが、クサメロ全開のこの世界観は初期ムックの楽曲を聴くのが初めての方も安心して聴くことができると思います。歌詞は大人の世界の醜さに直面して、幼い頃に描いた透き通る夢を無くして堕落した主人公が足元の花を見て何かに気づくとシチュエーション。大まかな世界観はやはり絶望的だけど僅かながらに歌詞にも光が差し込んでいる様にも思います。

 

この曲こそがこのアルバム全体の「鎮痛剤」なのかもしれませんね。

 

9.「娼婦」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

両A面で発売された1stシングルの1曲目。この曲こそ、密室系時代のムック音楽性が反映された楽曲だと思います。前曲に引き続き前半は歌謡メタルナンバーとなっているのですが、中盤以降はシャッフルビートとなり一気に哀愁さが増す全く別の曲に変貌する部分があり、多くの展開が見られるのも特徴です。この曲のイントロやギターソロのギターメロがいいですね、キャッチー且つ最高にイカしたクサメロを奏でてくれます。歌詞は「ムックのボーカルの逹瑯」から「プライベートの逹瑯」へ向けてのメッセージなのではないかと予想しています。ラストは階段を駆け上がる音とドアを開けるS.Eが流れフィナーレ。次の曲になだれ込みます。

 

10.「断絶」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

ラストはまさかのフォークソング。ミヤの実体験を綴ったと言われている楽曲で、サウンド面に浮かぶ「哀愁、虚無観、しんみりさ」に、病室で目の当たりにしてしまった男性の「死」と大好きだったパパが死んだことによって初めて「終わり」という意味を知り、かつて無いほどの絶望に陥る子供を描くというあまりに悲しい歌詞が乗るという、かなり辛く重すぎる楽曲。主人公が「終わり」の意味を知る最初のきっかけが「父の死」というのがもう...。終盤ではメンバー1人1人が「さよなら」と囁く部分がいかにもクライマックス観がありますよね。

 

 

いかがでしたでしょうか。あまりに残酷且つ絶望な世界観。心身的に殺されてしまった人間の内面をここまで楽曲にしてしまうとは...。繰り返し聴けば聴く程、涙が出てきます。ここまで来ると、この空間がナゾの癒やしにさえ思えてしまい、不思議です。「廃」の項目で、抜け殻になりかけている人間に声を掛けてくれる人なんて滅多に居ないのがこの現実と書きました。ですが、この初期のムックのアルバム達は貴方の絶望に寄り添ってくれるかもしれません。

 

様々ジャンル、その中でも特に懐かしさ取り入れたサウンド面、そして人の心を支配するかつて無いほどの負を謳う世界観は是非とも色んな方に聴いてもらいたいですが、特に「辛い」という感情を強く抱えている人こそ、聴いてほしいアルバムだなと思いました。