「葬ラ謳/ムック」レビュー | brilliant-memoriesのブログ

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ドエルさんでもあり、V系好きのギャ男でもあり、60〜00年代の音楽好きでもある私がお送りするこのブログ。アルバムレビューや自作曲の発表、日常、ブログなどいろんなことをします!

「荒れる花粉がやばいですね。強すぎてお薬が全く効きません。」

 

お疲れ様です。今回はムックの2ndアルバム「葬ラ謳」のレビューする回です。インディーズ時代最後のアルバムとなったこのアルバムはあれ程までの絶望を叩きつけた前作「痛絶」を超える絶望の世界が広がります。ムックの世界観を堪能したい方は勿論、自身が抱える大きな「絶望」の鎮痛剤として聴くのもオススメですよ。

 

今回は3種類存在する「葬ラ謳」の中から「通常盤」のレビューをしようと思います。

 

アルバム「葬ラ謳」のポイント

 

・前作の「痛絶」を超える絶望感は先行シングルでも分かりましたが、その楽曲たちは再録された事によりさらに負の度数が濃密になっております。さらに収録曲数も増えたことにより空間も奥深く広がった事により生まれた永遠に広がる絶望の世界を堪能できます。勿論1曲ごと聴くのもありですが、是非ともアルバム全編を通して聴くのをオススメします。

 

・今作は7弦ギター、5弦ベースを用いたズッシリと来るヘヴィなサウンドが炸裂するのがポイント。絶望の世界を分かりやすく表現するために「重さ」で殴りかかるような感覚と、楽器隊全員で「キメ」を大切にしている印象がありますね。楽曲面は前作同様、ハードロックや歌謡曲を中心ですが、他にも様々な要素が見受けられるのも特徴です。そしてどうやらこのアルバムにはとある隠し玉もあるみたいですよ?

 

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青→シングル曲 黒→アルバム曲)

 

1.「ホムラウタ」(作曲:ミヤ)

 

さぁ、この世界に入る準備はできましたか?、まずはこのインスト曲で着飾ったモノ達を綺麗サッパリ取っ払いましょう。「we will~」と口ずさみたくなるこのリズムを下地に今作のキーとなるヘヴィなサウンドが炸裂、その上を歌謡曲を思わせるハーモニカが乗ることで生み出される華麗なる不協和音が強烈です。どんどん自己の本当の内面が浮き出てくることでしょう。1分20秒に差し掛かる頃、アルバムは間髪入れずに2曲目へ傾れ込みます。

 

2.「絶望」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

いきなり「絶望」というタイトル、このド直球さですよ。この抉られるようなズッシリと来るヘヴィさは、インストを除けば実質1曲目であるこの楽曲でこのあまりにデカすぎる痛絶感、足を踏み入れた人間をこのアルバムが生み出す絶望の世界へ誘うにはピッタリのナンバーです。ミクスチャー要素とヘヴィロック要素が混血したドス黒い楽曲となっており、「絶望」を吐き出すように黙々と歌ったり、激しくなったり、絶叫したりと様々な表現方法で絶望を謳う逹瑯のヴォーカルもポイントです。

 

歌詞は、絶望にひれ伏す人間が映っており、「夢」「希望」を先導する能天気な輩への否定、つまりはこの現実のリアルを物語ります。憧れだった世界から蹴落とされ孤独感と虚無観に押しつぶされ、生きる気力を完全に無くしてしまった主人公、もうそこには悲鳴すら聞こえてきません。いきなりクライマックス級の心を抉るようなリリックが圧巻で生々しいです。「絶望」の鎮痛剤として聴きに来た人程、共感出来る部分がかなりあるので、その心をがっつりと掴んでくれるハズですよ。さぁ、虜になったところでこのアルバムの世界の核心へ更に潜っていきましょう。

 

また、PVが制作された楽曲でもあり、「通常盤」のみで視聴可能です。

 

3.「幸せの終着」(作詞:逹瑯 作曲:石岡の金さん・銀さん)

 

ユニークな作曲クレジットですが、正体はミヤとYUKKEの共作。不協和音を取り入れた歪なイントロやぶつ切りを繰り返す間奏、ザクザクとしたギターソロといった不安定な世界観に対してメロディーラインの中に漂う耳に残りやすい歌謡曲感が絡み合った絶妙な楽曲となっております。歌詞には死ぬことへの恐怖から生まれた幸せの執着心について書かれているのですが、いわば終わりのない欲の様なモノ。「始まったものは終わりが来る」と歌われているように、やがては幸せの終着点へ辿り着くことが歌われています。ここで「幸せ」とお別れした私たちは、いよいよ本格的に絶望の世界へと足を踏み入れることになります。

 

4.「君に幸あれ」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

さてさてイントロの悲しげなクリーンギターの音色が聴こえてきましたか?ここから絶望の度数がさらに上がります。まず現れたのが「君に幸あれ」というタイトルの楽曲ですが、勿論、皮肉の意味合いです。

 

3rdシングル「負ヲ称エル謳」のリードトラック飾ったスローナンバーを再録。イントロではハーモニカも鳴り響き懐かしさを感じさせつつ静寂をゆっくりと歩いて行くのですが、サビになると大爆発。ずっしりとヘヴィに展開し、拍も変化。よりハードになった壮絶な暗黒の中を殺意たっぷりな魂の絶叫が響き渡ります。絶望の寄せ返しを繰り返し展開されていく世界観と再録されたことによってより濃密になってしまった暗黒な雨粒に濡れて溺れましょう。

 

「積木遊び」の先にある虚無観と孤独の中に響き渡る主人公の最狂の遠吠え。これこそ「廃」と化す前の最後の大暴走なのかもしれません。

 

5.「僕が本当の僕に耐えきれず造った本当の僕」(作詞:ミヤ 作曲:YUKKE)

 

YUKKE作曲の楽曲にミヤが作詞したナンバー。激しくなったり、静かになったり、ザクザクしたり、かと思えばメロディアスになったりになり、広がったり、歌謡曲っぽくなったり、急にジャズに飛んでいったり...と様々な展開がグルグルと回る歪な楽曲となっております。この展開のスピードがあまりにも速く、「状況を読み込む前に次の展開が来た」、「気がつけば全く違う場所にいた」と経験をした方もと多いでしょう。何度も聴くことによって、この世界観にやみつきになるというスルメ曲な感じがしますね。

 

歌詞は「公共の場でピエロを演じる偽りの自分」と「気弱でメンタルも脆い本当の自分」のギャップが描かれており、自分の落差にもがく主人公が描かれています。この「自分を切り替えるためのスイッチ」を表現するための「展開の多さ」という歌詞と楽曲面からの絡み合いも感じられるのがポイントです。中盤の誰も居ない夕暮れでふと我に返り、広がる2人の自分のギャップに葛藤する様は余りに辛いです。ラストには遂に偽りの自分が本当の自分を乗っ取ってしまうという救いようのないエンドが待っており、最後の最後までやってくれちゃいました。一切妥協をせず、容赦ない鬱ストーリーの展開、本当に見事です

 

6.「ママ」(作詞:逹瑯 作曲:逹瑯)

 

疾走感のあるロックナンバーですが、要所要所に歌謡曲っぽさも感じさせる逹瑯の楽曲です。歌詞は保健所のペット視点で描かれており、飼い主だった「本当のママ」へ向けて叫ぶ悲鳴がこだまします。何故「本当のママ」という表現をしたかというと、主人公のペットを保健所に預けたのは別の女性だった見られる部分が存在するからです。やがて、その声が届く事はないという事を薄々と気づき、鳴き疲れて声が出なくなってしまった主人公は遂に抗うこともできず、注射を打たれて、殺処分されてしまうという最悪な最期を遂げます。「本当のママ」との幸せだったはずの天国から一気に「形の違うママ」の地獄のいうな生活へ、愛情を貰えなくなったペットが力を振り絞り叫ぶという報われない悲鳴もこのアルバムの絶望度をより深くさせています。

 

7.「暗黒に咲く花」(作詞:逹瑯 作曲:2126)

 

イントロの破壊されるような爆発の嵐から一気に現在地のもう一段階先の絶望にイン。作曲はこれまた独特なクレジットとなっていますが正体は逹瑯とミヤの共作とのことです。スロー且つ超ハードなこのバラード。しかしながら強弱をつけて楽曲の展開を部分部分で切り替えていく様は、完全に逃げ場の無い暗黒世界そのものを表現している感じがします。歌詞には限界状態の主人公が映されており、自殺をほのめかすリリックが印象的です。紫陽花の花言葉は「浮気」「無情」ということで、序盤の「浴びせ掛ける罵倒」と「返らぬ返事を待つ時」のリリックから、恋人の浮気を巡った修羅場状態だったことが伺えます。負の花吹雪が舞う圧倒的な世界観に心臓を貫かれますね。

 

8.「嘘で歪む心臓」(作詞:逹瑯 作曲:YUKKE)

 

2ndシングル「青盤」の3曲目に収録された楽曲を再録して収録。YUKKE作曲の楽曲に逹瑯が作詞したジャジーな歌謡ナンバーでございます。シャッフルビートを活かしたメロディラインのキャッチーさ、ギターのカッティングの気持ちよさ、Bメロ以降の躰を揺すりたくなる陽気さといった、本作に登場したこれまでの楽曲達に比べるとかなり聴きやすい楽曲となっておりますが、そこに乗るのはやはり胸が痛くなる歌詞、前作の「鎮痛剤」の世界を彷彿とさせます。この2つの強烈な摩擦を堪能することができ、かなり好きです。

 

今回は「絶望にひれ伏す男」と「排出器官が塞がれて死ぬ寸前の猫」、誰も近づかないであろう2つを対比させたストーリーを展開。男性を振ったであろう女性のつぶやきや、絶望が広がる様を綴った分かりやすい比喩表現といった、かなりリアリティのあるリリックに仕上がっています。「不幸な人のことを考えて自分を慰めて、また一つ逃げ道増やしてる」や「簡単に自殺を考えたことは一度も無いが、なんだか死にたい気分です。」「傷つくのが怖くて無垢を演じてた」といった核心を突くフレーズのオンパレード。今回は失恋がきっかけでしたが、きっかけ関係なしに絶望のどん底に叩き堕とされた人間程、かなり共感出来る楽曲となっています。

 

9.「およげ!たいやきくん」(作詞:高田ひろお 作曲:佐瀬寿一)

 

今作の余りに大きすぎる隠し玉は日本一売れた童謡をまさかまさかのカバー。しかも「ひらけ!ポンキッキ」内の楽曲と来ました。10周年ライブでのご本人登場以前にも、あのムックと間接的な共演をここでしていたのですね。原曲の子供向けな雰囲気は鳴りを潜め、逆に子供が逃げ出しそうなヘヴィに荒れ狂うサウンドは私たちを魅了します。原曲ではたいやき屋からにげ出して海を冒険するたいやきくんの冒険が描かれていますが、この曲はたいやきくんの冒険の裏にあった苦痛を描いている印象で、内面に映された闇堕ちしたたいやきくんを見事に逹瑯が演じきっています。特に終盤の「どんなにどんなにもがいても~」の部分は圧巻です。

 

ちなみにこの曲、私のカラオケの十八番で、最初に入力した際に「童謡歌うの!?」と笑いを発生させて、いざ曲に入るとこの荒々しいサウンドと自身が精一杯にたいやきくんの苦痛を表現するというパターンを定番化させています。歌いすぎているためか、最近たいやきくんの気持ちに徐々に入りきれるようになりました。「V系を知らない友達とカラオケに行くと気を遣ってしまって本当に好きな歌が歌えない...」というV系ファンあるあるなシチュエーション。ですが、この曲はみんなが知っている楽曲なので安心して歌うことができます。オススメです!

 

10.「前へ」(作詞:逹瑯 作曲:SATOち)

 

ここで、SATOち作曲のナンバーが登場。逃れられないこの絶望の空間に僅かながら小さな光が差し込むこの瞬間かもしれません。楽曲面は前作に提供した「背徳のヒト」に通じる歌謡メタルを中心に展開、イントロではギターが最高なクサメロを奏でて疾走するのですが、なぜか途中にスカ要素やレゲエ要素が入ってきたりといった遊び心も見受けられますね。しかしながらそこに「中絶」をテーマにした胎児視点の悲しいリリックが乗ることで楽曲の陽が狂に感じてしまうトリックが組み込まれています。ポジティブ思考の「前へ」では無く、押し流されていくような「前へ」と判明してしまった瞬間、この明るい世界観は見事に180度一変してしまうのです。解釈によってこの曲は極端に姿を換えます。この曲を「明」と捉えている人もいれば、この曲を「暗」と捉えている人もいるでしょう。歌詞の面白いところですよね。

 

11.「黒煙」(作詞:逹瑯 作曲:ミヤ)

 

さぁ、アルバムも終盤へ向けてさらに絶望のギアを更に上げていきます。この曲はミクスチャー要素が強く見られるナンバーで、ひたすら同じハードなリフを繰り返す楽器陣と、高速ラップのようにを歌い上げるヴォーカルが特徴的なAメロ、ツタツタビートで駆け抜けるサビ、終盤ではまた別のラップゾーンが登場といった、多くのポイントがある濃すぎる2分46秒となっております。終盤の絶叫はかなりの迫力ですね。

 

歌詞は「黒煙を吸い込む=経験を重ねる」と解釈した上で、自分も君も日々黒煙を吸い込み呼吸を重ねることで醜態に毒されていっているという風刺が印象的です。煙に毒された人間の醜態を綴ったリリックは当時よりも「黒煙」の状況が悪化した2024年の現在にも強く突き刺さりますよね。(さらに、呼吸しないと人間は死んでしまうので、生きて行くには呼吸をしなければならないということ。つまり純粋なままでいたかった人間にとっては、生まれてきた時点で詰んでいたという、更に後味の悪い考察できます。)

 

12.「スイミン」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

2ndシングル「赤盤」の2曲目に収録された楽曲を再録して収録。この溺れていくような感覚と溺れ堕ちた先の報われることのない永遠に広がる絶望をずっしりとした音圧のサウンドで攻められたらもう絶望に屈するしかできません。逹瑯の表現力もサウンドが生み出す世界観を見事に際立たせており、終盤では歌詞カードに載っていない復讐を綴ったリリックをラップ風に歌い上げ、圧巻です。

 

歌詞はいじめられた人間の視点で展開。「スイミン」は少年が現実逃避するための手段であること、1人では抱えきれない傷を負ってしまった少年の悲鳴が虚しくこだまします。最終的には「誰かには助けてもらえる」と密かに信じていた浅はかな自分を責めるリリックも飛び出しかなり辛いです。

 

実際にいじめを受けていた身として本当に辛いです。いじめから逃れる為に「中学受験」をした私ですが、現代のいじめが生み出す惨状を考えると周りが全員スマホが持たずにSNSが使えなかったということに救われた気がしました。肉体的ないじめ以外にもSNSを使った精神的ないじめが問題になっている現在、タイムラインを見てみるといよいよ本格的に「ヒトのような形をした生き物」しかいない世界になったと思います。

 

13.「帰らぬ人」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

ここへ来て登場、前作に収録された「断絶」の流れを継ぐミヤと亡くなってしまったミヤのパパの実体験を綴ったフォークソングナンバーです。イヤホンやヘッドホンなどで聴くと分かるのですが、ドラムが左チャンネル、ベースが中央、アコギのリズムギターが右チャンネルに設定されているのが面白いですね。逹瑯の歌い方も艶っぽさがあって、物語の悲壮さを映しています。サビになると転調して一層悲愴的になるのがポイント。このフォーク特有の静かで強い世界観に締め付けられるような感情が絡みつき、胸が痛くなります。

 

「あの子=ミヤ、あの人=ミヤのパパ」として物語を読み解いて行くといつもの大切な場所だった踏切が思い出に変わってしまった現在、込み上げる感情とみんなが励ましの言葉をくれたけれど当然ながら立ち直ることなどできず、日が経つことに傷が深くなってゆくミヤの心境が綴られております。

 

14.「ズタズタ」(作詞:ミヤ 作曲:ミヤ)

 

潜って、堕ちて、飛ばされ、溺れて…遂に辿り着きました。此処こそが、このアルバムに広がる絶望の世界の最深部。7分にも及ぶこの空間でバンド全体での「キメ」をかなり意識し、これまでの絶望が一体化して襲いかかる重低音はたどり着いた私たちに最高級且つ最大級の絶望を叩きつけてくれます。

 

歌詞はこれまたミヤの実体験を綴ったものと言われており、自分から大切なものを奪って奪って奪い取った身勝手な人間によって精神的に殺されてしまった主人公の恨み節が大爆発します。「早く気づいてください、あなたがいつもしていたことは人さえも簡単に殺せてしまう事だという事を」ここまでこのアルバムを通しで聴いてきた人間が具現化できずに抱いている感情を代弁した最強のフレーズだと思いました。こうして14曲も及んだこのアルバムの本編は幕を下ろすのでした。

 

 

最後まで容赦なく絶望を叩きつけたアルバム、いかがだでしたでしょうか。ラストの「ズタズタ」にてバラバラになった私達は、このまま「廃」になったり、この空間を朽ち果てるまで彷徨ったり、はたまた光堕ちしたり、様々な別々を歩むコトになりますが、今回レビューした「通常盤」以外のこのアルバムには、この絶望の世界の隠しルートが存在します。そちらを散策されたい方は是非「初回盤」及び「限定盤」のボーナスCDにてお楽しみください。

 

さて、1曲でもかなりのパワーを持つ楽曲が並びますが、通して聴く事で得られるモノがある気がします。それは私たちの「絶望」に寄り添って生まれる癒しでもあるのですよね。前作のラスト書きましたが改めて、今、辛いという感情を抱えている方に強くオススメしたいアルバムです。

 

しかし、私達はまだ知りませんでした。近い未来にこのアルバムの絶望度を遥かに凌駕する最恐のアルバムがこのバンドから生まれる事を…

 

今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。