ENEOSは合成燃料e-fuelの一貫生産プラントを完成し、大阪万博のシャトルバス用燃料にも活用していました。しかし2025年10月、e-fuelのパイロットプラント以降の建設を無期延期とすると公表しました。同社は2024年にe-fuelの一貫生産プラントを完成させています。計画では、2028年に日量300バレルのパイロットプラントを建設し、さらに2030年代後半には10,000バレルまで拡張して実用化を目指すことになっていたところでした。
e-fuelは、大気中の二酸化炭素(CO₂)と水から取り出した水素(H₂)を合成して作るため、カーボンニュートラルな燃料として航空機や船舶、既存車の救世主として大きな期待が寄せられています。しかし、現在のところ、e-fuelの商業化と本格的な普及は極めて非現実的であると見られています。その理由は、主に製造コストの高さとエネルギー効率の低さという二つの深刻な壁にあります。
e-fuelを製造するプロセス、特に核となるグリーン水素の製造には莫大なコストがかかります。グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力を使って水を電気分解して作られますが、この電解プロセスに大量の電力が必要となるため、水素の調達コストがe-fuel全体の製造コストの大部分を占めています。さらに、原料となるCO₂を大気中から直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術の設備投資や稼働コストも高額です。経済産業省の試算では、現在の製造コストは1リットルあたり300円〜700円程度と、既存のガソリン価格を大幅に上回っていて、このコスト差が解消されない限り、一般市場で普及することは困難です。
また、製造から利用に至るプロセス全体で、エネルギーロスが非常に大きいことも大きな課題です。再生可能エネルギーを電力として取り出し、水素製造、CO₂回収、合成、そして内燃機関での燃焼という多段階を経る間に、投入したエネルギーの約70〜80%が熱などの形で失われると指摘されています。これは、同じ量の再生可能エネルギーをバッテリーに蓄積し、電気自動車(EV)に直接利用する場合と比較して、極めて非効率です。電化が容易な乗用車分野でe-fuelを広く使用することは、本来貴重である再生可能エネルギーを非効率に消費することにつながります。
それでも欧州ではe-fuelが注目されています。当初、EU(欧州連合)は2035年以降、乗用車の新車販売を実質的に電気自動車に限定する方針でした。しかし、ドイツなどの強い主張により、この方針は大きく修正され、内燃機関車が存続する道が開かれました。そこで、2023年3月、EUはe-fuelのみを使用する内燃機関車に限り、2035年以降も新車販売を認めると合意しました。e-fuelは製造から燃焼までのCO₂排出量が実質ゼロと見なされるため、この特定の燃料を使用するエンジン車は、法的にゼロ・エミッション車として扱われることになったのです。
この動きの背景には、既存の自動車産業のサプライチェーンや雇用を守りたいという思惑、そして既存のインフラや車両を活用したいというニーズがあります。そうでなければEUの自動車産業は壊滅的な状況に追い込まれてしまうと思います。アメリカはトランプ大統領が早々に電気自動車への補助金を打ち切りました。大きな流れを見ても、やはりトヨタが進めている全方位戦略が正解なのでしょうね。




