近年日本の研究力低下がどんどん進み、技術立国ではなくなるのではないかと危惧しています。
昨年文部科学省の科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2023」によれば、引用回数が上位1%に入るトップ論文数を表す「Top1%補正論文数」が日本は319本となり、国別順位で12位でした。実はこれは過去最低クラスの記録なのです。
ちなみに1位の中国は5,516本、2位のアメリカは4,265本と二大国に日本は圧倒的な差を付けられており、スペインや韓国にも抜かれる結果となってしまいました。
近年、国による研究費の配分を一部の研究者に集中させる「選択と集中」の政策が進められており、全体にまで研究費が行き届いていない状況が続いているそうです。文部科学省からすれば、日本の研究力は低下していないとのことですが、役人は一体どこを見ているのでしょうか。国内全体の研究水準というのはすでに世界トップ水準とは言えない状況にあるのです。
日本の研究力低下の一因として、研究環境の水準が下がっていることが指摘されています。科学技術大国である中国やアメリカに比べて日本は、公的研究機関に投入している金額がはるかに少ないです。そして他国の科学技術政策の発展により、相対的に日本の研究力が下がってしまったのです。
そのうえで選択と集中が進んでいるので、研究機関全体に研究費が行き渡っていません。国としては、社会保障など優先的に予算を使いたい項目があるので、科学技術政策は常に後に回されていると感じざるを得ません。しかも予算を有効活用しようとして、成果が見込める研究に資金を投じようとするので、結果的に一部の研究者にばかり研究費がいき届くいびつな構造になっています。
しかし、ある意味これも仕方のない状況なのでしょう。なぜなら少子高齢化で学生数が激減してきているからです。研究機関も、特に大学では学ぶ学生がいなければ成り立ちません。最近私の業界でも、ずっと続けてきた国家プロジェクトの研究が終わり、職(所属)をなくしてしまった先生がいます。他にも、某国立大学の先生の研究室が、学生数が少ないため研究室を一部明け渡さなくてはならないと聞きました。
私の生業としている「ろう付」業界は、研究開発と人材輩出があと数年で途絶えてしまいます。「鋳造」や「鍍金(メッキ)」などの業界は、すでに大学で教える人や研究室が日本からなくなってしまっているそうです。しかし、これらの基礎技術はふだんのものづくりには欠かせない重要な要素技術なのです。
選択と集中は人口減少の状況下では仕方がないと思いますが、ちゃんとした将来ビジョンが必要です。資源の無い日本は戦後どうやって国力を上げて来れたのか、何で世界と勝負できるのか。今一度政治家や役人にちゃんと考えて欲しいです。ビジョンと政策がない国の将来は明るくありません。今ちゃんとやらないと取り返しがつかなくなってしまいます。