おひさまの光もうららかに、少しづつ春が近づいてきた今日この頃。
ここは、小さな商店街からほど近い、下町に暮らす五兄弟たちのマンションです。
「ただいま~!」
「ただいま!」
「よっこいしょっと、たでーま」
幼稚園から戻った末の双子のにぃのとじゅーん、長男のさとの元気な声が、順番に玄関に響きます。
「みんな、おかえりぃ~!
俺今日は午後休講になったからさ、結構早目に帰ってきてたの。って、どしたの?その荷物」
リスの如くピュッと走って玄関に出迎えたのは、次男で大学生のしょぉ。まるでどんぐりでも落としたかのように、真ん丸な瞳で首を傾げてキョトンとしています。
さとがよっこいしょっと言いながら置いた荷物は、大小色とりどりの紙袋で、ひいふう、20袋以上はありそう。狭い玄関のスペースは、もういっぱいになってひしめいています。
「これさ、全部にぃのとじゅーんのやつよ。
大きい紙袋にまとめたりしたんだけどな。ハー、こんだけ数あるとかさばったわ〜」
自由になった手で、肩を軽くトントン、とするさと。
「さとちゃんのもありますよ?」
「そぉだよ、おにいさんにどうぞ、ってされたもん!」
「ね〜」
「ね~」
くすくす甘えて、しょぉの脚の、右と左からきゅっとしがみつく、にぃのとじゅーん。
「へぇ~、何頂いたのかな?」
しょぉが、細いのにマッチョな両腕で双子をうんしょと持ち上げると、キャッキャと歓声が上がります。
双子のつやつやマシュマロほっぺが、しょぉのほっぺにムニっとくっつくと、しょぉのお顔も、もっとふんわりやんわり、もうとろけそうです。
「あー、確かにちょこっとおいらのもあるけどな。そうそう、しょぉくんのもあるよ」
「えっ、俺に?何?…ってもしかしてだけど今日の…」
「そうそう」
「ばれんたいんだから、っていっぱいどうぞされました」
「うふふっ、ぜぇ~~んぶちょこれいと~」
「うわ、これ全部?すっごいねぇ…。ていうか幼稚園児の時点でこの量って」
些か引き気味のしょぉですが、実は下町でひっそり評判の五兄弟。
それぞれ見目麗しいだけでなく、おじいちゃんやおばぁちゃんにも優しく、元気に挨拶したり、町内会の役割やゴミだしなどのルールもキチンとしているので、心までイケメンな五兄弟を、これからもすくすくと健やかに育って欲しいと、そおっと見守るファンが多いのです。
「…兄さん実はさ、さっきお隣から回覧板回ってきて、みんなで食べてってチョコも頂いた」
「ンはは、今年もだ」
「うん、なんか、気を遣わせてしまってるのかなって、申し訳ない気もするんだけどね」
「ありがてぇね~。はぁい、にぃのとじゅーん、家に着いたら?」
「てあらい!」
「うがい!」
「良く出来ました~」
外から戻ったら、手洗いとうがいのルーティン。
双子たちは幼稚園の制服も着替えて、空のお弁当箱と水筒をキッチンに持って来ると、おやつの時間です。
さて。
本日のテーブルの上に鎮座しますは、頂いたチョコレート。
「くんくん、あま~いにおい!」
「ちょこれいとのいいにおいですねぇ」
チョコの包のお山の前に、うっとりしているにぃのとじゅーん。これだけあると、まるでチョコレートの工場みたいにカカオの甘~い香りでいっぱいです。
さらに、
「実はさ、俺も大学で貰ったんだけど」
しょぉがリュックから5つほど取り出すと、
「あ、そういえばおいらもアトリエのお客さんとか商店街で貰ってる」
さとも、部屋から大きな包みを重ねて持って来て、
テーブルの上は、ますますチョコレートでいっぱいになって、もう溢れてしまいそうです。
「たっだいまぁ~!」
ひときわ元気な子が、ランドセルを賑やかに鳴らして、つむじ風みたいにリビングに飛び込んで来ました。三男のまぁです。
「ねぇねぇ、家の中、めちゃくちゃ甘くていいにおいする~!
あっ!これなぁに??」
「ちょこれいとですよ」
「チョコレート?これ全部?さとちゃん、オレんち、チョコレート屋さんするの?」
まぁが真面目な顔で聞いてきたので、さとは
「そうだな、こんだけあったら店開けるな」
笑って言いました。
と、
『ピンポーン』
インターホンが鳴りました。
「あ、俺出るね。…は〜い」
しょぉがインターホンに出て、
「オレ手洗ってうがいしてこよっと」
まぁはまた風のように洗面所へ。
しょぉはインターホンを切って、
「まぁ、同じクラスのお友達みたいだよ~」
まぁにリビングから声を掛けました。
「え、オレぇ?風間ポン?」
「話したのは女の子だけど。中入ってって言ったら、お邪魔になるので外でいいですって。すぐ帰りますって言ってたけど」
「女子?なんだろ?オレ忘れ物でもしたかな?」
まぁに続いて、好奇心旺盛な双子たちも玄関へ。
まぁがドアを開けると、外にはクラスの女の子たちがズラリといて、びっくりしました。
「え、なになに?」
「まぁくん、さっきのお兄さん?」
「さっき?ああ、しょぉちゃんのこと?」
「しょぉさんっていうんだ、すっごいイケメンだね」
一人の女の子の声に、みんなウンウンと頷いています。
「そうでしょ~、しょぉちゃん、カッコイイだけじゃなくて、頭もすごい良いんだよ~」
自慢の兄のことを褒められて、まぁも嬉しくなりました。
まぁの嬉しそうな声に、双子たちが後ろから、チラッと顔を覗かせると、
「まって、この子たちめっちゃ可愛い!」
「弟さん?」
まぁの脚にしがみついたまま、こくりと頷くにぃのとじゅーん。
「お名前は~?」
「じゅーんちゃん…」
「にぃのちゃんですよ」
「可愛すぎ~!」
「お兄さんも弟さんたちもカッコよすぎる!」
女の子たちが色めき立って、ざわざわとしています。
そのざわめきはリビングにも届いて、
「ン?なんかちっと、騒がしいな。双子連れてくるわ」
さとが玄関に向かいました。
「え?もう一人お兄さん?」
「あ、うん、さとちゃんだよ!」
「どぅも」
さとが会釈すると、キャー!と女の子の間から黄色い声が上がりました。
「にぃの、じゅーん、お話の邪魔になるから、お姉ちゃんたちにバイバイって」
「ばいばい」
「ばいば~い」
もみじのお手々をフリフリするにぃのとじゅーんに、
「バイバイ」
「またね~」
女の子たちも口々にそう言って手を振ってくれました。
さとたちがリビングに戻ると、程なくしてまぁも戻ってきました。
「あれ、もういいの?」
「うん。女子一同からだって」
まぁが紙袋から、白い箱を取り出しました。
蓋を開けると、
「あ、チョコレート」
「まぁちゃんも、ちょこれいと?」
「うん」
「わざわざ皆んなで持って来てくれたんだね」
「そうだね、女子って大変だね~
風間ポンはどんなの貰ってるかなぁ。明日聞いてみよっと。
あ、そうそう、女子たち、『まぁ君の兄弟、イケメン過ぎる』って言ってたよ~、くふふふっ♪」
チョコレートを貰ったことより、兄弟を褒めてもらったことの方が嬉しそうなまぁです。
さて、テーブルの上に山と積まれたチョコレート。
「……どうすっかなぁ。食いきれんのは誰かにあげる?」
「いや、バレンタインで頂いてるんだし、それはダメでしょ」
「だよなぁ…」
「でも、食べ切っちゃうんじゃない?
去年も最後は、ホットケーキに入れたり、溶かしてホットチョコレートにしたり、何だかんだ、美味しく頂いたもんね」
「きっと年々量が増えてくぞ」
「まぁもにぃのもじゅーんも、成長してけば食べる量も増えてくし、大丈夫だよ、ね?」
「うん!いっぱいたべるよ」
「ちょこれいとだいすき」
「にぃのちゃんは、、ちょっとだけたべます」
「ハハハッ、うんうん、みんなそれぞれで、ね」
「ン。じゃぁ、有難くいただきましょう!」
「は〜い!いっただきま〜す♪♪♪♪♪」
💙❤️💚💛💜