METライブビューイング2023-2024シーズン
ヴェルディ/歌劇「運命の力」
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:マリウシュ・トレリンスキ
レオノーラ:リーゼ・ダーヴィドセン
ドン・アルヴァーロ:ブライアン・ジェイド
ドン・カルロ:イーゴル・ゴロヴァテンコ
プレツィオジッラ:ユディット・クタージ
メリトーネ修道士:パトリック・カルフィッツィ
カラトラーヴァ公爵/修道院長:ソロマン・ハワード
MET上演日:2024年3月9日
METライブビューイングの上演演目は豪華な歌手陣でエンターテイメントに徹していて本当に楽しめます。
1週間上映期間が長い東劇で最終日に飛び込んで見てきました(けっこう観客が多くてびっくり)。
序曲ばかり圧倒的に有名な「運命の力」も、2000年代はマリインスキー劇場(初稿!)やミラノ・スカラ座での来日公演や、新国立劇場(井上道義さん指揮!)でも取り上げ、少なからず実演に接する機会もあったのですが、最近はとんと上がらない。ようやく、来年3月に大阪交響楽団で演奏会形式で取り上げる模様。
たしかに暗いし、ちょっと荒唐無稽な展開に苦笑もしてしまうけど、中期から後期になろうかというヴェルディ円熟の作曲技法で、後年の「ドン・カルロ」や「アイーダ」を先取りした音楽が楽しめます。
歌手陣はみんな素晴らしかったのですが、やはりリーゼ・ダーヴィドセンの存在感(体の大きさも)が圧倒的。ワーグナーやシュトラウス、ベートーヴェンなどドイツもののソプラノ歌手として世界を席巻している方ですが、ついにイタリアオペラに進出。
まずこの「運命の力」のレオノーラを選択したのは賢明だったと思いました。繊細な表現力からクライマックスでの分厚いオケを突き抜ける力強い声を要する役を見事に演じてくれました。
第1幕・第2幕を続けて登場しドラマを牽引、その後第3幕の出番はなく、前後の休憩を挟んで2時間近くのインタバルを挟んでの第4幕第2場での超有名なアリア「神よ平和を与えたまえ」は圧巻の歌唱でした。
アルヴァーロ役のジェイドは、やや暗めで重いテナーで後期のヴェルディに相応しい声。見た目もなかなかにワイルドで、インタビューで「この役はオテロへの登竜門のよう」と応え、将来のオテロ役をうかがわせる発言。それも納得の力強さで実に良かったです。
アルヴァーロへの復讐を果たすべく追いかけまわすドン・カルロ役のゴロヴァンテンコもいいバリトン歌手でした。METでヴェルディを歌うのは初めてとのことでしたが、これなら主要なヴェルディ・オペラのすべてのバリトン役をこなせるのではないか。今後、次々と役を代え出てきそう。
きょう、演出上特長があったのが、カラトラーヴァ公爵(お父さん)と修道院長をハワードが兼任していたこと。第1幕で拳銃の暴発により早々に亡くなってしまう公爵。それがきっかけで運命の歯車がみなを不幸にする方向へ回転し始めるわけですが、娘のレオノーラが最終的に駆け込む修道院の院長が、お父さん役と同じ人…というのは、いろいろな含みを感じさせました(演出の中ではあまり強調はしていませんでしたが)。
全体的に暗い色調のこの作品の中での気分転換役でもあるメリトーネ修道士役のカルフィッツィも素晴らしかったです。早口のアリアも楽しく見事で、ロッシーニやドニゼッティなどのブッフォを得意としているのでしょう。
ネゼ・セガン指揮のオケも終始緊張感のある迫力ある演奏でした。序曲から全開だったのですが、序曲からいろいろ舞台が動いていて、ちょっと聞く方の集中力がそがれましたけど。
その演出は、全体の舞台を現代に近い時代に移していて、戦争の前夜・最中・戦後といった流れで各幕を展開していました。あまり尖った演出をしないMETにあって中々斬新ではありましたが、中身としてはそれほど気張ったことはせず温厚なものだったと思います。
今回の案内役は、同じ時期に上演されたグノーの「ロメオとジュリエット」のジュリエット役のネイディーン・シエラ。ライブビューイングでも次週から上映されるとあって、しっかり宣伝もしていました。これも見逃せません。