ヘンシェル・クァルテット来日公演
クリストフ・ヘンシェル/ダニエル・ベル(ヴァイオリン)
モニカ・ヘンシェル(ヴィオラ)
マティアス・バイヤー=カルツホイ(チェロ)]
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 Op.44-1
シューベルト:弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 D804 「ロザムンデ」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 Op.59-3 「ラズモフスキー第3番」
(アンコール)
・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番~カヴァティーナ
結成30周年のヘンシェル・クァルテット。堂々たるドイツ・プログラム。ギラギラした腕自慢のクァルテットが多い中、ベテランらしい優しいアンサンブルで、なんかホッとします。
最初のメンデルスゾーンは、作品44の3曲の中では最後に書かれたらしいのですが、明るい曲調から出版の際は頭に持ってきたとのこと。
確かにメンデルスゾーンの幸福な時期の作品らしく、伸びやかで明るい感じで始まります。
ヘンシェル・クァルテットのキャリアの最初の頃からメンデルスゾーンの6曲を取り上げ、名声を高めただけあって手慣れた演奏。
昨今の若手クァルテットのキビキビした演奏からすると、ずい分と脱力した軽やかなアンサンブルで、余裕を感じさせます。
ちょっとメランコリックな第2楽章、第3楽章を経て、終楽章は「イタリア」交響曲の終楽章を思わせる闊達な音楽。
ここでも技巧をひけらかすわけでなく、あくまで整ったアンサンブルで品格を感じさせる演奏でした。
次のシューベルト「ロザムンデ」は一転、第1楽章での深い表現力が見事でした。シューベルト晩年(といっても30代ですが)の様式を先取りしたような、揺蕩う音楽に引き込まれました。
何を以って「ドイツ的なもの」とするかは曖昧ですが、ドイツ語を話す人でなければ表現できないアンサンブルを聴いているようで、また30年間培ってきたアンサンブルの妙を存分に味わせてくれました。
第2楽章で「ロザムンデ」第3幕間奏曲の主題を用いた変奏曲になると、第1楽章の緊張がようやく緩めることができました。
ここでもロザムンデの主題の下で、内声部のうごめきが絶妙で、この作品の真価に気づかされました。
後半の「ラズモフスキー」第3番は、シューベルトからは一転、開放的なアンサンブルでストレートに音楽が迫ってくる演奏でした。
ここでも大げさな表現は少しもなく、良い意味で淡々と音楽を進めていく姿は風格すら感じました。
フーガで始まる壮大な追いかけっこの終楽章も、力で乗り切るのでなく、あくまで軽い力で音を遠くまで飛ばすような、ベテランの味わいが深い見事な演奏でした。
やはり世界の第一線で積み上げてきたアンサンブルの味わいは格別です。
アンコールはベートーヴェンの第13番からカヴァティーナ。のめり込み過ぎず、淡々と音楽を進める中で味わい深さを感じさせる手腕がさすがでした。
ようやく秋を感じさせる陽気の中、秀逸なクァルテットを味わうことができて良かったです。