トリオ・ヴァンダラー来日公演
ヴァンサン・コック(ピアノ)
ジャン=マルク・フィリップ=ヴァルジャベディアン(ヴァイオリン)
ラファエル・ピドゥ(チェロ)ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番ロ長調 op.8(1854年初版)
シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調 op.100, D929
(アンコール)
・ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第6番から第2楽章
パリ音楽院の学生だった3人が1987年にトリオを結成以来、現在まで不動のメンバー。確固たる実力を持ち合わせるトリオ・ヴァンダラー。
ぼくは8年前の2016年の来日公演を所沢で聴いて以来です。あの時は「大公」「ドゥムキー」「偉大な芸術家…」と3つの重量級プロでしたが、今日もブラームスとシューベルトの大作を前後半に配す堂々たるプログラム。
さすがと言うしかない鉄壁の演奏でした。
壮年の男3人がステージに並ぶさまからして、三賢人の対話を聴くようで説得力が半端ないです。
前半のブラームスのトリオ1番は、珍しい1854年の初稿。よく聞く改訂版より全体で7~8分長く、40分以上の演奏時間。
冒頭第1楽章第1主題でのピドゥのチェロの音色が惚れ惚れするくらい素晴らしく、いきなり心を鷲づかみにされます。
初稿は第2主題から何やら逡巡し始めるのですが、若きブラームスが初めて取り組んだ室内楽曲ということで、想いの丈をすべてぶち込んだところがあって、その意欲には心打たれるのですが、ちょっと整理がついてないという部分も多いです。
それでも第1主題は、ブラームスが思いついたメロディとしては傑作で、このメロディが再現されると音楽に推進力が出てきます。
第2楽章はあまり改訂されていないように、初稿の段階から完成度が高いです。若さがほとばしる音楽でヴァンダラーのアンサンブルも意欲的で活気がありました。
瞑想的な第3楽章では集中力が素晴らしく、後年だいぶ手が入った終楽章は、いい意味でも悪い意味でも若きブラームスの気迫が前面に押し出されていて、これはこれで聴いていて楽しかったです。
とくにクライマックスでの迫力は、ヴァンダラーの卓越したアンサンブルで見事な演奏を繰り広げてくれました。
後半のシューベルト第2番は、あの「冬の旅」後の最晩年の作品。基本明るく活気ある曲なのですが、随所に晩年ならではの寂寥感も顔を出します。
ここでのヴァンダラーは、もう完全に手中に収めたレパートリーと言った感じで、アンサンブルをするというより、全く自然体で3人の呼吸、アゴーギグが揃っているという、長年培ってきた威力を存分に味あわせてくれました。
やはり聴きどころは第2楽章で、「冬の旅」の続きかのような歩行動機で始まり、孤独感がたまりません。
終楽章まで、わりと早めのテンポでさらっと演奏していながら味わいは深く、さすがの芸風を聞かせてました。
アンコールはベートーヴェンの第6番から。これまた素晴らしい演奏で、有名作が多いベートーヴェンのトリオながら、中々いい演奏にめぐり合えないところ、ヴァンダラーの演奏は楽々「これぞベートーヴェンのトリオ」というところを聴かせてくれました。
トリオ・ヴァンダラー、まだまだ活躍できる期間は長そうで、あのボーザール・トリオに並ぶ(超える)常設のトリオとしての活躍が期待されます。
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