1月も後半になりましたが、今年1回目の記事です。遅ればせながら明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
毎年、最初の記事は恒例の「新春初笑いエラー・レコード大会」ですが、今年はエラーとはちょっと違うかもしれませんが、ビートルズの演奏楽曲が収録されていないのにもかかわらず、ジャケットにビートルズの写真が使用されているレコードを紹介します。意図的に消費者がビートルズ楽曲収録レコードと間違えて購入するのを狙ったものではないと思いますが、実際、そう思って購入し、ビートルズの曲が入っていないじゃないか、と憤慨した人も必ずいたと思いますので、ある種のエラー・レコードと呼んでも良いのではないでしょうか。60年代の中頃までは肖像権、著作権に関する認識が薄く、本家の東芝では数タイトルのレコードが製作されましたが、70年代以降はかなり減っています。70年代以降は東芝以外の中小レコード会社が発売したレコードを中心に確認できます。
60年代に多く製作された、日本人アーティスト歌唱のビートルズ楽曲を収録したソノシートでは、レコードよりもかなり多くのビートルズ写真を使用したジャケットが製作されました。こちらはレコードよりも書籍の認識が強かったためか、ビートルズの写真を使用しやすかったのではないかと思われます。ソノシートについても、今後、紹介したいと考えています。
最初は東芝が発売したビートルズ写真使用ジャケットのLPを紹介します。なお、ビートルズの写真使用は、表ジャケットは当然のこと、裏ジャケットに使用されたレコードも紹介しますが、見開きジャケットの内側や解説書等の添付シートに使用された場合については、購入前に外から見えないということで、基本的には割愛させていただきます。題して「THE BEATLES’ WITHOUT THE BEATLES~ビートルズのいないビートルズのレコード」の東芝編の1回目です。
■ホリーリッジ・ストリングス「ビートルズ・ソング・ブック」(東芝音工キャピトルCP-7112、発売:64年8月15日)
<ジャケット裏>
<ジャケット表>
USのイージー・リスニング楽団、ホリーリッジ・ストリングスのビートルズのインストゥルメンタル楽曲を収録したLPです。すべてビートルズのカバー曲で構成されたLPとして、またジャケットにビートルズの写真を使用したカバーLPとしても国内初になるのではないでしょうか。
ホリーリッジ・ストリングスはアレンジと指揮を担当するスチュ・フィリップスが中心の楽団で、多くのビートルズ・カバー曲を録音しており、国内でも結構多くのカバーLPが発売されています。今後、国内発売LPを紹介したいと考えています。US国内でも人気があったようで、LP「ビートルズ物語」のA面の冒頭に「抱きしめたい」の抜粋が使用され、またシングル「オール・マイ・ラヴィング」がビルボードにチャート・インしています。
ジャケット表はUSオリジナルのキャピトル盤LP「THE BEATLES SONG BOOK」((S)T-2116)ジャケットと同じデザインでLPタイトル、収録曲等が印刷された文字のみ、ジャケット裏も文字のみですが、国内盤のジャケット裏には大きくビートルズの写真が使用されています。こちらを表にして発売すればビートルズのLPと勘違いしてしまう人も多くいたかもしれません。使用された写真は映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」のステージ演奏シーンで、「テル・ミー・ホワイ」演奏中の写真です。
なおUS盤と国内盤の収録曲は全く同じですがA面とB面の収録曲が入れ替えられ、US盤B面最後の「抱きしめたい」が国内盤ではA面1曲目に、A面最後の「シー・ラヴズ・ユー」がB面最後から2曲目に移動されています。国内で人気があった曲を前に持ってくるように変更したのでしょうか。
<US盤ジャケット表>
<US盤ジャケット裏>
■スクリーン・スタジオ・オーケストラ「ステレオ・スクリーン・ハイライト(ブーベの恋人)」(東芝音工 東芝TP-7038、発売:64年10月5日)
<ジャケット裏>
<ジャケット表>
東芝は専属の楽団であるスクリーン・スタジオ・オーケストラによる映画音楽LPをシリーズとして60年代を中心に発売していました。映画音楽ですから、ビートルズ主演の映画も対象となっていました。映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」公開後に発売されたLPには、映画のタイトル・ソングのインストゥルメンタル・カバーが収録されています。
ジャケット表はサブ・タイトルにもなっている映画「ブーベの恋人」主演のジョージ・チャキリスとクラウディア・カルデナーレが向き合う写真ですが、ジャケット裏にビートルズが演奏する写真が使用されています。写真は映画より「恋におちたら」を演奏するシーンです(ジョージが写っていません(残念))。
なお翌65年には、ビートルズの写真をジャケット表に使用した同シリーズのLPを発売します。
■ジョージ・マーティン楽団「ビートルズ・ヒット・ソング集」(東芝音工オデオンCP-7149、発売:64年12月15日)
<ジャケット表>
<ジャケット裏>
<帯付ジャケット>
ジョージ・マーティン楽団の国内初LPです。このLPで初めてビートルズ演奏楽曲収録以外のレコードで、ジャケット表にビートルズの写真が使用されました。映画で「キャント・バイ・ミー・ラヴ」が流れるシーンの広場でジャンプする写真が使用されており、ジャケットだけを見るとビートルズのLPと言われても違和感はありません。ジャケット裏にもマーティンとビートルズの4人が写った写真が使用されています。国内盤LP「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」のジャケット写真よりではリンゴは後姿しか写っていませんので、むしろこちらのデザインのほうがビートルズのLPジャケットには相応しいような気もします。
なお、このLPのオリジナルは64年にUKで発売されたLP「OFF THE BEATLE TRACK」(PMC-1227・PSC-3057)で、UK盤のジャケット表にもビートルズの写真は使用されていますが、使用写真やデザインは全く異なります。一方、ジャケット裏はデザインが類似しており、同じ写真が使用され、どちらにもジョンのライナー・ノーツが記載されています。
<UK盤ジャケット表>
<UK盤ジャケット裏>
このLPもUK盤と国内盤の収録曲は全く同じですが曲順が変更され、「抱きしめたい」が1曲目になっています。このLPも今回も国内で人気があった曲を前に持ってきたようです。なお、このマーティンのLPタイトルは、LP「プリーズ・プリーズ・ミー」製作時にポールが考えていたLPジャケット・デザインのタイトルになります。
また、国内の見本盤のレーベルにはA面1曲目が「リンゴのテーマ」となっていますが、実際には通常盤と同じく「抱きしめたい」が1曲目に収録されています。当初は同年9月に先行シングルとして発売したこの曲を主要曲として1曲目に持ってくる予定だったのでしょうか。ちなみにこの曲の英語タイトルは「This Boy」ではなく、ジャケットは「Ringo’s Theme」、レーベルは「RINGO’S THEME(THIS BOY)」となっています。
<見本盤レーベル>
■ホリーリッジ・ストリングス「」ビートルズ・ソング・ブック第2集」(東芝音工キャピトルCP-7238、発売:65年7月15日)
<ジャケット裏>
<ジャケット表>
65年7月に、11ヶ月ぶりにホリーリッジ・ストリングスの第2弾LPが発売されました。今回もジャケット裏にビートルズの写真が使用されています。64年2月のエド・サリヴァン・ショー出演時の写真です。背景から、リハーサル時の写真だと思われます。ここではジョンがコンサートの際によくやっていた変顔の写真が使用されています。後ろのリンゴがジョンを見て笑っています。なにもこんな変顔のジョンの写真を使用しなくてもよかったのに、と思ってしまいます。
このLPもUS盤LP「THE BEATLE SONG BOOK Vol.2」((S)T-2202)の国内発売で、ジャケット表のデザインは全く同じで、裏のみ変更されています。US盤のジャケット裏ではバイオリンのシルエットに曲目等が印刷されています。US盤はシングル・ジャケットですが国内盤は見開きジャケットで、ジャケット内側にビートルズの写真と解説が印刷されています。
<US盤ジャケット表>
<US盤ジャケット裏>
この第2集は国内盤とUS盤の曲目・曲順は全く一緒です。なお、国内盤はUS盤のマスターを使用したようで、ランオフ部に三角形で囲まれた「I AM」の刻印が見られます。キャピトルのスクラントン工場で製作されたマスターを使用して国内でプレスをしたようです。上記の第1集にはUSキャピトル工場の刻印が見られませんので、国内でマスターを製作したものと思われます。
最後にこのLPの裏ジャケットは、66年に東京芝浦電気発売のポータブル・プレーヤー「リズミー」の広告にも使用されています。
<週刊読売臨時増刊「ビートルズが来た!」より>
次回は65年の続きからです。