すかいうぉーかー -73ページ目

すかいうぉーかー

CRAZY=SPELL−BOUND





“信楽”を過ぎた辺りで、本格的な雪にみまわれた



だが、初期型から10年以上熟成されたカウルの性能はさすがだった


肩よりも下

レバーを握る手の先

何よりも足が、全くと言って良い程濡れない



この状態を維持する為に、速度を150より落としたくなかった

路面の感じに神経を使いながら、時折現れる陸橋の横風にあおられ 軽くリヤのトラクションが持って行かれたりするのをジッと耐える



アクセルは戻さない



メットのスクリーンを、風圧に押された水滴が生き物のように這う









長い旅の終わり

もう、すぐそこにあるのだ








目的のインターを降りる頃には、雪も雨に変わっていた


凍える手で、事前にプリントしてあった地図を取り出し

吐く息で白く曇るスクリーンを拭う


膝から下は感覚が鈍り、凍った棒のようだ






国道と線路と病院

目印はそれだけ




だが、確信があった
近くまで行けば必ず分かる




俺は道も人の名前も覚えが悪いし
以前来た時は電車だった


それでも





何だろう、この感じは




あったのだ

家を出る時からずっと、“待っていてくれてる”感じが







見覚えのある商店街


懐かしい木造の入り口






前にR1を停める
引き戸がガラリと開き、気の良さそうな おばあちゃんが顔を出し



「お疲れさん。今 いぶ呼んで来るわ」







飛び出して来たのは、背の伸びた小僧

嬉しそうにはしゃぎ、R1を見て瞳をキラキラさせる



フルフェイスを取って、「持つよ」と言う若様に渡すと

俺の周りをピョンピョン跳び回る






奥から



出て来た俺の“姉ちゃん”















「ただいま」





「おかえり(笑)」
















俺は、妙に晴れがましい気分で到着した達成感を顔に出し


水と泥跳ねでイイ男になったR1を見て笑った



(続



 
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どれぐらいぶりって、新車で買った時から1回も換えてませんが












さて(笑)



 
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HONDA RS250


WGPの250ccクラスでも使われた、本当のコンペマシン




20年近く前
鈴鹿に出て来たばかりの彼が、金を貯めてようやくZXRから乗り換えた純血のレーサー



それはまさに“化け物”だったそうだ




あってはならない
そんな力と過激さ


説明しながら記憶を手繰る午前3時さんの目つきが変わる

こんな所で、刃物抜くなよ(苦笑)






でも、ここなんだよな

俺と彼が仲良くなったのって





初めて乗った日の夜は寝付けずに、そのまま飲みに行ったそうだ

俺はレーサーって意味では、CRの125やカートぐらいしか乗った事が無いが

それでも、想像は出来る




2ストのレーサーってのは、本当に次元が1つ違う

市販のバイクのような、初心者や下手くそを許容してくれる優しさは一切ない


その代わり
分かっている奴を、運ぶ力は神の領域だ



泣き言は一切通用しない出力特性

常に刃物を突き付けられているような危険



今の600や1000なんて、肉食ではあっても「猛毒」は持ってない





レース1回走る度に、イチイチ全バラして

そんな話、公道畑の俺からしたら諭吉がどんだけ飛んで行くのかって感じだが

年間のシリーズ戦に、金持ちのボンボンでもない彼らがどうやって参戦するか




住宅ローン組んだ奴もいるのだ







このマシンをどう乗るか

あのコースで、何をどうするか


それだけで、何年も

出来るだろう

かかるだろう







“みんなやっている”


“ついこの前までパドックで話してた人間が、普通にGPを走り テレビやバイク雑誌に出ている”


“バイト先に行けば、昨日のレースで疲れて居眠りする自分が許され”


“パーツに困れば、何処からか手に入る”



普通の人間が5~6万も払って買わなければならないタイヤですら、特別価格な上にツケが効き

気がつけば数百万の





街全体が

もはや、違う国


メーカーの人間は、ドラッグのバイヤーだ




結果を出せた奴はイイ

ステップアップして、遥か上に行けた奴はイイ



だが、それ以外は?




一度や二度、表彰台に上がれたぐらいで

8耐にライダーとして出た事があるからと言って



国際Aなんて、ゴロゴロ居るこの街で







何処で終わりにすれば?


どのタイミングが、キリがイイ?




特上のアッパー バッドトリップ無し


待ちぐるみの阿片履


一個人が自覚し難い常用性


気がつけば、体も人生(社会的に)もボロボロ








そんなもの無い

自分で決めるしか無い









「本当は、みんなやめたいんだよ(笑) でも、戻って来ちゃうんだ」









同じだ


公道だろうがサーキットだろうが




そして同じじゃない











同じバイク?












違うよ


全然違う






別に優劣があるとは思わない


でも、全然違う








俺と彼が“格好いい”と思う物は、かなり近い


それは“ロックフェス”であり“ナンバーガール”であり“ムーンアイズ”であり“TEXACOの看板”なのだが



バイクの外見をどうカスタマイズするか、とか
そういった趣味は、多分バイク乗りのカテゴリーでくくったら、ほぼ全く同じと言ってもイイ

逆に言えば、バイクの世界はまだまだ“ダサい”




それが
西と東に住み

全然違う仕事をしながら

同じようにバイクに狂って、年齢を重ね大人になり

熱病のような夢からは覚めて、それでもきちんと納得が行く程度のレベルには達し

“どう乗っていくか”を考えている
























「雪降って来たなあ」





「まあ、大丈夫でしょ」







地平の彼方に、うっすらと雪をかぶった尾根
昨日とは比べものにならない寒さ

鉛色の空からは、はらはらと儚げな白い粒



でも、もう近い






鈴鹿インターまで、真っ直ぐ行けば良い場所まで送ってもらい

「じゃあまた」
















手を上げると


俺は振り向かずに

地平の先を睨んでアクセルを開けた



(続



 

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亡くなった祖母の家を改造したというその店は
やり方もセンスも俺好み


店長はフジロックとサッカーが大好きだというだけあって
古い木造の平屋の中は、綺麗な板張りの床にテーブル席が並び

トッティやロナウドのボビングヘッドと、FCローマのユニフォームが何枚も掛けられた奥で、50インチぐらいの液晶モニターに「COLD=PLAY」のライブ映像が流されていた


そんなに金をかけている訳じゃないが
このお洒落とアットホームさの融合はなかなか無い

居心地の良さが桁違いである





午前3時さんに注文を任せると、程なく香ばしい匂いと共にできたてのピザとパスタが運ばれて来た










「・・・美味い汗




思わず口をついた

何だコレ汗
東京なら3000円ぐらい取れるんじゃないか汗汗汗

パリパリの薄皮と、チーズとソース、焼き加減に焦げ目までのバランスが絶妙過ぎる
そうそうお目にかかれるレベルじゃない



別に、繁華街の真ん中にあるとかじゃないのだ







「イイ店やれる店なんよ(笑)」







懐かし過ぎるわ

つくづく鈴鹿ってのは、面白い街である

そして“音楽とフェス”ってモノが距離や年代を越えて日本中を繋ぐぐらいデカい物なんだと実感する


そう
この店の雰囲気はフジロックそのものなのだ





今年はストーン・ローゼスも来るし、久々になんとかして行ってみたいな

一緒にいく奴探さなきゃ













引っ越したばかりと言うメゾネットの部屋へ行くと
3年ぶりの奥さんと対面


コタツに入り、他愛も無い話から鈴鹿ローカルの話へ







“80~90年代の鈴鹿は、街全体が麻薬なんじゃないか”


そう表現した俺に、午前3時さんが「確かに」と笑う












RSは凶器で












レースをやっている事は免罪符だった と



(続


 








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「cisco !!」



最後のシャウトと同時に浜名湖SAに飛び込んだ


いつまでも終わらない静岡県に辟易しながらも、ようやく差し掛かった中盤戦の終わりにホッとし
メットを脱ぎ、イヤホンを外して音楽プレイヤーを止め、一息つく




夜の帝王に電話し、鈴鹿インターまでの道筋を確認
給油もそこそこに出発する


気温が下がり始める前に、ある程度の目処はつけたい


長距離特有の、段々色んな物が麻痺して行く感覚

寒さで固まって行く体


それでも股下の獣は ゴウゴウと火を吐きながら、水温計を75℃から下げようとしない






















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伊勢湾岸は、相変わらずの横風だった


200前後で洋上に飛び出した途端に、しっかりと構えていた体ごと1車線近くフッ飛ばされ

湾岸独特のドブ臭い潮の香りを嗅ぎながら、夕日の中に陽炎のように佇むデカい遊園地の前を走り抜ける






新名神で、横浜だの足立だの 知ってるナンバーだらけの渋滞を抜き去り


鈴鹿の看板でウインカーを左に出す頃には、時計は16時を回っていた








再び電話をして、数km先のホンダのディーラーへ行くと

ホイールにムーンディスクを付けた、赤いミラのウォークスルーバンがハザードを炊いていた





「うぃっす~」




数百kmを走って来た感覚が、一瞬で無くなる


フジロックの“フェス飯”ランキングで6位に輝いた男は
相変わらずの飄々とした空気で出迎えてくれた


相変わらずの“悪い”オーラ

自分が好きな事にだけ 人の3倍は頑張る、俺と全く同じタイプ





不思議なもんである

岡山のレースで初対面して以来、静岡・鈴鹿・東京と
こんだけ距離の離れている男と、これだけ絡むってのも


元は、ブログで会っただけだと言うのに







月2万円という、東京じゃ夢のような賃料の倉庫に案内され
鉄板だのハンバーガーの看板だのの積まれた奥へ入り

ボロい事務机の椅子を勧められて座り、小さなアコーディオンの玩具をしげしげ眺めながら煙草に火を点ける



中は、真新しい単管でキッチリと棚が組まれ
苗場に8000食分の材料を用意する前線基地が作らていた


食材の調達

人の手配

看板や照明の工夫

保冷車の準備



聞けば聞くほど面白い




サマソニやアラバキ、ロックインジャパンに上田ジョイントまで出店している男でも
やはり「フジは別格」だと言う

業界内での“やっかみ”


「フジなら」と、ツケにしてくれた肉屋




「毎日が博打」と言う彼の話を、時間を忘れて聞く



ケミカルブラザーズがハンバーガー買いに来たのに対し



「are You Band man ?」



と面と向かって言ったらしい(笑)







「そろそろ、飯食いに行きましょか~」




以前に連れて行ってもらった、ゴミ溜め(本当に失礼だが、一番イメージを伝えやすい)のような、4耐優勝ショップに寄って、車のオイルを換え





挨拶もそこそこに


「鈴鹿で一番美味い」と午前3時さんが言うピザ屋さんに向かった




(続



 




「ポン」と、一発背中を

重くて  ぶ厚くて  温かい


















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じゃあ、また


 
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もうね

メインイベントに相応しいっちゅーか

400km走って来る価値があるっちゅーか








うめぇええええ



 










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まばらな車列が、厚木を過ぎて詰まり始めた


年末渋滞の感じが分からないなりにサクサクとスリ抜けし、時折流れている区間に入るとR1に鞭をくれる





御殿場までが、まず長い
イメージよりもずっとだ


そのまま足柄へ


一気に気温が下がる

冷たい風が全身を叩くが、手は意外と冷たくない
グローブもそうだが、カウルの形状がデカい

昔、ZZRで 肩も膝も雨に濡れない事に感動したのを思い出す







行けるか







上体を伏せ
誰も通っていない登坂車線へ飛び出すと、向かい風に向かってアクセルをひねる

離陸しそうな勢いでR1が地を蹴る、冷たいだけだった大気が一気に圧力を持って全身に襲いかかる




(そこそこキツいな汗


185まで跳ね上がったメーター



蛇のようにうねる高速コーナーがバックリと口を開けている



ブルブルと首を揺らされながら、「スッ スッ」と体勢を作り

200に達した車体ごと、アウトから綺麗に飛び込む




車体が横風に巻かれ、小刻みにブレる中を 風の中心に向かって肩と視線を向ける


路面は冷えているのか、よく分からないが
車体を傾けて軽くコーナリングしているのに、車体は真っ直ぐ走っている状態


アッパーカウルが


フロントフェンダーが


スクリーンが 空気を切り裂いているのが分かる









前を行く、ワゴンの挙動がおかしい





(・・・チッ)




ウインカーも出さずに、コチラへ「にゅうっ」と尻が飛び出して来るのを
想定通りの減速とラインでかわし、ちょっと近いぐらいの距離でワザと速度をのせて抜き去る









「うおっ!?」



全体的な下りに入った瞬間だった

トンネルを抜けた途端、急激に気温が下がり



ブレーキを当てて ラインを変えようとした俺の臍から上に、デカい巨人の手のような突風のボディブローがブチ込まれ

のけぞった頭が、刈り取られるように斜め後ろに跳ね上げられた




(こんの野・・郎ぉ・・・汗




ググググっと、背筋で首を戻し

伏せて車体を傾け、風の流れをいなすように車線を左へ







目の前に車が居なくなった


沼津までまだ20kmもあんのかよ

時計は40分近く経過している



あんまり無理もしたくないが、この状態が“1時間長く”続くぐらいなら、とっとと行ってしまいたかった








タイヤは滑らないか?

車体は吹き飛ばされないか?

















「・・・そんなにヤワじゃねぇよな?」







スッと体を伏せ、肩を縮めると
両足に力を入れ、手首を捻る



R1は、頼もしかった


少しでも気を抜けば、すぐに1車線近く持って行かれる風のなかで

ケツの下の車体を押し出す力が 簡単に1レベル強くなるのが分かった




250まで一息に駆け上がる

足と膝と肘で車体を




狭くなる視界

激減する、ラインの選択肢




スクリーンの先を睨み
水飴のようになった空気の壁を掻き分けて

ジットリと耐えるように車線を行き来しながら、長い長い槍を投げるように













沼津を一息で後方に置き去りにし









何とか1時間で富士川へ滑り込む











「・・・ちょっと厳しいかな」






名物(?)の“ようかんパン”をほうばりながら 呟く


















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富士山は、見事なまでに綺麗だった




(続



 





寝ぼけた頭で布団から這い出し
水が入れっぱなしの薬缶を火にかけて、リステリンの蓋を開けて口に流し込む






「・・・何だこりゃ」



窓から射し込む光が、妙に強い

部屋の中も、昨日までとは暖かさが段違いだ




事前にちょっと調べた上では、高速の凍結だの雪だのが心配ではあったが
もう、起きた瞬間に分かった



「コレは“行ける”」







煙草に火を点け

ノロノロと着替えながら、もはや全国の天気とかを見る事はしない



年末の空気

澄み渡った青空と、綺麗な空気と、歩みを停めたような時間の流れ方



とりあえず、トリッカーで駅前へ
振り込みとか、家賃とか
諸々の用事を淡々と済ませる




荷物は大した事はない
シャツとパンツと靴下




オットリ刀で、R1に火が入ったのは12時を過ぎていた





















「縁」ってのがある








世の中に



「部屋さがし」


「車」


「仕事」


「友人」









俺も幾つかは感じた




「ああ、これは縁だな」




「コレは縁が無いから、仕方ないな」












シンプルだ



今日行く所には、あるのだ

明日行く家庭にも










靴下2枚

ヒートテック

貼り付けカイロ




そんなもんだ








環八をのんびり下り

高速への傾斜を登って、飛び出した3車線






まずは「鈴鹿」

約400km



空いてりゃ2時間








「んっ」









料金所をくぐり


もはや、疑いようの無い確信に包まれた俺は

数100キロの行程に、散歩でも出掛けるような気持ちでアクセルを強めに開けて「ザブリ」と飛び込み



ガッシリと足で車体をホールドし





R1のフロントを軽く上げながら、詰まり始めた車列の隙間に 全開で消えた




(続