日航123便事故③ 技術的考察 | 夢老い人の呟き

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いまだに日航123便陰謀論者は後を絶たず、米軍がどうの、自衛隊のミスと証拠隠滅だの、証拠隠滅のために遺体は炭化するまで焼かれただのというような腹立たしい本も出版されたりしていますし、森永卓郎のようにメディアにそれを流す人もいます。
 
事故の原因を究明すれば米軍のミサイルが当たったの、自衛隊の標的機がぶつかったのというような外部からの衝突やミサイルなどではない事は明白ですが、陰謀論は消えません。
しかし陰謀論の前提となるのは次のような事でしょう。
  1. 圧力隔壁破損を否定。
  2. 圧力隔壁破損により機内が急減圧したことを否定。
  3. 圧力隔壁からの空気流による垂直尾翼破壊を否定。
  4. 1項.2項と関連するが、圧力隔壁が壊れたのは墜落の衝撃によってであるとする。
その他、当たり前の現象を取り上げて、さも重大な異常のごとく主張することもあるようです。
 
 
米国は早くから圧力隔壁破損に気付いていた

今はもう削除されていますが、1985年9月26日付の東京新聞の記事に次のような記述がありました。

 NTSB航空事故調査部門の元幹部ロン・シュリード氏らによると、米調査団は八月下旬、群馬県の墜落現場で残骸を調べ、修理ミスの痕跡を見つけた。シュリード氏は運輸省の事故調に修理ミスを伝えたが、日本側は九月に入っても公表しなかった。  

 

 国際的な取り決めで、航空事故の調査は発生国が主体となり、その他の国は調査に関わる情報を勝手に発信できない。このため当時のバーネット NTSB委員長(故人)が業を煮やし、同紙にひそかに情報提供するようシュリード氏に指示した。シュリード氏は「連邦航空局(FAA)や米議会が、同型機への問題の波及を気にしていた」と当時の事情を語った。

 米国では、故意や重大な過失がない一般的な航空事故での操縦士らの刑事責任が免責され、NTSBの権限も強い。日本は群馬県警の捜査が並行し、事故調の独断で情報を出せない事情もあった。  

以下省略

そして米国ではご覧のように、9月26日の東京新聞に先立つ9月7日から、何誌も報道されています。
 
 
この辺をもう少し捕捉しますと、事故翌日に来日した調査団は事故翌々日8月14日相模湾から回収された破片を観察して垂直尾翼に高圧の空気が流れ込んだと推測しています。
  • そして8月22日、2度目の現地入り(初めての現地調査!)で、修理された隔壁の一部に一列しかリベットが効いていない箇所があることを発見しました。
  • 8月26日には 米国の“国家運輸安全委員会(NTSB)” 本部はストライエーションと呼ばれる金属疲労痕を見つけています。

しかし 8月27日日本の事故調査委員会による中間報告では、修理ミスについて触れられておらず9月に入っても日本側は公表をためらっていました

そこでボーイング747の構造自体には何ら問題無いことを周知するため、NTSB委員長ジム・バーネットロン・シュリードにリークするよう指示シュリードからニューヨークタイムズの記者にリークしたといういきさつのようです。
 
 
急減圧したことは疑いようがない
 
まず急減圧についてですが、「ドーン」という大きな音と共に、前向きに0.11Gの加速度を記録した18時24分35秒の高度は約24000フィート(約7200メートル)ですが、この時の外気圧は概ね0.4気圧強くらいです。
ジャンボ機は気圧が地上の1/4くらいの高度1万メートル以上の高空を巡行する時でも、機内は0.8気圧、標高2000メートル相当くらい(富士山の5合目くらい)の気圧に与圧されます。
機内の気圧は自動的に制御され、上昇するにつれて徐々に与圧されますので18時24分35秒時の客室内高度は分かりませんが、スバルラインを登り始めたくらいでしょうか?
 
「ドーン」という大きな音の直後に機内が白くなったとか、客室内の空気を貨物室に逃がすベントパネルが開いたという証言からも急減圧したことが分かりますが、音のした2秒後機内高度10000フィート(3000メートル)以上で作動する客室高度警報が鳴り、9秒後機内高度14000フィート(4200メートル)で作動する「緊急降下中、緊急降下中、タバコの火を消してください、酸素マスクを着けてください・・・」というPRA(Pre Recorded Announceが流れています。
 

このPRAの作動には14000フィートのアネロイドスイッチが作動してから5秒間のタイムデレイがあったと記憶していますが、客室高度警報PRA(Pre Recorded Announce)は別々のスイッチを使用していますので、「ドーン」という音の2秒後に10000フィートのアネロイドスイッチが働き、9秒後(タイムデレイを計算すると4秒後)に14000フィートのアネロイドスイッチが作動した事になります。

 
2つの別々のスイッチがともに誤作動することはあり得ず、また各々のスイッチが作動した時間経過からも急減圧があったことは間違いありません。
 
 
垂直尾翼の構造
 
垂直尾翼は➀フロントスパー前方のフォワードトルクボックス ➁フロントスパーリアスパーで形成されたアフトトルクボックスリアスパーに取りつけられた方向舵という構成になります。
 

B747の垂直尾翼は下図のような構造をしています。

・下図の上の図の黒い部分は海中から発見された、最初に脱落した部分です。
・格子線の部分は山中で発見された、飛行中最後まで残っていた部分です。
 
  • -400の図の黄色線はフロントスパーリアスパーで、黄色線で囲まれた部分がアフトトルクボックスです。
  • フロントスパーの前方にはフロントスパーAuxiliary Sparで形成されるフォワードトルクボックスがありますが、こちは前縁のフィンを形成するためのもので、主な荷重はアフトトルクボックスが受け持ちます。
  • APU(補助動力装置)はJA8119とタイプが違いますが位置は同じです。

外部からの衝突やミサイルでフォワードトルクボックスだけを残してアフトトルクボックスを飛散させるのは無理ですし、まして一度にAPUを脱落させるのはさらに無理です。

 
APU隔壁の方が先に壊れるから垂直尾翼は破壊されないという反論について
 
よく「破壊試験で解析したら云々・・・」という話があります。
耐圧試験ではAPU防火隔壁の方が先に壊れAPUが脱落するから、垂直尾翼が壊れるのはおかしいというわけです。
 
しかしそもそも垂直尾翼は飛行中に受ける動圧ラダーやラダーPCUPower Control Unit、上図のロワーラダー駆動用油圧アクチュエーターと書かれた部分で、コントロールバルブも一体になっている)の反力などに対して耐えるように設計されていますが、アフトトルクボックスに内圧がかかることなど想定していません
 
また急激な、大量の空気の噴き込みや飛行中のダイナミックロードを無視した、静的状態での耐圧試験で論じるのは無意味だと思いますが、次のようなコンピューター解析が行われました。
空気力学の専門家が機体全体の空気の流れを解析することにより検証し、機体を8つに区分けして、圧力隔壁の破壊の開口部により、空気の流れがどのように変化するかを計算しました。
 
計算の結果、圧力隔壁の開口部の大きさにより、➀圧力隔壁破壊後0.04~0.09秒後APU防火壁が壊れ始め、➁垂直尾翼が壊れ始めるのはその0.2秒後であることが分かった。
③そして事故機は圧力隔壁が壊れてからわずか0.3秒ほどで、APU、垂直尾翼が次々と破壊されるとした。
 

この計算結果は、デジタルフライトデータレコーダー(DFDR)で異常発生時、機体が11トンの力で前方に押し出された後、下に押し下げられているが、計算により導き出された破壊順序と極めてよく一致した

出典:日本航空123便墜落事故
 
 
垂直尾翼破壊のシナリオ
 
下図はアフトトルクボックスを上から見た断面図ですが、垂直尾翼の外板ストリンガーを介してリブと結合されています。
  • これに内圧がかかると外板が膨らみ、右図のようにストリンガーリブの結合部が壊れます
  • さらに内圧がかかると次々にストリンガーが壊れ左下図のように外板が膨らみトルクボックスの強度が低下します。
 

 

圧力隔壁からの高速の空気流は、一気に隔壁後方のStabilizer Compartmentに噴きこみました。

  • 0.2秒後APU(補助動力装置)コンパートメントの防火壁APUを脱落させる。
  • 0.3秒後に垂直尾翼アフトトルクボックス上部のリベットがとび、これによってアフトトルクボックスの捩じり強度が著しく低下破壊が始まります
  • 0.4秒後以降垂直尾翼の大半が破壊されて飛散しました。

 

【垂直尾翼破壊のシナリオ】

図出典:File:Japan Airlines 123 - Rear destruction process ja.svg

 

 

■プレッシャーリリーフ・ドアが開かなかった事は問題では無い

またAPUコンパート前方のスタビライザーコンパートのアクセスドアは、プレッシャーリリーフドアを兼ねています。

そのため「これがオープンすれば一連の破壊を防げたのではないか」「これが開かなかったのはJALの整備ミスではないか」と非難する人もいますが、これは間違いです。

 

このドアはAPUからの圧縮空気のダクトの破損に対しての、オーバープレッシャーを防ぐためのもので、「圧力隔壁が破壊し、大量の空気が一気に流入する」という可能性は想定外です。

 

また圧力隔壁破損に対しては噴きこまれる空気量に対してあまりにも小さくドアが開こうが開くまいが結果は同じです。

 

【Pressure Relief Door Open時の垂直尾翼破壊のシナリオ】

図出典:File:Japan Airlines 123 - Rear destruction process ja.svg

 

 

 

事故の原因となったボーイング社の修理
 

JA8119の修理作業は事故から半月後の1978年6月17日~7月11日、羽田空港においてボーイング社の修理チームによって行われた。 後部圧力隔壁は主に下部を損傷していた為、ボーイング社は隔壁の下半分、Lower Bulkheadをそっくり交換するという修理方針を出していた。

 
 

次の【図1】は圧力隔壁の左半分を拡大して後部から見た図です。

L18を境に上部圧力隔壁下部圧力隔壁に分かれますが、下半分の下部圧力隔壁を交換しました。

しかし送られてきた下部圧力隔壁は、下図のベイ2ベイ3の部分が短く、2列リベット結合でなければならないのに、1列リベット結合しかできません。

【図1】

図出典: “失敗知識データベース-失敗百選 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落

 

そのために下図中央のCorrect Repairのようにリベット3列幅のSplice Plate(水色)を入れて上部隔壁、下部隔壁共にリベット2列で締結する修理指示書が出されました。

 

■誤魔化しの修理


ところが下図中央のようにリベット3列幅のスプライス・プレートを入れるべきところ、下図右図のようにリベット2列幅のスプライス・プレートとリベット1列のダミー・プレート(下図ではFiller Plate)に分割しました。
これでは全くSpliceの役目をしません。
 【通常の結合方法】    【修理指示書の結合方法】   【実際に行われた結合方法

図出典: “Fire on the Mountain: The crash of Japan Airlines flight 123

 

 

その結果、上部圧力隔壁リベットラインクラック(赤色の線)が入り、破断しました。

出典: “Lessons Learned From Civil Aviation Accidents  Accident Overview

 

 

検査と圧力隔壁の破壊

 

1984年 12月に行われた、隔壁修理後 7 回目で最後の C チェックでは、上記の上部隔壁のリベット列の亀裂は、長さが 10 mm に達したと考えられています。

そして事故が起きた1985年の8月までに、隔壁は修理以来12,000回以上の飛行を蓄積し、金属疲労は限界点に近づいていました。

写真出典:“Fire on the Mountain: The crash of Japan Airlines flight 123

 

そして一気に破壊され、非与圧域のスタブライザーコンパートに与圧された空気が噴きこみました。

 

図出典:File:Japan Airlines 123 fig32 Damage to af pressure bulkhead.png

 

 

事故後の再発防止策は?

 

この事故後再発防止のため、次のように改修されました。

  1. 垂直尾翼内に空気が噴きこんだ点検孔はAccess Plateで塞がれました。
  2. 油圧系統には一定量以上の流量が流れると遮断するHaydroaulic Fuseが各系統ごとに設けられ、作動油が全て流出する事が無いように改修されました。
 
 
日本の事故調査はこれで良いのか?
 
日本には事故原因を解明するための専門的な独立した調査機関はありません。
事故調査は警察主導の、刑事の法的責任追及を伴うものとなります。
技術的な調査能力の問題もありますし、また自分に不都合な事を証言しないのは憲法に保証された権利ですから、これではなかなか真実の証言が得られにくいでしょう。
 
また航空機事故の調査能力が警察にあるのか?
さらに例えば自動車事故で車両に欠陥があったとしても、警察に調査能力があるか?
車両の欠陥調査はメーカーに依頼することとなり、運転者や運輸会社の責任とされてしまうのではないか?
 
一方アメリカは法的責任追及よりも原因究明と再発防止を優先させます。
独立した事故調査機関である米国の “国家運輸安全委員会(NTSB)” は事故の当事者に刑事免責を与えた上で原因究明に全面的に協力させる「司法取引」の制度があります。 
事故の再発を防ぐためにも、誰に責任があるかを決める調査で冤罪を生まないためにも、日本の事故調査は改めるべきではないでしょうか?