再生可能エネルギーを増やす上で障害となっているのが送電線の空き容量です。
まずは次の動画の11分50秒からをご視聴下さい。
空き容量にについては14分10秒から、空き容量に対して疑問を呈する京大の安田教授の意見については16分40秒からをご覧下さい。
クローズアップ現代でも取り上げていたように、実際の使用率が低いのに空き容量が無く、再エネ参入の妨げとなっています。
では送電線の空き容量とは何でしょうか?
どのように定められているのかでしょうか?
分かりやすいように単純な2回線の送電系統でごく大雑把に考えると次のようになります。
- 2回線のうちの1回線分、つまり送電容量の50%は緊急用に空けておきます。
- そして緊急用の1回線分50%を除いた分、つまり設備容量の50%が利用できる「運用容量」となります。
- そして「運用容量」と系統中の「全ての電源がフル稼働」をした場合の「合計発電量」との差が「空き容量」となります。
- 従って再稼働できず停止中の原発の発電容量も「空き容量」の計算に組み込まれています。
- そのため利用率が低いのに空き容量ゼロということが起ります。
そこで、運用を見直して
既存系統を最大限生かそうというのが「コネクト&マネージ」です。
なお、京大安田教授のご意見については本記事をお読みになった後、「コラム連載 送電線空容量に潜む本質的な問題」をお読みいただきたいと思います。
「送電網・配電網」、つまり電気を各地へ送るためのシステム全体のことを指して系統といいます。
運用容量・空き容量は送電網・配電網で考えなければなりませんが、話がややこしくなりますので、以下は単純な2回線の場合で説明します。
■送電線の1本が切れても、ほかでカバーできるか?
電力系統は、電気の性質上、需要(=電力利用量)と供給(=発電量)のバランスをとりながら運用されなくてはなりません。このバランスがくずれると、停電が引き起こされてしまいます。
もし、いつも100万kWの電力を流している送電線が、落雷事故などで切れてしまうことにより電力を流せなくなってしまうとどうなるでしょう。100万kWの電力が流れることを前提にバランスをとっていた系統は、急にその流れが止まることで、全体の需給バランスをくずしてしまい、停電につながってしまいます。
そこで、電力系統には、たとえ1本の送電線が故障した場合でも、電気をほかの送電線に流してカバーできるようにすることで、停電を防ぐしくみになっています。これは「N-1(エヌ マイナス イチ)基準」とよばれる考え方に基づくもので、日本だけでなく、欧米など国際的にも広く採用されているものです。
そのためには、送電線の容量に、ある程度の空きが残されている必要があります。たとえば送電線が単純な2回線であれば、原則的には1回線分の容量である「50%」という利用率が、平常時に電気を流すことができる最大の容量となるのです。
出典:【送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み】
※この運用容量は下図のように予約分も含めた全ての電源がピークとして計算します。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180504/14/boumu/d3/d4/p/o0529039114183719536.png?caw=800)
出典:【送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み】
空き容量は
「設備容量の50%」-「予約分も含む全ての電源の最大発電量」なので、停止中の原発のように眠っている電源があると、実際の使用率は低いのに空き容量ゼロとなることがあります。
しかし、震災前でもせいぜい60%程度の稼働率だった原発が再稼働して、全機とも最大出力を発生し、同時に火力や水力発電所も最大出力、予約中だった再エネの発電所も完成し、全ての太陽光発電所も最大出力、風力発電もまた最大出力、これが同時起きるという奇跡のような可能性があるのか?
全く0%ではないという事でしょうが、限りなくゼロに近く、数学的にも統計学的にもゼロだと思います。
上記の考え方からすれば、利用率は平均値ではなく年間の最大値で考えねばならず、そのピークの利用率は設備容量の50%以下でなければなりません。
その観点で見るとリミットに近いものもあるにはあります。
次の図は北東北の電力系統です。
全体的に見ると十和田幹線の6.2%など、かなり低そうですが、中には年間最大実績ベースの利用率で42.8%となっている幹線もあります。
出典:【送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み】
しかし緊急時の空き容量は50%も必要か?、運用容量は電源フル稼働で計算する必要があるか?という疑問が生じるかと思います。
そこで運用を見直して既存系統を最大限活用するのがコネクト&マネージです。
イギリスでは、北部エリアの系統の送電容量が十分でなかったため、風力発電(陸上・洋上)を中心とした再生可能エネルギー事業者が計画する1200万kWもの容量が一時接続待ちの状況となった。そのためOfgem(電力規制機関)は、2011年からTSO(Transmission System Operator=送電系統運用者)レベルにおいて、系統増強が完成するまでの間、「コネクト&マネージ」の運用を開始した。コネクト&マネージの対象はすべての電源だが、再エネの割合は将来の接続予定を含め2015年時点で84%を占めている 。
「コネクト&マネージ 送電線の空き容量問題」より引用
2018年1月24日に「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の第二回が資源エネルギー庁で開催されたが、当日の議論では第一回では概念レベルであった「日本版コネクト&マネージ」の内容がかなり具体化された。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180504/17/boumu/71/a9/p/o0667044414183813828.png?caw=800)
「日本版コネクト&マネージ」と従来の運用方針との違いについては、大きく三点にまとめられた。
一つは「空容量の算定方式」(図①)で、これまでの系統運用方針では系統に接続されている全ての電源がフル稼働する前提で容量が割り当てられていた。この方式は極めて保守的で系統混雑などのトラブルが発生する可能性は低くなるが、その分現実の電気の潮流と想定潮流の間に乖離が出て、全体としての系統利用率が低くなってしまう。要は潮流を過大に見積もって余裕を持たせすぎているということだ。こうした従来方式に対して、今後は実態の運用状況に沿った形で容量を割り当てるものとされた。基本的な考え方としては、再エネに関しては過去の最大実績を、火力発電については地域のメリットオーダー(限界コストの安い順での運用)を考慮した容量が設定され、想定潮流の合理化が図られる予定だ。
二つ目は「緊急時用の枠の一部開放」(図②)である。これまでは通常2回線のうち1回線を予備回線として無条件に確保していた。いわば全体の50%を緊急時用に確保していたわけだが、今後は事後時に瞬時遮断する装置を設置することを条件に予備回線の一部を解放する「N-1電制システム」を採用することとした。
三つ目は「(系統混雑による)出力制御前提の接続」(図③)である。
これまでは系統混雑時の出力制御を前提とした状態で新たな電源を接続することはなかったが、今後は混雑時の出力制御を前提とした接続を認める。具体的には特定の送電容量を持たず、系統に空きがある時に送電することができる「ノンファーム型接続」を認める方針が打ち出された。なお現在一般に言われている太陽光発電、風力発電などの「出力制御案件」は系統混雑時ではなく、需給の不一致時の出力制御を想定したものであるので、両者の混同を避けられたい。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20180504/17/boumu/e1/ec/p/o0669044914183813931.png?caw=800)
これが実施されれば新規参入が増えると思いますが、まだ検討が具体的に入った段階ですので、まだまだ時間がかかると思います。
始まってみたら参入は中国企業、設備は中国製なんて事がありそうですが、規制緩和万歳、自由競争万歳、グローバリズム万歳の社会ですから止めようがないでしょうね。
「また中国かよ。大袈裟な」と思う人もいるでしょうから、次の記事で驚愕のデータをご紹介します。