カナダの航空機衝突事故と飛行機の雑学 | 夢老い人の呟き

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1月5日カナダのでトロント・ピアソン国際空港で、ターミナルスポットに入るために待機していたウェストジェット機(乗員6名乗客168名)の右翼端にスポットからプッシュバック(牽引車で押し出す)してきたサンウイング機(乗員乗客無し)(ともにボーイング737-800)の尾部が衝突する事故がありました。

この事故でサンウイング機の尾部から火災が発生しました。

ウエストジェット機の機内からの写真を見るとかなり激しいようです。

 

消火中の写真を見るとかなり激しく燃えていますが、発生源はAPU(Auxiliary Power Unit:電力とエアコン用の圧縮空気を作るための小型ジェットエンジンの補助動力装置)です。

しかしAPUの火災というよりも、APUの燃料が燃焼室内で燃焼しきれず、後燃えでエキゾーストから噴き出して燃えているのだと推測します。(私の勝手な推測ですが、多分間違っていないと思います)

 

消火後の写真(下左)を見るとAPUコンパートメントには火災の痕跡は無く、その後方が焼けて損傷しています。

APUコンパートメントは周囲が防火壁となっており、右の参考写真の赤く囲った部分は防火壁後方のフェアリングで、内部にはAPUのエキゾーストダクトとエアーインテークダクトがあります。

この損傷を見ると、APUの停止操作をすれば火炎は消えたはずですが、事故後の対処操作ができていないようです。

日本の航空会社(空港)でしたら、プッシュバック時には緊急時にAPUの停止操作ができるよう、訓練を受けた作業者がBrake Manとしてコクピットに乗るはずですが、カナダの規則はどうなっているのでしょうか?

 

 

雑学の時間

ここからは雑学ですが、B737は1967年から生産されているベストセラー機です。

しかもコクピットや胴体の骨格は1964年から就航しているB727と共通という息の長さで、通算8000機以上生産されています。

この間、基本的には同じ機体でも競争力を失わないよう改良が続けられてきました。

 

初期の機体と今回の-800シリーズでは、同じ外見でも全く違う機種というくらい改良されていますが、外見での違いとしてはウイングレット(主翼翼端の縦型の小さな翼)と尾翼の大きさです。

航空機は新世代の機体ほど尾翼、特に水平尾翼が小さくなりますが、これはなぜか?

水平尾翼を小さくするデメリットは何か?

というのが今回のテーマです。

 

 

水平尾翼が機体の安定のために付けられているのは誰でも知っていますが、水平尾翼は上向きの揚力だと思っているのではないでしょうか?

 

ところが水平尾翼の揚力は下図のように下向きです。

このため 主翼の揚力 = 機体の重量 + 尾翼の下向きの力  となります。

これが水平尾翼を小さくしたい理由ですが、ではなぜ重心が揚力中心よりも前かというと機体のPitchが乱れた場合に自然と収束する、収束性のピッチスタビリティを持たせるためです。

 

出典:http://www.cfijapan.com/study/html/to199/html-to125/110b-stability_airplane-2.htm

 

もし重心よりも主翼の揚力中心が前にあり水平尾翼の揚力が上向きだったとすると、例えば機首下げになると機体が加速する事により水平尾翼の揚力が大きくなりますます機首下げになり、ピッチスタビリティは発散性になり、安定して飛行するのが困難になります。

 

 

 

ところが現在の航空機は燃費競争が激しくなっています。

空気抵抗は出来るだけ小さくしたく、そのためには水平尾翼の下向きの力は極力小さくして抗力を減らそうとします。

 

そのためにはどうするかというと重心のコントロールをち密にし(水平尾翼にも燃料タンクを設け、燃料を移動する事により重心位置を調整するなど)、重心と主翼の揚力中心の距離を近づけます。するとモーメントの関係で水平尾翼の下向きの力は小さくてもすみ、水平尾翼を小さくできます。

 

ところが重心と空力中心を近づけると昇降舵の利きは過敏になります。

そのままではパイロットが制御困難になるほど過敏になる事もあり、電子制御、オートパイロットで素早く精密にピッチコントロールを行うことによりスタビリティを持たせます。

 

ということで空気抵抗とスタビリティはバーターとなり、素の状態では昔の機体ほど安定性が良いわけで、燃費のために安全性を低下させているように思えて少々疑問です。


実際、重たいエンジンを垂直尾翼に付けたために水平尾翼を大きくせざるを得なかった、DC-10型機の発展型のMD-11型機は極端にシビアで、LSAS(Longitudinal Stability Augmentation System)が働かない状態ではパイロットの操作は過剰となりオーバーシュートしやすい性格で、これが原因と思える事故も起きています。
また1997年にはこの特性により、名古屋空港に向け降下中のMD11で 「客室乗務員死亡事故」 も起きており、その後同型機は全て貨物機に改修されました。

 

 

次の動画は成田空港で起きた事故ですが、これが旅客機だったら大惨事でした。

※最初の白煙は機体後部の接触ではなくタイヤの接地です。

 風の影響もあったでしょうが接地後の機首上げ・機首下げのピッチングの激しさを見ると、パイロットの操作が過大だったのかも知れません。

なお着陸時の横風に対しては機種とパイロットのグレードによりリミットが定められています。