美術や芸術には疎い私なので、先ず訪問などあり得ない美術展だが、たまたまS橋さんからご案内を頂き、東京都美術館で開催されていた第51回「新美展」に足を運んだ。S橋さんは私を同志社混声合唱団に紹介くださった恩人だ。


新美展は昭和42年発足の新生美術会が催される美術展で、広く全国から作品を募集されている。S橋さんはそれに応募され、2つの作品が入選したらしい。一つは「夕焼けの美山」、のどかな風景の中に自然と協調して生きようとする人々の暮らしが見えるようだ。


もう一つは「黄昏の八坂」で、夜を迎える祇園の艶っぽい佇まいが見事に描かれている。「夕焼けの美山」が豊かだが厳しい自然を感じさせる作品なら、「黄昏の八坂」は人々の息遣いや笑い声が聞こえて来そうな、人の温もりを感じさせる作品だ。


どちらの世界に行きたいかと尋ねられたら、「夕焼けまでは美山、その後、黄昏の八坂に移動」かな(笑)  S橋さん、ご案内ありがとうございました。

6月3日(土)、紀尾井ホールで同志社混声合唱団〈東京〉の定期演奏会が開催された。前日の暴風雨から開催できるかどうかを心配し、それ以上に、合唱や演奏会の経験が乏しい私が代表で、本当に最後まで行けるのかどうかが心配だったが、当日はお昼前に雨が上がり、演奏会も委員の皆さんの奮闘で最後まで無事に運営することができた。感謝。



ステージに上がる直前、一番広い楽屋に集合し、最後の声出しをすることになっていた。「そん時、幹事長から一言お願いします。いいっすね?」と委員のIさんから言われていたから、さて、何を言えば良いのかと一週間考え続けたが、当日の朝、お祈りをすると決めた。



「神さま、指揮者の中村先生とピアニストの清水先生と相澤先生、それから47名の団員が集まりました。今日、ステージに上がりたいと願っておられたAさんは先日亡くなられ、「水のいのち」だけは歌いたいとおっしゃっていたBさんも闘病中で間に合わず、断念されました。又、Cさんは今朝5時に名古屋駅まで行かれましたが、新幹線が止まっていたため上京が叶いませんでした」



「人生は思い通りにはならない、だからこそ、ベストを尽くせ。そう、神さまから教えられたように思います。ですから、ベストを尽くすことを私たちはお約束します。神さま、その代わり、一つだけお願いがあります。これまで、中村先生からたくさんの注意を受けてきました。できれば、歌ってから「しまった!」と思い出すのではなく、歌う前に思い出させてください(笑) では、行って参ります」



失敗もあったが、演奏会後の打ち上げではみんな笑っていた。素敵な笑顔に囲まれ、幸せな夜になった。神さま、ありがとうございました。

朴 令鈴さんのピアノでバリトン大沼 徹さんがシューベルトの「美しき水車小屋の娘」を歌われた。これはシューベルトが作曲した三大歌曲集の一つとのこと。



20曲から成るこの歌曲集は、一人の若い粉職人が修行の旅に出るところから始まる。彼は水車小屋の美しい娘に出会って恋に落ち、その恋が実ったかと思いきやライバルの狩人が現れ、彼女を奪ってしまう。嫉妬に苦しみながらも彼女を思い続けるが、やがて耐えきれなくなって小川に身を投げる、という物語のようだ。

大沼さんはその青年を演じ、見知らぬ世界への好奇心、美しい娘と出会ったときの興奮、恋に落ち、彼女を得たときの喜び、ライバルが現れたときの嫉妬と焦り、そして彼女を奪われたときの喪失感を一人で見事に歌い分けられた。

鉛筆に例えると、合唱団で歌っている私はHB一本。これに対し、大沼さんの筆箱には6Bから9Hまで入っており、その上、色鉛筆や場合によっては絵の具まで繰り出せるということか。プロは凄いと思うが、ともかく私はHBの芯を折らないよう大事に使おうと思う。