インタビューに応え、イチロー選手が「二度と投手の悪口は言わない」と言って記者たちを笑わせている。野球のセンスだけではなく、ユーモアのセンスも抜群のようだ。イチロー選手に限って他のポジションの選手を悪く言ったりはしないだろうが、この「悪口」、団体スポーツでは良くあることだと思う。

かくいう私も、走らせれば私より鈍足、しかもパスが下手で時々ノックオンまでする当時の第一列のことを良くからかった。「お前ら、走るより転がった方が速いんとちゃう?」、「パスが下手やなぁ。まぁ、僕らは手を使うけど、君らは前足を使っているんやから仕方ないか」等々、好きなことを言わせて貰い、ラグビーを知らない人には「背番号1番から3番は動物です」と説明した。

ところが、何かの拍子にスクラムの練習で第一列に入らされた。もちろん1番3番ではなく、フッカーと呼ばれる2番だったが、最初のスクラムで息が詰まった。頭が真っ白になったが、2回目3回目位になると息が吸えなくなり、5回目位で悲しくもないのに涙が出てきた。 2番でこれだとしたら、1番3番は一体どれほどの圧力を前後から受けているんだろうと思い、気が遠くなった。

その経験から、私も2度と第一列の悪口は言うまいと心に誓った。以後、ラグビーを知らない人には、「スクラムを最前列で組むFW第一列は大変です。前にいる敵だけではなく、後ろの味方からも物凄い圧力を受けるんです。普通の人間には絶対に務まりません。背番号1番から3番は動物です」(笑)
毎日新聞の夕刊に「イチロー初登板」という記事と写真が出た。ビックリして記事を読み始めたが、それが公式戦での出来事と知り、更に驚いた。

イチロー

記事によれば、1ヶ月半前からマーリンズのジェニングス監督と登板の機会について話し、それがレギュラーシーズン最後の試合で実現したらしい。イチローは「一回マウンドに立ってみたかった。メジャーリーグのマウンドに立つなんて通常あり得ないですから」と話し、ジェニングス監督は「シーズンの最後に、イチローのような将来、殿堂入りする選手が投手として投げるのをみんなが見てもいい」と述べている。

イチロー選手は甲子園に投手として出場し、オールスター戦でも投手として登板した経験がある。それを知ってのこととは言え、何とも素敵な話だと思った。個人の才能や努力を認め、実績ある者には敬意を払い、許される範囲で特別な配慮をする。そして、観客もそれを受け容れる。これがアメリカの良いところなのかなと思った。ちなみに、イチロー選手は打者5人に対して投げ、1人目と3人目に二塁打を浴びて失点したが、きちんと後続を経ち、面目を保っている。何とも凄い選手だ。
南アに勝った日本代表はどこが良かったのかと聞かれので、さまざまな意見があるとは思いますがと断った上で、次の三つを挙げた。

1.セットプレーで負けなかった。
2.ボールを持たない選手の運動量が勝っていた。
3.五郎丸選手のゴールキックのお陰で逆転可能な点差を維持できた。

最後の逆転に至るラインアウトのプレッシャーは凄かったろうと思うが、教科書にしたいような美しいスローイングとキャッチングを見られた。スクラムでも南アの強いプレッシャーに耐えたパッキングに執念を感じたが、いずれも練習の賜物で、日本代表が繰り返してきた質・量ともに高いレベルの練習を彷彿とさせるものだったと思う。

又、日本代表はラックやモールでもしぶとくボールをキープして前進を重ねたが、これはボールを持たない選手の意思統一と運動量が南アを上回っていたからだと思う。ラグビーは頭数のスポーツだと言われるが、体格と体力に勝る南アに日本代表は頭数で互角以上の戦いを見せ、こちらもラグビーを学ぶ者には素晴らしい教材になったのではないか。

最後に、日本代表が終盤に見せた集中力は驚異としか言いようがないし、あの激しいコンタクトが続く中、良くぞ誰一人としてノックオンしなかったものだと思う。多分、その集中力は逆転可能な点差が維持できていたからだと思うし、五郎丸選手の精度の高いゴールキックが南アをじわじわ追い詰めて行ったのだと思う。

そういう日本代表がスコットランドに完敗したのはどうしてかと聞かれたが、あんなに激しいゲームをした後、中3日で体力を回復させるのは無理だと思う。では、サモアには勝ちますかと尋ねられ、「はい」と答えはしたが、絶対の自信がある訳ではなく、ドキドキしながらゲームを観た。

結果的には、南アに勝利できた理由1と2がそのまま当てはまるように思うし、五郎丸選手のゴールキックが着実に点差を広げ、それが快勝につながったように思う。しかし、もう一つ、攻撃的なタックルがサモアの攻撃リズムを崩すだけでなく、しっかりパッキングすることで前進を食い止めていたように思う。

途中退場した山田選手は逆ヘッドでタックルに行き、首を痛めたように見えた。経験者なら分かると思うが、逆ヘッドのタックルは威力がある分、危険を伴う。昨夜の日本代表はそういうタックルに迷いなく飛び込めるほど、ディフェンスでも攻撃的なリズムと気力を維持していたということだろう。山田選手の無事を祈る。