勝間和代さんの「人づきあいはコスパで考えるとうまくいく」を読んだ。「人間関係に悩んでいるなら、この本がきっと役に立ちます」と勝間さんが言いきっておられるし、やるべきことは2つだけとおっしゃるから、これは手っ取り早いかもと思い、読み始めた。



さて、やるべきことの1つは、嫌いな人や苦手な人との人間関係に時間や労力をかけるのを止め、人間関係を「コスパ」で考えようというもの。確かに、そういう方々への気遣いや対応は空振りに終わることが多いだろうから、少し距離を取った方が良さそうだ。もう1つは、人間関係を構築するための「スキル」を身に付けようというもの。すなわち、快適な人間関係はスキルで解決できるとされており、私たちを困らせる人のタイプを分類し、快適なコミュニケーションを実現するためのスキルを具体的に解説されている。さらりと読めて面白かった。

最も印象に残ったのは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱したという「メラビアンの法則」だ。これによると、コミュニケーションの3要素に占める伝わり方を分析すると、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、これに対し、言語情報は7%に過ぎない。


すなわち、人は話の内容そのものよりも、視覚や聴覚から得られる情報によってメッセージを受け取っているとのこと。平たく言えば、饒舌かどうかより、見た目や普段の行動がモノを言うらしい。見た目が老化していく私としては、これまで以上に普段の言動に注意しなければと思った。

大学時代、一緒にラグビーに励んだM柴の奥さまが書の個展を開かれたらしい。その写真が送られてきたが、見事な作品ばかりだ。その中に同志社の校祖、新島襄先生が詠まれた「庭上一寒梅」という詩があった。



新島先生は「寒梅」の詩を二つ残しておられるそうだ。その一つ。

 

真理似寒梅

敢侵風雪開

 

真理は寒梅に似たり

敢えて風雪を侵して開く

 

同志社で学び、日銀総裁となった深井英五への色紙に新島先生が記された詩とのこと。京都の地で多くの抵抗に遭いながらも同志社創立を成し遂げた新島先生の強い意志と、風雪に耐えた後に美しく花開く寒梅とが見事に重なる。そして、もう一つが「庭上一寒梅」という詩だ。

 

庭上一寒梅

笑侵風雪開

不争又不力

自占百花魁

 

庭上の一寒梅

笑うて風雪を侵して開く

争わず又力めず(つとめず)

自ずから占む百花の魁(さきがけ)

 

募金集めに奔走し、その過労が原因で倒れてしまった新島先生が大磯の百足屋旅館で静養中に詠まれた詩。深井英五に贈られた漢詩に比べると、少し肩の力が抜け、庭に咲いた寒梅を微笑みながら眺めておられるようにも思える。やるべきことはやった、という新島先生のお気持ちが込められていたのだろうか。

 

私は同志社で学ぶ機会を与えられ、その同志社でラグビーに出会い、その後の人生が大きく開けたと思っている。それを思い出させてくれたM柴の奥さまに感謝。

先週の土曜日、バイオリニスト天満敦子さんとピアニスト岡田博美さんによるデュオ・リサイタルが紀尾井ホールで催された。



プロフィールによれば、お二人とも学生の頃から様々なコンクールで受賞を重ね、海外でも学び、あちらこちらで演奏されてきた日本を代表する音楽家だが、目を引いたのは、「これからは各駅停車!」と題して天満敦子さんが記されたパンフレットのあとがきだった。昨年夏、上高地に旅行された際の写真を掲載されていたが、車椅子に座った天満さんが優しく微笑んでおられる。

天満さんによると、遡ること3年半前に「頸椎損傷」を発病され、バイオリンを弾くどころか日常の生活も困難な状況になられたようだ。手術は成功したものの、12本の釘が首に埋め込まれ、これからも不自由が続くと書いておられる。しかし、「大学院を卒業以来、まるで新幹線のように突っ走ってきましたが、これからは数は少なくてもコンサートの一回一回を噛みしめながら歩んで行こうと思います。各駅停車です」と結んでおられる。

その天満さんが杖をつき、岡田さんに手を取られてステージに出て来られたが、バイオリンを構えるとまるで別人になられたかのように背筋をシャンと伸ばし、悠然と演奏を始められたのには驚いた。特にフランク作曲の「ヴァイオリン・ソナタ」の演奏では、天満さんが弾かれるバイオリンの音色に重みとエネルギーを感じ、大変失礼ながら、天満さんがしなやかに躍動する黒豹のように見えた。岡田さんのピアノはそんな天満さんの身体を癒すように吹き抜ける軽やかで爽やかな風のようで、これは素晴らしいコンビだと思った。初めて聴いた曲だったが、心を揺さぶられる思いがした。