【再放送】
総合テレビ:12月8日(木)午前1:40~ ※12月7日(水)深夜
※NHKプラスで配信中(配信期限 :12/11 午後9:49)
世界各地の森や都市が巨大な山火事に襲われている。雨が多く、リスクが少ないと思われてきた地域も例外ではない。取材班は、世界有数の山火事多発地帯であるアメリカ・カリフォルニアで、消防隊に密着。山火事との壮絶な闘いの一部始終を記録した。雨が降らないのに雷が地上を襲い、火災を起こす謎の現象「ドライ・ライトニング」とは?被害を拡大する危険な巨大雲「火災積乱雲」とは?大自然の驚異と人類の苦闘を迫真の映像で描く
※上記の公式サイトより引用
北海道のヒグマの話に続いて、また自然環境問題の話である。
今回は「ワイルドファイア 〜人類vs.森林火災〜」というタイトルで、森林火災を取り上げている。
「人類vs.森林火災」というタイトルには、随分と大風呂敷を広げたなぁと思って見ていたら、内容は主にカリフォルニアの消防隊のドキュメントであった。
---以下、ネタばれあり注意---
番組は世界中で山火事が増えているという話から始まる。
そして、今年二月の国連環境計画報告書が紹介され、このまま地球温暖化が進み続けると山火事が、2030年に最大で14%、2100年には最大57%増える可能性があると警告したという。
このままグローバルな視点での話が進むとおもいきや、ここからカリフォルニアの消防隊の具体的な話になる。
はっきりとは語られなかったが、ここ数年の熱波で乾燥が進み大規模な山火事が多発しているカリフォルニアでは、今後、世界全体に見られるであろう山火事の被害が既に起こっているという流れだろう。
取材先は CAL FIRE(カリフォルニア州森林保護防火局)で、複数の部隊、多くの人員と消防車、1000台を以上の火災発生の監視カメラと発火予測システムを擁している。
番組はまず、気象の観点でドライ・ライトニングと火災積乱雲という2つの現象を指摘する。
近年では、異常気象で多数の嵐が発生し何千という雷が落ちる。
雷雲から降る雨は地上に到達する前に蒸発するので、実際には雨は降らず雷だけが落ちる現象が発生する。
これがドライ・ライトニングと呼ばれる現象であり、地上には雨が降らないから火災のリスクが高まる。
更に、初期の火災の熱による強い上昇気流で火災積乱雲が発生すると、周囲から空気が流れ込み火の粉をまき散らして火災を広げていくという。
そして、今年9月に起こった2つの大規模火災の同時発生の現場が取材されていた。
ここから人的被害の話になっていく。
一つは、この火災が周囲の住宅地まで及んだことによる被災であり、もう一つは、消防隊員の負傷とPTSDである。
実際にPTSDを患って退職した元消防隊員のインタビューからは、消防活動の厳しい現実が伝わってきた。
ここでナレーションは「巨大火災にどう向き合うべきか」と問題提起をして、再び、国連環境計画報告書の内容を紹介する。
これによると、山火事の監視や消防能力の強化という対策の限界が指摘されていて、山火事の予防に予算を割くべきだという提言がされているという。
そして、具体的な方法の一つとして挙げられていたのが、先住民の伝統的な知識を取り入れるということであった。
この先住民の伝統的な知識による方法とは、具体的には野焼きである。
人為的に下草を焼く野焼きは、灰によって土壌が豊かになるので焼畑農業として農地でも行われてきたものである。
山林では野焼きによって定期的に下草を燃やしておくと、山火事が大きくならずに済む。
下手をすると山火事になりかねない野焼きは西洋人の開拓後に禁止されたが、先住民のユロック族はそれでもこの伝統技術を守り続けたということであった。
番組では、このユロック族の野焼きを消防隊員も学んで、協力して野焼きを広めていく模様が紹介された。
そしてユロック族の次のインタビューで終わった。
私たちは自然を征服するのではなく
理解しようとする必要があります
(中略)
私たちは健全な生態系を持たなければ
人類として存続することはできないのです
おぉ~、人類に繋げてきた!
いつもながら、そつのない番組の作りである。
それでは、番組を振り返っていくことにしよう。
まず、番組では触れられていなかったが、グローバルな視点では山火事の大きな問題は森林の消失である。
従って、森林の消失に対する山火事の影響の大きさは、森林伐採による森林の消失が拍車をかけている面がある。
また、人が住んでいる地域の山火事とそうでない地域では問題の内容も異なる。
この点では、下記のドキュメンタリー番組が思い出された。
※初回放送:2021年11月20日、NHKオンデマンドでの配信終了
グローバルの視点での問題に割かれた時間は長くはなかったが、具体的な話が中心だから、新たに問題が大きくなりつつある森林火災の提示と気象の観点での説明はこの程度でやむを得ないだろう。
この後は、住宅地の被災と消防隊員の負傷・PTSDという人的被害が提示され、国連環境計画報告書は山火事の予防を提言しているという流れである。
住宅地の被災の話に深入りし過ぎずに、現場の消防隊員の問題を取り上げている点を評価したい。
これはまた、問題が生じたら技術開発と対策部隊の強化で解決すればいいという姿勢を、暗に批判しているのだと思われた。
そして終盤に、先住民の野焼きの話になる。
ここでは、実効性があるというだけでなく、伝統的なやり方に学ぶことが環境破壊の抑止につながるということを暗に言っているように思われた。
全体として、
新たに問題が大きくなりつつある森林火災
問題が生じたら技術開発と対策部隊の強化で解決すればいいという姿勢の批判
伝統的なやり方に学ぶことが環境破壊の抑止につながる
というメッセージが伝わってくる内容ではあった。
これらのメッセージをもっと明確に伝えても良かったのではないかと思われたが、技術開発と対策部隊も必要であるし、伝統的なやり方ですべてが解決する訳ではないから事実ベースの作りにしたということかもしれない。
また、この番組は「人類vs.森林火災」というタイトルをつけて、最後にユロック族のインタビューで森林火災を「人類」の解決していかなければならない問題として終わっている
世界全体に広がりつつある問題だから「人類」として、自然との共存を目指してきた先住民の伝統的なあり方を提示した作りに見えた。
ここでのグローバルな視点の提示は中途半端に見えたので、もう少し強調してもよかったように思うが、この動き自体がまだ比較的最近のものだという事情による結果だろうか。
いずれにせよ、自然の大規模災害に自然が長い時間をかけて回復していくのに対して、人類の力はあまりに小さく、個人の人生はあまりにも短い。
この個人の人生があまりにも短かいということは、圧倒的に豊かな自然があったかつての時代を実感できないということであり、この結果として自然の減少量は個人が生きている間で相対的にしか感じられないということである。
やはりこれからは、自然が失われている現実をもっと実感していくことが必要であるように思われた。
また、伝統的なあり方は維持する人がいなくなれば失われていくものであるから、個人の人生を越えた時間単位で継続的に対策していくことが必要である。
とすれば、伝統的なあり方に学ぶだけでなく、伝統的なあり方が維持されていく社会を考えていく必要があるとも思われた。
日本の伝統的なあり方はどうなのだろうと思ったので、最後に今年放送された日本の自然を見るNHKスペシャルのシリーズ「新・映像詩 里山」を挙げて終わる。
(2)「阿蘇の大草原 火山と生きる」では、阿蘇の野焼きが紹介されている。
▼NHKオンデマンド 単品:220円(税込み)・購入期限:2023年3月2日
▼NHKオンデマンド 単品:220円(税込み)・購入期限:2023年3月23日
タイトルが「新・映像詩」なのは、このシリーズがかなり昔の旧シリーズの続編だからである。
映像詩 里山 覚えていますか ふるさとの風景(初回放送日:1999/02/07)
映像詩 里山 命めぐる水辺(初回放送日:2004/04/03)
映像詩 里山 森と人 響きあう命(初回放送日:2008/09/21)
こういう番組をもっと作って欲しいものだねぇ。