NHKスペシャル「OSO(オソ)18 ~ある“怪物ヒグマ”の記録~」 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 これは、北海道の一頭のヒグマの話である。

 

NHKプラスで配信中(配信期限 :12/3 午後10:49)

北海道に“怪物”と恐れられるヒグマがいる。この4年で65頭の牛を襲い、31頭を殺した。高い知能を持ち、捕獲対策をすべて回避。明確な目撃情報すらない。ヒグマは、最初の被害地域と足跡の幅から「OSO(オソ)18」と名づけられた。番組では捕獲に挑むハンターたちに密着し、OSO18が生まれた背景を探る。浮かび上がったのは、現代の人間の生き方や自然との関わり方が深く影響しているという事実だった。

※上記の公式サイトより引用

 

 NHKスペシャルの北海道のヒグマ物は、これまで知床のヒグマを対象とした回を二度取り上げている。

 

 

 

 いずれも知床のヒグマの話であるが、ヒグマは北海道の各地に生息している。

 

 今回のヒグマは最初の被害地域がオソベツである事と、そこで発見された足跡の幅が18cmであったことから「OSO(オソ)18」と名づけられたヒグマである。

 

 オソベツは北海道南東部にある釧路湿原国立公園の北に位置する地区である。

 

 4年で65頭の牛を襲ってはっきりとした目撃情報もないというのはなかなか強者だと思うが、話題としては地味な印象であった。

 

 地味な印象ではあったのだが、観ているとじわじわと感じてくるものがあったので、ブログ記事にすることにした。

 

 恐らくこれが番組の製作意図とも重なるところなのだろうと思われた。

 

 

---以下、ネタばれあり注意---

 

 

 番組は被害状況の紹介から始まり、ヒグマの生態の説明へと進む。

 

 現在のヒグマの食べ物は8割から9割が植物質のもので、あとはアリやハチなどの昆虫類であるという。

 

 そして、もともとの肉食であった生態から草食に切り替えることができたことが、ヒグマが各地へ生息域を広げられた理由であるということであった。

 

 番組は、対策チームが“怪物”と恐れられる謎のヒグマの正体に迫っていくというサスペンス風の作りで進んでいき、後半部分から草食中心となったヒグマがなぜ牛を襲うようになったのかについての謎解き風の解説になる。

 

 まず、1966年から1990年にかけて駆除が進められた為にヒグマの数はかなり減少したが、これが生物多様性の観点から中止されて、ヒグマの数は増加に転じる。

 

 これと並行してエゾシカの絶滅が危惧されており、やはり保護に転じた為に数が飛躍的に増えて、今や69万頭に達するという。

 

 そして、車との事故やハンターが残していった死骸を食べることによって、ヒグマが肉の味を覚えたのではないかという可能性が指摘される。

 

 現在ではヒグマによる被害は、牛の飼料として栽培し始めたコーン畑にも広がっている。

 

 そして最近の被害状況の分析やカメラ映像からは、OSO18の足跡は16cmでそれほど巨大ではないのではないかと推測されていた。

 

 また、OSO18が人間を極端に警戒するのは、過去に撃たれたことがあるからではないかとも言われていた。

 

 番組は終盤に入り、対策チームがこれまでの失敗を振り返って再度の捕獲作戦を行う過程が取材される。

 

 対策チームはクマでは禁止されているという、罠を踏んだ足にワイヤーを巻き付ける「くくりワナ」を特別に許可を得て仕掛けた。

 

 しかしその後、OSO18は姿を消した。

 

 番組は最後に、今まで埋もれていたという目撃証言を紹介して終わった。

 

 それは二年前に、二頭の小熊に牛を襲われた被害に遭ったという放牧農家の証言だった。

 

 一頭は駆除されたが、もう一頭は森へ逃げたという。

 

 この逃げた一頭がOSO18ではないかという可能性を示唆して番組は終わった。

 

 アレッ!?っと肩透かしを食らったように感じた人は多かったのではないかと思う。

 

 まぁでも、これはドキュメンタリーだから仕方ないと言う他はない。

 

 ヒグマが多く生息しているにも関わらずOSO18のようなヒグマが珍しいということは、OSO18が遺伝的な特異性を持っていることが考えられる。

 

 そしてこの特異な一頭の存在が、人間に自然との共存の在り方を再考させるきっかけとなったのであれば、この意義は大きい。

 

 ヒグマやエゾシカと共存を図っていくことは重要だが、生態系全体をコントロールできる訳ではない。

 

 結果的にヒグマやエゾシカは増え、その一方で人間は牛の放牧地やコーンの耕作地を拡大していく訳である。

 

 目の前に美味そうな食物をバーンと出しておけば、野生動物が指を咥えて見ている筈もない。

 

 つまり、今に至る経過を追ってみると現在の状況はかなり必然的であると思われるのであって、そうであるならばこのヒグマ問題を必要以上にネガティブに受け止める必要はないと思われるのだ。

 

 人間の勝手な都合に合わせる形ですぐに上手くいく共存の仕方などないのだから、道程は長くともこうした結果を踏まえて思案と実践を前向きに進めていってほしいと願う、というのが最後に残った感想であった。

 

 尚、NHKスペシャルでは2022年6月11日にイノシシの獣害対策の成功事例を取り上げた番組を放送している。

 

▼NHKオンデマンド  単品:220円(税込み)・購入期限:2023年6月8日

 

 ヒグマに限らず、駆除するだけ、保護するだけという在り方からもう一歩進んでいく時代に入りつつあると思っている。

 

 

※2022年12月5日追記:まとめ記事が公開されました。

 

 

※2023年8月24日追記:OSO18駆除のニュースがありました。