調べ物のついでに発掘された、漫画雑誌スクラップの山。
新井英樹の「宮本から君へ」を整理して、田中政志の「ゴン」を紹介してもまぁまぁ残ってる。
残りの山をひとまず並べてみると、こちらを鋭く見る眼があった。
「週刊モーニング」1998年31号(1998年7月16日号)の表紙を飾った、鄭問(チェン・ウェン)の「始皇(シーファン)」である。
おぉっ!
怖い!
講談社コミックプラスの商品情報によると掲載号は1998年31号~33号、1999年33号~35号であった。
期間限定で6回の連載なので、単行本は全1巻である。
※講談社コミックプラスの商品情報の定価は1,445円、Amazonで購入の際はプレミア価格の商品に注意
作者の鄭問(チェン・ウェン)さんは台湾の漫画家で、1990年3月から「週刊モーニング」に「東周英雄伝」を連載し日本デビューした。
「始皇」は秦の始皇帝の話で、漫画作品の古典としては横山光輝「史記」がある。
▼横山光輝「史記」の始皇帝
最近では、当時の秦で主人公の若者が大将軍を目指す漫画、原泰久「キングダム」が人気なので始皇帝についての若い人の関心も上がってるのではないかと思われる。
掲載期間前半の1998年31号~33号は「韓非子編」となっており、始皇帝が韓非子を秦に招聘するところ(紀元前233年)から韓を攻めるところ(紀元前230年)までの話である。
韓非子は中国の古代哲学者であり、韓非子が自身の帝王学まとめたのが本としての「韓非子」である。
始皇帝は「韓非子」を読んで感銘し、韓非子が母国の韓では重用されていないのを知って秦に招聘するが、結局のところ韓非子は秦で非業の死を遂げる。
鄭問の「始皇」では史実でもなく戦闘でもなく、
人間「始皇帝」である。
人間「始皇帝」の孤独であり情念である。
尚、韓非子の詳細については下記サイトなどを参照されたい。
ちなみに下記サイトによると「キングダム」では第671話(62巻)から紀元前234年に入ったということなので、今後、韓非子がどう描かれるかは興味のあるところだ。
さて、掲載期間後半の1999年33号~35号は「李牧編」となっており、韓を併合した始皇帝が次に趙の将軍である李牧と戦う話である。
こちらは、内容的には名将「李牧」の話でもあった。
この趙の将軍・李牧は名将で、既に秦の軍隊と何度か戦闘しており、キングダムでも描かれているようである。
この名将「李牧」もまた非業の最期を迎え、紀元前228年に趙は秦に破れる。
ここでも描かれるのはやはり名将「李牧」の人間であって、戦闘場面は多くない。
「始皇」のように人間重視の歴史物を読むと、史実は人が作っていくもので、客観的な情勢や国力に基づいた想定の通りには進まないものだということが痛感される。
そして、人にはそれぞれドラマがあり、
歴史を作っていく人間には強い想いと激しい情念がある。
作者が描きたいのは歴史ではなく人間なのだ。
次回、鄭問(チェン・ウェン)「東周英雄伝」の記事に続く。