「シルバー川柳 誕生日ローソク吹いて立ちくらみ」ポプラ社2012 | 日々是本日

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 「シルバー川柳」は社団法人全国有料老人ホーム協会が2001年から毎年主催している川柳公募。

 

 「シルバー川柳 誕生日ローソク吹いて立ちくらみ」は、この川柳公募が第12回を迎えた2012年に出版された選集である。

 

 どんな川柳かはこのタイトルからもわかる通り、シルバー世代の日常である。

 

シルバー川柳 誕生日ローソク吹いて立ちくらみ

 

 

 この本は自分で買ったのではなく、実家にあった。

 父親の介護をしていた母親が買い求めたものであろう。

 その父も今はなく、母は介護施設で暮らしている。

 自分自身も両親の介護をしていた時期があったが、振り返ってみると老いの現実はそれでも実感し難いものがあったと感じた。

 その補遺として、また、いずれ至る心境への備えとしてまず今日読んでみた次第である。

 選集だけあって、どれも味があるが今回は「物忘れ」、「シニカルな現実」、「コミュニケーション」の3つの観点から幾つかを紹介したい。

 

■物忘れ

忘れ物 口で唱えて 取りに行き

万歩計 半分以上 探しもの

探しもの やっと探して 置き忘れ

立ち上がり 用事忘れて また座る

立ち上がり 用を忘れて 立ちつくす

 この五首は本の中ではバラバラに登場するのだが、こうして集めてみると、物忘れが進んでいく道程としても読めてビックリした。

 

 四首目までは「そういうこともあるよね」と思えなくもない内容だが、最後の「立ちつくす」境地にはかなり厳しいものを感じた。

 

■シニカルな現実

若作り

席をゆずられ

ムダを知り

 老いに抗いたい心理が日常の出来事によって上手く表現されていて、物忘れで立ち尽くしていまう心境に比べれば、微笑ましくすら感じた。

 

 次の三首は川柳らしい風刺が印象的だった作品である。

できました 老人会の 青年部

 

無農薬 こだわりながら 薬漬け

 

ご無沙汰を 故人がつなぐ 葬儀場

 個人的に取り上げたいのはこの作品であった。

おじいちゃん

冥土の土産は

どこで買う?

 孫の言葉から老人としての現実を痛感するという趣旨であると読んだが、この「冥土の土産」とは実は「功徳」のことではないかという思いに至り愕然とした。

 

■コミュニケーション

 

 老いていく現実の中で心の支えとなるのは、やはり人間関係であろう。

くり言を 犬はまじめな 顔で聞く

 

腰よりも 口につけたい 万歩計

 

老い二人 集金人に お茶を出す

 同じこと何度も言っているうちに家人はいい顔をしなくなり、とは言え人と話さなければストレスが溜まっていくから、集金人にもお茶をだすようになる。

 

 この流れに、違和感よりも自然さを感じてしまうのが現実である。

 

 川柳作品としては、二首目の万歩計の例えが特に秀逸であると感じた。

 

 個人的に最も心に響いたのはこの作品であった。

喜寿だけど

恩師の前では

女子高生

 七十七歳の喜寿と女子高生だった十代の対比が鮮烈で、思い出が持つ力が感じられた。

 

 10年後にまた読み返して感想を書こうと思う。