今年初めて劇場で映画を観てきた。
作品はクリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」である。
クリストファー・ノーラン監督の作品といえば「ダークナイト」3部作、「インセプション」、「インターステラー」などこれまでにも多数の話題作が日本でも公開されている。
もちろん「TENET テネット」も傑作だった。
標準的な解説はいつもの通り公式サイトに任せて、以下、個人的な感想に進みたいと思う。(笑)
---以下、ネタばれありの感想---
ノーラン監督のこれまでの作品の中では、個人的には「インセプション」の評価が圧倒的に高い。
インセプションは人の潜在意識に入り込む手段として他人の夢に入り込むという奇想天外な話である。
そして、他人の夢の世界が圧倒的な迫力で映像化されている。
「TENET テネット」は時間が逆行する世界である。
タイムマシンで過去に戻るのではなく、現在から逆行する世界が圧倒的な迫力で映像化されている。
未来から送られてきたという特殊な装置によって、一時点に複数の現実が存在し、巻き戻される現実と未来に進む時間が共存する。
これほどあり得ない現実をしっかりと視覚化している。
凄まじい映像体験だった。
そしてこれが映画のための絵空事かというと、量子力学的にはそうでもないのである。
誰もが知る通り、この世界は科学が明らかにした物理法則の未だ科学が明らかにしていない法則の両方で成り立っている。
量子力学はこの二つの法則の間に成立した比較的新しい学問である。
これまで、物質の最小単位は原子であった。
その原子の構成要素が量子である。
この量子は我々の理解を超えた振る舞いをする。
その一つは、量子の状態は観察によって確定するということである。
この量子の性質は、「シュレディンガーの猫」と呼ばれている。
更に近年では量子の存在の仕方は時空を超えているということが明らかにされている。
量子力学は我々の生きるこの現実世界が我々の思っているほど当たり前でないことを明らかにした。
そして映画「TENET テネット」はその当たり前ではない世界を映像化した。
どちらも凄い事である。
それ故、この作品は我々の生きるこの現実世界が我々の思っているほど当たり前でないということもまた語っている。
だからこの映画は、映画としてして作られたストーリーと映像を楽しむという見方と、目に見える現実世界が当たり前ではないというテーマで読み解く見方の両方で観ることができる。
パンフレットでノーラン監督は、この作品をスパイ映画の傑作にするためにどう作ったかを饒舌に語っているが、この作品が目に見える現実世界が当たり前ではないというメッセージを伝えているのも明白である。
「世界の見方を変えよ」
というセリフが何度も登場するのだから。
そして、ラストシーンでは、何気ない日常のすぐ目の前にとんでもない危機が潜在しているということが明らかになる。
「危機は目の前に潜んでいる」
のである。
昔から語られているこのメッセージは、そのまんまハリソン・フォードのスパイ映画のタイトルになっているほどである。
▼映画「今そこにある危機」
しかしながら、社会がこのメッセージを真に受けている様子は一向に見られない。
だからノーラン監督はこの映画で、未来からみればすべて過去の記録という形で明るみになるという設定で、「今、我々の社会が築いている格差社会も環境破壊も原爆投下も大量虐殺も後世に隠せはしない」と語らなければならなかったのである。
そして、「今そこにある危機」を理性的に理解してはいても、相変わらず現代をノホホ~ンと生きてしまっている我々の現実感覚(リアリティー)を揺さぶるために、このあり得ない世界を映像化した
傑作!
傑作!
傑作!
を作ったのに違いない。
だからこの記事は映画の中のこのセリフで終わる。
「起きたことは仕方がない。
それは世界の理(ことわり)だから。
でもそれは何もしない理由にはならない。」