2020年05月31日、「スペースXの有人宇宙船、初の打ち上げに成功」のニュースが報道された。
BBC ニュースJAPANによれば詳細はこうである。
「アメリカの宇宙開発企業スペースX(エックス)は30日午後3時22分(日本時間31日午前4時22分)、米フロリダ州のケネディ宇宙センターで、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功した。」
この「宇宙開発企業スペースX(エックス)」こそ、起業家として有名なイーロン・マスクが「火星移住計画」のために創業した企業なのである。
更にこの「有人宇宙船の打ち上げ成功」こそが、この「火星移住計画」の第一歩でなのである。
そして、イーロン・マスクがスーパープレゼンテーションでそんな話をしていたのを思い出した。
NHKスーパープレゼンテーション
「イーロン・マスク 未来を語る(前編)」(2017年10月5日放送:吹き替え版)
「イーロン・マスク 未来を語る(後編)」(2017年10月12日放送:吹き替え版)
2017年10月放送なので約三年前である。
この回はTEDの通常のプレテーションではなく、TED代表のクリス・アンダーソンとの対談形式になっており、番組は前編・後編の二部構成である。
この対談は現在も、TEDの公式サイトで日本語字幕付の動画を観ることができる。
下記のTED公式サイトでは動画登録は2017年4月になっているので、実際のインタビューは大体三年前ということである。
動画のタイトル「The future we're building -- and boring」は「未来を築く -- そして掘り進む」
「そして掘り進む」とあるのは、当時、マスクは高速輸送および高速移動のためのトンネル開発事業を始め「Boring社」を創ったからである。
英語の「boring」には「退屈」という意味があるのでこの社名は「退屈社」という意味にも受け取れる。
インタビューの中では司会のクリスに「面白い名前の会社」と言われ冗談のネタになっている。
番組の冒頭で紹介されるマスクの略歴は以下の通りである。
1971年 アメリカ生まれ
1989年 アメリカ移住
1995年 初めて会社を起こす
1998年 X.com (後のPayPal)を起業してオンライン決済事業を展開
2002年 SpaceX 起業して宇宙輸送サービスを展開
2003年 電気自動車メーカー Tesla を起業
インタビューの内容はマスクが主軸として進めている、次の3つの事業についてである。
- トンネル開発
- 電気自動車開発
- 宇宙ロケット開発
マスクはまずトンネルの話をする。
どうして低コストでトンネルが掘れるのかという話を淡々とする。
プレゼンとしてはあまり面白くない。
ワシントンからニューヨークまでのトンネル作ると言っていたが、これについては残念ながらまだ実用化されたという話を聞かない。
TED公式サイトの動画は全編40分であるが、このトンネルの話で12分経過している。
次に電気自動車メーカー「Tesla」で開発している車の話に進むと、電気自動車への移行は最早必然であるというような話の流れで、車に搭載される自動運転システムの説明に入っていく。
マスクの語り口は、自信と確信に満ちていて、実に説得力を感じる。
世界全体の潮流としてはもう既に代替エネルギーへの移行する流れに入っているのだろうし、
自動運転システムは近い将来に実現するだろう、「火星移住」よりはかなり早い時期に。
ようやく SpaceX と宇宙開発の話に入るのは全編40分のインタビューの30分が経過したところからである。
当時は、再利用可能なロケットの開発が成功した段階にあったようだが、そもそもこの「再利用可能なロケット」とはどういうものかがよくわからなかった。
前掲のBBC ニュースJAPANによればこういうことであった。
※BBC ニュースJAPANより引用
ロケットは大気圏(地球の重力圏)を突破したら不用だから、物資のコンテナは切り離して宇宙基地に向かわせて、その後でロケットを地球に帰還させれば再利用できる!
インタビューでは、この地球に帰還するロケットの超早回し映像が紹介された。
この方式で、人間を宇宙に運べるというのは確かに凄いことだ。
今回の「スペースXの有人宇宙船、初の打ち上げに成功」というニュースは、これが三年後の今、実現されたということなのであった。
さて、もうこの辺でインタビューは終盤である。
こうしたインタビューの常として、最後にはマスク自身が語られねばならない。
司会のクリスはいよいよ、「なぜ火星移住計画を実現したいのか?」を問うた。
マスクは答えた。
「朝起きる理由、生きる理由が必要である。」
と。
それは「生きる意味、刺激をくれるもの、わくわくする未来」であり、マスクにとってそれは更に「人類が他の惑星にも住むということなのだ」とマスクは言った。
そして、宇宙開発は代替エネルギーへの移行のように必然的に起こるものではないから、この未来のためにはテクノロジーを積極的に進歩させねばならないと語った。
司会のクリスは最後にこうまとめた。
「あなたが考える未来は自然と実現するものではない。あなたが抱く夢はあなた以外の人には抱けない。誰もそこまで壮大なビジョンを持つことができない。私たち皆に大きな夢を見させてくれてありがとう。」
このクリスのまとめは、自分の感想を代弁してくれたように感じられた。
このインタビューを見て、この最後のまとめに同じように感じた人は多くいるのではないかと思う。
クリスのまとめにマスクはこう返してインタビューは終わった。
「ぶっ飛びすぎたら教えてよ」
これには「教えたってやめないよね?」と言いた気持ちになった。
誰かがそれを教えたところでマスクがそれを止めるということは、きっとないのではなかろうか。
三年前にこのインタビューを観たときは、トンネル開発、電気自動車開発、宇宙ロケット開発のどれも非現実的に感じたが、三年後に観直した今ではどれもが現実的に感じられた。
たった三年である。
これがビジネスとして実際に物事を実現していくスピード感なのだうが、当時は物事をこのスピードで進めるということの重要性がわからなかった。
また、再利用可能なロケットによる有人宇宙船がこんなに短期間に可能になったという事実によって、マスクの最終目標である「火星移住」すら実現するかもしれないという感想を抱いた。
とは言え、そのためには次のマスク、次の次のマスク……
やはりあと10人くらいのマスクが必要なのではないだろうかという気がする。
さて、最後に現実に戻って考えたことがある。
やろうと思えば、民間企業で、この期間で、このコストで、この精度で宇宙開発ができるという結果を見てしまった今、これまでの宇宙開発の在り方と開発予算てなんだったんだろうかということである。
また、宇宙開発に限らずもっと短期間、低コスト、高精度で世界が発展していける可能性もあるということである。
マスクほど壮大でなくとも、ビジョンを持てば実現できるものは我々にもあるはずである。
※宇宙開発についてはこちらのNHKニュースの記事も参照されたい
米 民間宇宙船「クルードラゴン」宇宙飛行士乗せ打ち上げ成功 - NHKニュース