誕生日の日、降って沸いた、というか押し付けられた「おじいちゃんと暮らす」。
実子である母とその姉妹、それから娘にも疎まれ(というか嫌われ)ているおじいちゃんと暮らすのは僕だって嫌だった。
大声で怒鳴り散らし、男尊女卑で傍若無人に振る舞う祖父は、潔癖で神経質な平成生まれの僕の真逆を行く、まさに時代錯誤な昭和の男。
怒涛の戦後を生き抜き、誰もがゴールデンカレーで知るピース食品の企業戦士。
「辛い時こそ食べなあかん」
さまざまなカレーを介しながら、二人で暮らすことになった桐矢とおじいちゃんこと小山田義景だったが、おじいちゃんにはとある秘密を持っていた。
はいこんにちは、owlです

今回は文芸作品ですね。
この作品、本屋さんでもくじとぱらっと読んだときに、カレーばっかり出てくるもんだから、短いカレーにまつわる短編ものかと思ってました。
1冊で完結って気づいたときには色々と複雑な思いだったですw
作品は、社会的背景が現実世界とリンクしています。なので新型コロナウイルスと思われる流行病の生でみんなマスクをしているし、桐矢の潔癖が役立つ世の中です

一方おじいちゃんはマスクやトイレットペーパーを薬局を往復して買い占めているタイプの、いわゆる「老害」と言われる高齢者。
よくある独居老人の、散らかったり埃が溜まったりしているアパートの一室で暮らしています。
性格も男尊女卑で大声で店員に注意という名で怒鳴りつけ、大声で人様に失礼なことを平気で言ってしまい、昔の武勇伝を自慢してしまうような…あー関わりたくないじいさんと言った感じ

私自身は昭和の後半も後半で生まれているので、これでは桐矢の母や叔母さんたち、桐矢の従姉妹たちに嫌われてしまうのは納得。ぶっちゃけ私もむかついたw
桐矢の視点で物語は進みますが、所々に若いころのおじいちゃんの視点が折り込まれていて、怒涛の戦後を生き抜いたおじいちゃんの人生を読者視点から垣間見ることができます。
それぞれにわだかまりを感じながら、後半で登場する桐矢のおばあちゃんである奥さんの話や、きっとおじいちゃんは墓場まで持って行こうとしていた秘密が少しずつ明らかになっていきます。
目次のカレーはその章に必ず登場して桐矢とおじいちゃんが一緒に食べているのですが、個人的には「俺たちのカレーや」と言って買ってくるゴールデンカレー(しかも甘口が大量)がとても気になる

一見するとめんどくさい「老害ジジイ」のおじいちゃんは、真面目で不器用で優しい「そうやって生きていくしかない」昭和の男でした。
「女は弱いものだから、男は男らしく、守ってやらなあかん」
その真意は単なる男尊女卑とは違っていたもののようです。
読み終わる頃には少しずつ温かな優しい気持ちになっていく、感動的な最後となっています。
舞台は大阪なので、登場人物は大阪弁でストーリーは進んでいくし、関西人ならではの会話のテンポの良さと温かみが良い味わいになっていて、きっと標準語ではこんな感じにはならないのではないかなと思います

というか、まだ久しぶりに本を読み始めて2冊しか読み終えてないんですが、桐矢とかジェノサイドの研人とか、新しめの作品には昔には見られなかったジェンダーレスに近いタイプの男性が登場することが多いようですね。
年齢もこの二人は近くて20代前半くらいです。時代と共に主人公を読み手に寄せていくのも確かに大事だよなー。
高校生とかだと少し年上の二人ですが、等身大として読みやすいので、夏休みの読書感想文がまだ終わってない人はぜひ!(あと1日しかないけどな!)