自走する貨車たち・その1「操重車の群像」 | 書斎の汽車・電車

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 以前、モア製キ620のお話をした折に、「自走する貨車といえばソ300くらいしか思い当たらない」旨を書いたところ、熱心な読者から「キワ90改造のヤ390も自走可能ですよ」とのご指摘をいただきました。確かにそのとおりでして、お詫びと御礼を申し上げます。

 で、これを機に「自走する貨車」について改めて調べてみたところ、これが意外に存在するのです。そこで今回は「自走する貨車たち」にスポットを当てますが、あくまでも「概観」ということで、個々の形式の詳細について興味を持たれた方は、各自貨車関連の文献をひも解いていただければと思います。

 

 まずは、私が「自走する貨車」の代表として挙げたソ300形からご紹介しましょう。昭和41(1966)年、ソ300・301の2輛が製造された「橋げた架設用操重車」です。自重153.5t、連結面長さ27.5mという「モンスター」で、走り装置は4軸台車×4という迫力満点の貨車です。なぜこの貨車が自走したかといえば、先輩にあたるソ200形(こちらもソ300よりわずかに小さいもののモンスターです)が、DLのお世話になっていたところ、次第に機関車の都合がつきにくくなってきたことから、本形式では空車時平坦線で時速25kmで自走できるようにしたそうです。

 クレーンを備えた操重車の中でも、橋げた架設を任務とするグループはとにかく大柄です。ソ300形の回送を山手貨物線で見たことがありますが、迫力に圧倒されました。ソ300形は全国で橋げた架設にあたり、国鉄の分割・民営化も生き残ってJR東日本に承継された後、平成13(2001)年に引退しました。ソ300が碓氷鉄道文化むらで保存されています。ソ301も大宮車両センターで保存されていましたが、こちらは解体された模様です。

 平成13(2001)年、大宮工場一般公開時に撮影したソ301です。丁度廃車になる前後だと思います。この後、ウエイトを吊りあげるデモンストレーションが行われました。

 

 ソ300形に限らず、操重車には自走可能な車輛が多いのです。これは何も本線上を時速75kmで疾駆するためではなく、やはり作業中の利便性を考えてのことと思われます。

 続いてご紹介するソ60形は、「レール積降用操重車」です。昭和45(1970)年から47(1972)年にかけて14輛が製造された本形式は、通常2輛1組で、間にレールを積んだ「チキ」を挟んで使用されました。この形式は作業中時速30kmで自走可能でした。その姿は大型の保線用モーターカーのようでして、黄色1号1色の塗装と相まって、「車輛」というより「機械」扱いと勘違いしかねないものでした。(なお、一部の車輛は本当に廃車後にモーターカーに改造されて再起したようです)本形式は昭和62(1987)年までに全車廃車、JRには引き継がれなかったようです。

 

 操重車といえば、最大勢力を誇るのが「事故救援用操重車」です。脱線などの事故に際し出動し、事故車を吊りあげるクレーンカーとなります。このグループは、昭和3(1928)年にアメリカから1輛が輸入されたソ20形から、すでに作業中の自走が可能でした。続いて国産のソ30形7輛が、昭和11(1936)年から22(1947)年にかけて登場します。こちらも同じく自走可能です。なお、ソ20・30形は蒸気動力であり、「水槽車」が付属していたといいます。(ソ30形についてはのちにディーゼル動力となり水槽車は廃車)

 

 戦後派ともいうべき操重車が、昭和30年代以降増備されていきます。ソ30形同様「大型」(機関車の吊り上げ可能)に類別されるのが、ソ80形です。本形式は昭和31(1956)年から44(1969)年にかけて21輛が製造され、国鉄操重車の最多輛数となりました。このほか、客貨車用として、「小型」に類別されるソ100形14輛が、昭和26(1951)年から31(1956)年にかけて登場しました。ソ100形の能力不足が明らかになったことから、昭和32(1957)年と翌年に「中型」のソ150形3輛が製造され、昭和34(1959)年には改良型のソ160形2輛が増備されています。これらの操重車は、いずれも作業中の自走が可能でした。そして、戦後派の操重車は、ディーゼル動力となりました。蒸気動力の戦前派の車輛たちは、蒸気が上がるまで作業に取り掛かれないという欠点がありましたが、動力の変更でこの問題は解消されたのでした。

 ソ80形以外の各形式は、昭和62(1987)年までに姿を消しました。ソ80形のみは9輛がJR各車に引き継がれましたが、平成13(2001)年までに全車廃車されています。

 

 操重車に思いのほか手間を取られましたので、職用車については次回以降ご紹介します。

 ソ80の模型なら持ってるぞと、取り出してみたところ、付属部品の取り付けなど一切手つかずという誠にお粗末の一席と相成りました。これは早めに着手しないと、事故があっても出動できません。