自走する貨車たち・その2「職用車のディープな世界」 | 書斎の汽車・電車

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 前回に続いて、自走する貨車について、その概略を御紹介しましょう。

 

 今回は「職用車」ということで、トップバッターは「バラスト交換工事用職用車」のヤ110形です。昭和35(1960)年にスイス・マチサ社から輸入した「バラストクリーナー」といえば、多くの場合、「車輛」ではなく「機械」として扱われるところですが、本形式の先輩であるヤ100形(こちらもマチサ社製の「舶来品」で昭和31年製)ともども「ヤ」の記号を付した事業用貨車として登場しました。(共に1形式1輛)

 ヤ110形と先輩のヤ100形の最大の違いは、ヤ110形が自走することでした。この能力ゆえ、ヤ110形はマチサ製の独特の台車を履いていました。ヤ100形の台車はTR41でしたが、こちらも実はマチサ製動力台車が輸入されたものの使用されなかったとの説もあります。ヤ100は田端、ヤ110は尼崎に配置されていましたが、ヤ110が一足早く昭和53(1978)年度に廃車となり、ヤ100も昭和56(1981)年度に姿を消しています。

 

 続いては、「電化工事用職用車」に属する面々です。その名の通り、電化工事の機械化のために登場したもので、まずは電柱を建植する「建柱用工事車」として、「穴掘車」ヤ360形、「骨材車」ヤ370形、「建柱車」ヤ395形がありました。このうち自走するのはヤ395形です。この車輛、元々はキヤ91形と称する1形式1輛の事業用気動車でして、昭和43(1968)年にキハ07形を改造したものでした。ただ、その改造は実に大掛かりなものでして、キワ90改造のキヤ90(後述)が多少なりとも種車の面影を残していたのに対し、こちらは原形をとどめないまでに改造されています。流行りの言葉でいえば「魔改造」です。改造の翌年には、気動車から貨車への車種変更がなされ、ヤ395形となりました。その理由は、気動車乗務員の確保が難しくなったことによるようです。本形式は僚車とともに房総西線(内房線)電化工事等に使用された後、休車状態となり大網駅構内に長らく留置されていましたが、昭和59(1984)年に廃車となりました。

 電化工事用の職用車、第二は「装柱用工事車」です。「材料運搬車」のヤ380形と、「装柱車」のヤ390形が属します。建てられた電柱に、ビーム、ブラケット等を取りつける車輛となります。このうち自走するのはヤ390形で、これも1形式1輛、キワ90の2号車を昭和43(1968)年に改造したもので、当初はキヤ90形でしたが、翌年に貨車へと車種変更が行われたあたりの事情についてはヤ395形と同じです。なお、走行時は時速45kmでした。本形式のその後の経過も、先に述べたヤ395形と同一でして、廃車は昭和59(1984)年となります。

 さて、電化工事用職用車のラストを飾るのが「架線工事用車」で、「架線延線車」のヤ450形が該当します。昭和46年に1輛が登場した本車は、これまでご紹介してきた電化工事用の車輛たちとは異なり新造車です。本形式も作業中時速45kmで自走可能であることから、今回ご紹介しているわけですが、それ以上に台車を履きかえることで新幹線の架線工事にも使用できる「二刀流」であったことが特筆されます。実際、本車は山陽新幹線の博多延伸工事の際に使用されたそうです。この車輛も大網駅構内に長らく留置された後、昭和59(1984)年に廃車となったようです。車齢が若いだけにもったいないですね。

 

 「自走する貨車」、こうして改めて眺めてみますと、操重車、職用車といった事業用車ばかりです。まあ、汎用のワムが時速75kmで自走する光景は、それはそれで気味が悪いですが。

 

 これでおしまいにするつもりでしたが、ヤ390の種車であるキワ90形の存在を忘れていました。あれも立派な「自走する貨車」です。

 キワ90形は、昭和35(1960)年に2輛が試作されました。自らが自重7tの有蓋車であり、さらに15t積貨車2輛を牽引可能でした。国鉄としては本形式にローカル線の貨物輸送を担わせようというつもりでしたが、考えてみれば「キワ」に積んだ貨物は、線内で完結するものでなければ積みかえなければなりませんし、いかにローカル線とはいえ、貨物の多い時期には15t積車2輛では到底間に合わないでしょう。加えてキワ90そのものも、勾配区間での貨車牽引能力には疑問が残ったようです。九州の妻線で使用されたものの結果は芳しくなく、キワ90 2は前述のとおり事業用車に改造、トップナンバーのキワ90 1は昭和46(1971)年に廃車となりました。

 職用車たちを模型で再現するのはかなり難しそうですので、キワ90に登場してもらいました。

 

 なお、「気動車にして貨車」の系譜に属する車輛としては、JR東海のキヤ97系、JR東日本のキヤE195系が想起されるところですが、これらもレール運搬用の事業用車ということになります。

 そして、「自走する貨車」の最高峰といえるのがJR貨物の「スーパーレールカーゴ」でしょう。この車輛については、クモヤ22とともに、また稿を改めます。