5/12 【ひなげしの絵本】


「いちど女王(スター)にしてくれたら、あたし、死んでもいいんだけど」 ――

容姿さえよければ……と嘆くひなげしの花たち。 

悪魔は弟子を薔薇娘に仕立て、彼女らの前に現れる。憧れと羨望を抱かせるだけ抱かせ、美容術の医師に化け再び登場する悪魔。 

おまえたちがその亜片を差し出したならば、美しくなる薬をやろう……


不穏かつユーモラスな世界。

人間の弱さも狡さも浮き彫りにしながら、どこかおおらかな賢治の世界 。



 ◇『ひのきとひなげし』

(宮沢賢治 作/出久根育 絵/三木商工)




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5/13 【ふたりだと、ずっとこころやすい】

雨。
こんな日に読みたい短編「コブタが、ぜんぜん、水にかこまれるおはなし」。

素直で優しいおばかさんだらけ。

コブタは瓶に手紙を託します。

たすけてくたさい!
コプタ(ぽく)

「プーが、ここにいたらなあ。ふたりだと、ずっとこころやすいんだもの」


◇『絵本 くまのプーさん』
(A.A.ミルン 作/E.H.シェパード 絵/石井桃子 訳/岩波書店)

補足:石井桃子による翻訳文章がっつりそのまま、なので「絵本」とありますが「文章+挿し絵」の本。
今さらだからもう誰も言わないけど、E.H.シェパードの絵、ペン画もカラーもあまりにも魅力的だ。これ以外考えられない。
木の枝にはちみつの壺を十(とお)も避難させるプー。
瓶を救助ボートにしようとがんばるプー。
だいすき だいすき。



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5/13 【アウトサイダーを描く】

◇『アルフィーとせかいのむこうがわ』(チャールズ・キーピング作/ふしみみさを訳/ロクリン社)

舞台はロンドンの下町。
登場するのは、もの乞いの中年男とそんな彼を慕う少年。

貧しさと絶望に侵された男はきっと、ふたりの関係の儚さを承知している。

アウトサイダーを描くキーピング。

出逢うことで、余計に寂しくなることがある。



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5/14 【ボブ・ディラン】

雨の中、本の長屋で流れていたというボブ・ディラン。

ボブ・ディランが息子を思いながら作った名曲「Forever Young」が、絵本にもなっているのはご存知でしょうか。

◇『はじまりの日』
(ボブ・ディラン 作/ポール・ロジャース 絵/アーサー・ビナード 訳/岩崎書店)

作中には〈STOP THE WAR!〉の幕を掲げたデモの風景も描かれています。

流されることなく 流れを つくりますように》



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5/15 【人種】

☆『ゆきのひ』
(エズラ・ジャック・キーツ 作、絵/木島始 訳/偕成社)

『THE SNOWY DAY(ゆきのひ)』は、1962年アメリカで発表された絵本。
 1978年来日中のKEATSは『月刊 絵本』のインタビューの中で、
「それまで黒人の子どもを主人公にした絵本はなく、そのことは犯罪的なことだと思う」 
「私は勇気を出して黒人の子どもを主人公にした絵本に取り組んだ」と語っています。


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5/15


石井桃子(著)『子どもの図書館』(1965 岩波書店)をきっかけに文庫や私設図書館が生まれ、70年代に全国に広がったことは、「女性作家と時代」を語る上で無視できない。

 「家庭文庫」の担い手のほとんどは母親(専業主婦)で、実はここから誕生した女性作家も少なくない。 

高度成長期の日本、その裏で「子どもをみつめる眼差し」を研ぎ澄ませ、絵本に関わる活動を積極的に行うようになった女たち。


70年代〜80年代は、若い女性の絵本ファンが増えた時代でもあった。

絵本ファンの中には作家を目指すようになる者が出てくる。絵本専門誌『月刊絵本』主催の「絵本の学校」(二泊三日の合宿)は、東京、黒姫、比叡、九州志賀島……セミナーも全国津々浦々で行われた。いずれも大盛況だった。とくに若い女性の参加率が高かった。

背景のひとつに、「(第一次)大人の絵本」ブームがある。

至光社の打ち出した、ポエジーでアート性の高い〈感じる絵本〉シリーズの存在もある。 


60年代に花開き70年代に隆盛を極めた国内絵本。

身近に日々を送る(対象の)すぐれた観察者である女性作家(もちろん男性作家も)の作品が高く評価された。

「大人の絵本」ブーム、高景気下でベビーブーム。絵本がとにかくもとめられた時代。

制作者養成に特化したスクール開設、専門学校の設立ラッシュもあった。


絵本業界への女性の参入が増えた理由を語ろうとすると、そこにはさまざまな社会的要因や仕掛けがあることがわかる。

ひと言で語られるようなことは、だいたい疑ったほうがいい。




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5/16 【言葉を愛おしむ】


☆『ひらがなにっき』

(若一の絵本制作実行委員会 文/長野ヒデ子 絵/解放出版社)


 「特別なおばあちゃんのお話を描いたわけではないんです」と長野ヒデ子さんはおっしゃいました。


 子どもの頃に行けなかった学校。識字教室で教わった文字を、「こぼれないように」ぎゅっとにぎりしめて家路を急ぐ吉田一子さん。 


 読めるようになりたい気持ち 

 言葉を愛おしむ気持ち――





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5/16 【言葉がつくるムードに抗う】


合理的配慮。

共有されるこの「配慮という言葉」が醸成する空気…… 

《言葉の誤選択は国民の精神性に悪影響を及ぼし尾を引いたりするので、私は意地でも『合理的調整』と書いていこうと思います》 

芥川賞作家・市川沙央さんの語りの清々しさよ。 

ミスリードへの加担を拒む、「言葉」への研ぎ澄まされた感覚に惚れ惚れする。





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5/17 【子どもの近くに】


🍀『#もしかして…おとなにたたかれたの?おとながたすけてくれないの?』

(金の星社)


お家よりも、園や学校の目立つ場所に置いてほしい絵本。子どもの近くに。
相談先も掲載されています。

《「……こんなの、いつものことだよ」  
そっか……。でも、ほんとうはだいじにしてほしいんじゃない?つらいきもちを かかえこまないで。》



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5/17 【きかせて】

🍀『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』
(ひだまり舎)

巻末に「子どもの権利条約」の説明。

いつも後回しにされがちな「子どもの権利」を、私たちは折に触れ思い出す必要があると思います。


《あなたにかんけいすることは 何でも、わかるように、せつめいしてもらえる》

それが本来。




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5/18 【クレヨンハウス・子どもの本の学校】


やべみつのりさん矢部太郎さんの親子対談、めちゃんこ面白かった!



「お父さんが紙芝居を演じる姿に影響を受け今の僕がある」(矢部太郎さん)


「子どもたちは、生きたい、好きなものに出会いたい、どう出会わせてくれるの?と思っているはず」(やべみつのりさん)








イベントでは、親子のアルバムから思い出が語られる場面も。

墓参りの写真、手を合わせる祖母と太郎さん……すると向こうには、かれらをスケッチするお父さん。お父さんはいつもスケッチをしていた。息子が怪我をしたときもその姿を描いていた(笑)

「命に関わること以外なら、この子はどうするのかな?ずっと観察していたいと思ってたんだよね」とやべみつのりさん。


いちど見せていただいたことがあるのだが、やべみつのりさんは、家族の姿を記録した膨大な数のノートを所有している。


描き残された無数の記録。

日常を、子を愛おしむ視線。

大切な大切な家族の記憶――。


ぜひ出版してほしいと、わたしも願っております。



終始笑いの絶えない温かなイベントでした。

最後にやべみつのりさん、世界の戦争や社会の不条理を「おかしいと思わない?」
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長年に渡り、ミャンマーやアフガンの人々と、現地で絵本や紙芝居を通して交流を深めたやべ先生。

子どもたちの幸せを心から祈り、なんとかしたいと願われる気持ちが伝わってまいりました。




会場でご一緒した、長年のご友人・詩人の正津勉さんには、詩集等のほかに『つげ義春「ガロ」時代』(2020年 作品社)や『鶴見俊輔、詩を語る』(2022年 同社)等の著作。

この詩人を、私は本の長屋へご案内したいとずっと思っていて。この度の再会によりお誘いすることができたので、ホッとしています。(メールせいと言われましたが 笑)

最新の句集には「ねじ式」の句も。

ご恵投いただきました。じっくり味わいます。







絵本コーディネーター東條知美