こんにちは。
スポーツトレーナー協会JARTA代表の中野崇です。
先日、パーソナルトレーナーを対象に「スポーツトレーナーとして生きていくための必須能力と思考回路。そしてトレーナーの市場価値の高め方」というテーマで話をさせていただきました。
内容は主にお金の話、トレーナーの価値の話、そして政治や経済などの社会構造とトレーナーの仕事の関係性。
その中で、政治と僕らの仕事の関係性に関することを話し、同じ話をもうこのブログでも書いたのですが(記事の下部にリンクあり)、「実際なにをどう勉強すれば良いかがわからないんです」、という質問をいただきました。
「自分は今までトレーナーの仕事に直結する知識、つまり解剖学や運動学、生理学などしか勉強してこなかった、けれど話を聞いて他の分野を勉強することの重要性と必要性がわかった。ただ、実際勉強するとなると何を勉強して良いかわからない」
こういう質問がいくつかあったのです。
本当はこの点に関しても自分で模索することそのものが勉強として重要なのですが、僕の話がきっかけということで、少し考え方のアイデアをご紹介したいなと思いました。
例えば、歴史の勉強。
歴史とトレーナーの仕事の一部であるトレーニングは非常に深い関係にあると僕は考えています。
なぜなら、文化とスポーツが深い関係にあるからです。
なぜなら、文化と身体操作が深い関係にあるからです。
詳しくは別記事に譲りますが、目の前の選手に対してどんなトレーニングを指導するのかを考える上での非常に重要な前提条件としてこの観点は必要だと思うのです。(下部に関連記事リンク)
そういう構造を理解していただけると、歴史の勉強の必要性を感じることになったりするかもしれません。
歴史の勉強。
学校でほぼ誰でもやったことのある、歴史の勉強。
範囲が広すぎる歴史の勉強。
多くの方が歴史の勉強をやったはずなのに、多くのトレーナーが自分の仕事には結びついていない。
何に活かされるのかが全くわからないまま、今も深く記憶に定着し続ける794ウグイス平安京。
これらのことから考えると、学校でやる歴史の勉強と、仕事に活かす歴史の知識は、違う視点での勉強が必要だということが見えてきます。
学校でやる歴史は、歴史とはこういうものだよ、という歴史学。
つまり概論です。
でもその知識がなければ、僕もそもそも歴史が仕事に重要だ!って主張することすら思いつかない。
だから学校の歴史の授業も重要。
それを前提として、仕事に活きる歴史の勉強の視点は違う考え方をする必要があるのです。
勉強を進める前にこの部分をしっかり理解しないと、「歴史の何からやったらいいか分からない」ということになってしまいます。
だって歴史は膨大ですから…。
その上での僕のオススメは、「自分に関係のあること歴史」を基軸としたやり方です。
例えば野球選手のトレーニングについて考えていく場合なら、「野球の歴史」をまず調べる。
どこの国で、どの時期に、どんなきっかけで、どんな人が関わって、なぜ野球が生まれたのか。
なぜ、そんなルールになったのか。
それらの理由は?
そして、どんなプロセスを経て日本にまで拡散してきたのか。
なぜ日本に、なぜその時期に、なぜ来たのか。
そしてなぜ日本でこんなにもメジャースポーツになったのか。
それらのプロセスの裏にどんな理由があるのか。
多くの歴史的な出来事は、偶然ではなく必然です。
必ず何らかの事情があります。
こういう感じで野球の歴史を学んでいけば、必ずそこに経済や政治や宗教、そして文化が絡みついて来ます。
例えば野球で使われる言葉。
本場である英語以外に、不思議と全部日本語があります。
ベースボールは野球、ホームランは本塁打、ピッチャーは投手、ファウルフライは邪飛。
慣れていなければ意味不明。。
そんな強引な日本語が当てはめられていたりします。
ちなみにサッカーだったら、すべてのサッカー用語に日本語はありませんし、ルールだと主に欧州で使われる言葉をそのまま使用、ファウルはそのままファウルです。
野球のこの不思議がなぜかというと、1940年から英語表記が禁止されたからです。
なぜ禁止されたか?
日中戦争をきっかけにアメリカとの関係が政治的に悪化したからです。
アメリカのスポーツであるベースボールはけしからんということで、野球に。
敵対国の競技だからって英語を禁止する思考回路は本当にどうかとは思いますが、スポーツと国家威信であるナショナリズムは当時それぐらい深い関係にあったのです。
「敵国の言葉を使うなんて非国民だ」みたいな感じです。
だったら、なぜ日本が中国と戦争をする中でアメリカとの関係が悪化したのか。
という感じの視点で勉強してみると、学校で教わった時の日中戦争とは見え方や印象度合いが変わってくるかもしれません。
ちなみに1940年から太平洋戦争の終結に至るまで、野球の本場であるアメリカとの野球交流も、それまで盛んだったにも関わらず途絶えます。
野球鎖国です。
日本人投手とメジャーリーガーは投げ方も打ち方もかなり違いますが、指導スタイルも含めてこの時期にかなり分岐しているのではないかと。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000365.000005180.html
日本の野球に特徴的なのはメジャーリーグに比べて投球時にかなり低い重心の位置。
日本文化は武道や能楽など、「重心を低くしつつ無駄なく動く」という身体操作・運動構造を保有するものが多いですが、野球鎖国によってこのあたりの影響を強く反映した野球の動きが出来上がったのだと推測しています。
この辺りを理解すると、日米のマウンドの硬さの違いの理由なども見えてきたりします。
「アメリカに適応するフォームに変更、そのためのトレーニング開始」という話題がたまに上がりますが、その根拠を考察する際に有効な視点になり得ます。
(適応するために必要なのは決してパワーアップだけじゃないってことです)
また、日本野球は「形」、つまりフォームを非常に重視した指導が多いですが、このあたりは武道をベースにした日本文化の影響が深く現れている部分です。
打てるかどうかよりも、綺麗に構え、綺麗にバットが振れているかも非常に重視されるのです。
それゆえ、野茂選手にせよイチロー選手にせよ、フォームについてコーチと揉めています。
アメリカや中米では最終的に打てればどんなフォームでも原則として何も言われませんから。
つまり結果重視の超合理主義。
じゃあなぜこういった国々はそういう考え方になったのか。
などなど、一例として野球を軸にした歴史を考えるだけでも、関連した歴史的な出来事は多く、必ずそこに経済や政治が絡んでくることがわかると思います。
そんなん関係ない、と思う人は別に歴史や経済について勉強しなくても良いと思います。
やるかやらないかは本人次第です。
仕事に活きると考えるか否かも自由だと思います。
ちなみに、トレーナーの仕事やトレーニング指導においてはその競技の歴史を知っておくことは必須だと思います。
競技の歴史をみていくと、トップレベルで活躍する選手たちのフォームはかなり大きく変わっています。
つまり「良いフォームの基準」が変わってきているのです。
この変化には必ず理由が存在します。
目の前の選手のフォーム。
昔だったら良いとされているフォームかもしれません。
でも、今だったら修正対象だったり通用しないフォームだったりします。
出典:
http://blog.goo.ne.jp/eh2gt72w/e/cb6959a5c1660d0ae8909eb147b381b5
次回はそんな記事を書こうかと。
関連記事です。
非常に大きな反響をいただいた記事です。
もう読んだことがある方も、ぜひもう一度読んでみてください。
お読みいただき、ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
追伸
その年日本で最も優秀な投手に送られる投手最高の賞である「沢村賞」。
これは当時の巨人軍に所属した伝説の選手、沢村栄治投手の名前から来ています。
彼は戦争に出征し、手榴弾投で肩を壊して投手ができなくなり、何度目かの出征で残念ながら戦死してしまいました。
出典:http://giantsplayer.seesaa.net/article/115839465.html
いろんな意見があると思いますが、僕はどんな理由があろうとも戦争という手段には強く反対。
ちなみに日本の指導方法については、軍隊式の考え方はまだまだ根付いています。
戦前から入っていた西洋型競技が、戦争によるナショナリズムの影響をここまで強く受けたケースは非常に稀だと思いますので、野球を軸とした歴史・経済・政治の勉強方法はオススメです。
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