イーグルスは西海岸で結成された、アメリカを代表する
ロックバンドの一つです。
美しいコーラスや、誰にも親しみやすいメロディ。「軟派」
「保守的」「商業ロック」…色んなことを言う人があるもので、
硬派でこわもてのロック信奉者には、イーグルスやジャクソン・ブラウンに
批判的な人はかなり多く存在しました。私は、彼らは十分こわもてで、
それなりに硬派とも感じていたので、批判を不思議な思いで聴いていました。
イーグルスのおそらく一番有名なヒット曲「ホテル・カリフォルニア」を、
アメリカ賛歌だと思っている人はいまだに沢山いますから、
(この曲はデカダンでクールな、アメリカ神話を痛烈に揶揄した歌詞を持ちます)
誤解されている部分も多いのでしょう。人気者の必定とも言えますね。
日本では、国民的人気の俳優が主演したドラマ主題歌になったり、
バタ臭いルックスで人気の歌手にカバーされたり、近年また注目を集めています。
「Desterado(ならず者)」(1973年)はイーグルスの2枚目にあたる
同名アルバムに収められています。この歌詞はとても泣かせます。
このブログで、とても良い意訳が読めますよ。

http://salvation.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/_desperado_by_e_5b73.html

ならず者=傷ついた人、という解釈はイーグルスのイメージにしっくり来ます。

Midnight Creeper
ザ・バンドのベーシスト、リック・ダンコのソロ第1作です。
70年代にリリースされたロックアルバムは本当に数が凄くて、
ロックの名盤のほとんどがこの時代に出たと思えるほどです。
その中にあって、このアルバムの一般的知名度はどれくらいなのでしょう?
中の上くらいでしょうか、とにかく地味な評価であることは否めません。

私個人的にはかなり思い入れの深いアルバムです。
ロン・ウッド、ダグ・サム、エリック・クラプトンらゲスト陣も豪華で、
もちろんザ・バンドの面々も参加しています。

ザ・バンドの解散コンサートの模様を収めた
マーティン・スコセッシ監督のドキュメント映画「ラスト・ワルツ」で
特に印象的な場面の一つにリックの単独インタビューがあります。
「今は何してる?」というスコセッシのインタビューに、
「忙しくしてる。音楽を作ってるよ」と応えるリック。
そして彼は帽子を被り治し、椅子の背もたれに体を預け深く項垂れます。
そこで流れるのが、このアルバムに収録されている
リック屈指のバラード「Sip The Wine」です。
実に気だるくて、同時に感動的な場面です。
他にも盟友ボビー・チャールズと共作した
名曲「Small Town Talk」などエヴァーグリーンな曲が詰まった傑作です。

99年にリックが亡くなった時、二十歳の頃から私の中に存在し続けた
ひとつの大きな流れが断ち切られたようなショックを受けました。
もこもことした黒っぽくファンキーなラインを操るベーシスト、
独特の危なげで切ない個性で聴く者を魅了するヴォーカリスト、
ザ・バンドの陽気な面を徹底して演じ続けた天才。
新聞で訃報に触れ、私はすぐさま一人の友人に電話を掛けました。
年甲斐もなくセンチメンタルな、と揶揄する
もう一人の自分もいましたが、誰かと少しでもリックの話をしておきたい、
その思いには勝てませんでした。
「今ちょうど、家にあるザ・バンドのアルバムを全部出してきて床に広げてたとこ」
開口一番、友人はそう言いました。


RCAに残されたウォーラーのあまたある録音から厳選した決定版的アルバム。
表題作は小唄ですが、こんな傑作、一体生涯に幾つ巡り会えるでしょう。
彼のショーマンシップの塊のような個性は、
レコードでも存分に発揮されていて、
何度も何度も繰り返して聴くことが出来ます。
愛嬌も芸として徹底され、突き抜けた完成度。黒人がショーをやるという意味が、
やはり今とは全然違った時代の人なので、
そういった事にも想像力を働かせながら聴くと興趣は増します。
楽しくて、あっと言う間に聴き終えてしまうので、
それだけでは勿体ないと思うのです。
人類が音楽を喪失しつつある現代、こういう巨大な才能はもう現れないのでしょう。
ヴォーカルもピアノもまさに至芸!
「手紙を書こう」「ハニー・サックル・ローズ」・・・
非の打ち所のないゆとりと距離感が素晴らしいです。
そこから自然と生まれ出るユーモアは、
市井に生きる人々へのこの上ない励ましです。
受け入れ側の我々が、その励ましの値打ちを見損なったり忘れたりしない限り、
ウォーラーの音楽は永久に滅びず生き続けるでしょう。



1986年に大手レーベル、マーキュリー移籍後第1弾として発表された
ロバートの通算5枚目のアルバム。

ハイトーンレーベル時代の2枚、アリゲーターからの
アルバート・コリンズとの共演盤こそが若き日の彼の真骨頂、
と評価する人も多く、実際荒削りさとソフィストケイトされた
個性のバランスが上手く取れているのは以前のアルバムかな、
とも思います。しかし私はこのマーキュリー盤が好きなのです。
シングルカットされた「Smoky Gun」の大ヒットにより、
ロバートは長く低迷していたブルースをメジャーシーンに再び
引き上げました。

さらっとしている、AORみたい、
などと中途半端なブルースファンからは批判もありましたが、
ジャンルなど意識せずに聴ける音楽には力があり、
それがブルースマンの仕事となれば、言うことはありません。
王道を行く、と呼ぶに相応しい十分に粘っこく正確無比なギター、
ソウルフルな渋い喉。「Still Around」「New Blood」など曲も粒ぞろいです。

1967年の発表当時、ヒットしたアルバムではありません。
後にすべての収録曲が有名無名問わず無数のアーチストにカバーされ、
大いに再評価されました。
今では余りにも有名な、ロックの金字塔的1stアルバムです。

同じ年にビートルズは「サージェント・ペッパーズ・・・」を発表し、
ジミ・ヘンドリックス、ドアーズがデビューするなど、
まさにサイケデリック全盛、
すなわちロックの生命力が歴史上最も燃え上がった時代の作品です。
その中にあってもなおヴェルヴェットは完全な異端であり、
最先端の、まだその先を行く存在でした。

ポップアートの鬼才、アンディ・ウォーホールが自らプロデュースを志願、
彼の工房によく出入りしていた女の子、
ニコをヴォーカリストに迎え入れて制作されました。
インパクト絶大なバナナのジャケットも勿論ウォーホールの手によるものです。

芸術志向の強い都会の若者が、創作衝動のすべてぶつけたような迫力が漲っており、
40年以上たった今も、まったくその魅力は褪せることはありません。
基本的なメロディ素材としては耳馴染みの良い美しいものが揃っていますが、
ノイジーなサウンド処理の仕方が異様で、
そこに性倒錯や薬物を露骨に歌った極めて過激な歌詞が乗せられ、
全体として聴くとやはり美しいとしか表現しようのない
高次な音楽空間を生み出しているのです。
これぞロックと言いたい音です。

私の10代には欠かせない一枚で、数え切れないくらい繰り返し聴きました。
今ではぐっと回数は減りましたが、それでもLPをたまに聴きます。
このアルバムの録音状態を悪い、とする人があまりに多いのには驚きます。
テクノロジーへの依存を未来志向と居直り、
ふやけきって鈍磨した感性に一抹の危機感も持てない現代の音楽家には
決して再現できない閃光のようなロックのオーソドキシーがここにはあり、
最高の録音だと思います。