ものすごい吐き気がこみ上げる。
何かが焼けたような嫌な臭いがそれを促進させる………
有紀乃にこれ以上見せちゃダメだ。
俺は有紀乃に目を閉じておくように言い聞かせる。
俺もその現実離れした光景から逃げようと目をつむって、揺れがおさまるのをひたすら待った……
………。
…………。
……………。
しばらく目をつむっていた、揺れがおさまるのを感じる。
完全におさまったのを確認して、俺は辺りを見回した。
コレが現実と言いたげに、地震の時より酷い光景が飛び込んでくる………
一刻も早く此処から離れたい…!
そういう衝動に駆られ、立ち上がろうとする。
背中に酷い痛みを感じた。
叫び声を上げそうになって、必死でこらえる。
有紀乃に目をつむらせておいて良かった…
この怪我を見たらおそらく、正気を保てないだろう。
やっとのことで立ち上がった俺は、有紀乃にもう大丈夫だと伝える。
有紀乃は怪我をしてないみたいだ、どこかをかばう様な動きはない。
安心した俺は、有紀乃の頭を撫でてやる。
有紀乃は無言で抱きついてきた。
本当に怖かったんだろう……
俺だってあんなの耐えられない……!
俺は有紀乃をそっと抱きしめ、落ち着くのを待った………
辺りでは、沢山の人が死んでいた…
あれは夫婦なのかな…
倒れている女性にスーツ姿の男性が泣きついて、名前らしき言葉を叫んでいる……
すごく、悲しい光景だった。
俺も有紀乃を失ってたら、あんな風になってたのかな…
最悪の想像をしてしまったその時、スーツ姿の男が急に叫び出した。
その叫び声には何か恐ろしい感情を感じた。
まるで悲しみの象徴の様に、辺り一面に響き渡る。
「なんでだ!? 何であいつが死ななきゃならない! ふざけるなっ!!」
スーツの男は辺りに居る「生存者」の俺達に対して、怒鳴り散らす。
辺りにいる人間に殺意のこもった眼差しを向け、怒声を上げる。
その声に、悲しみはもう感じなかった。
あるのは、生き残った俺達への「嫉妬」と「憎悪」だけだ…
もちろん、俺達は何も悪くない。
それでもスーツの男は怒りを抑えられないらしく、近くに居る生き残った人間にその矛先を向ける。
スーツの男は鉄パイプを拾い上げ、一番近くに「居た生きている」女性に襲いかかった。