一級品の冒険小説~~ボブ・ラングレー著「北壁の死闘」 | 非正規独身女の読書日記ときどき手芸etc.

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貧乏暇なし生活の合間に読書するのが生きがいです。面白くない本は最後まで読まないので、面白かった本の書評だけをブログにあげています。だから更新頻度は低いですが、ブログに挙げた本は、お薦めできるものばかりなので、読書好きの方は参考にしていただけると幸いです。

素晴らしい冒険小説でした。
読み終わってからもしばらくは余韻が治まらず、

気に入った部分を読み返しては、涙がでてくる・・・という状態でした。

第二次世界大戦末期、敗戦の色が濃くなり窮地に陥ったナチス・ドイツは、苦肉の策として、ヨーロッパ最高峰のユングフラウヨッホ岬(アイガー北壁上方)にある研究所から敵側に協力している原子爆弾の技術者を拉致するという計画をたてる。実行役として、クライミング名手の軍人シュペングラーを含む精鋭クライマーが各地から集められ、無謀ともいえる計画に駆り出される。そしてこの計画に感づいた敵側の追手から逃れるため、クライマーたちは、無謀にも冬の嵐の中でアイガー北壁を辿ることになる・・・というストーリーです。

ナチ上層部の立てた無謀な計画の実行役として集められたクライマー集団の一人、シュペングラーは、過去に友人をアイガー北壁で亡くす原因を作ったというトラウマを抱えていましたが、この計画により因縁のアイガー北壁を辿ることになります。
その登攀は、過酷そのもので、まさに「死闘」でした。


アイガー北壁という驚異の前では、一人ひとりの人間なんてちっぽけな存在。・・・それを表現するように、本作では、登攀に敗れて命を落としていくクライマー仲間の死も淡々と描かれます。


死と隣り合わせの登攀中、シュペングラーは、自身の半生や取り巻く状況に思いを巡らせ、様々な感情(叶いそうもない恋心、戦争への義憤、使い捨てのコマのように残虐な殺戮に利用される無力さetc.)に向き合い、ひいては、自身のみじめな境遇に向き合います。そして、登攀が佳境に入ると、もはや「戦争」さえも卑小な存在となり、そこにはシュペングラーとアイガー北壁との一対一の闘いだけが存在する状況で、シュペングラーは、過去の因縁を持つアイガー北壁に決着をつけ生き延びる決意を固めます。・・・こういったシュペングラーの心境の変化が、本作では見事に描かれていました。


当初は敵側との闘いだったのが、自然との闘い、そしてアイガー北壁との闘いへと変わり、そして最終的にはアイガー北壁にトラウマを抱える自分との闘いへと変わっていく・・・このシュペングラーの変化、成長が、とても感動的でした。

物語のかなりの部分で、岩壁の登攀シーンが描かれるんですが、その描写が素晴らしく、迫力満点で、クライミング未経験の私でも、情景が目に浮かぶようでした(描写があまりにもリアルなので、高所恐怖症の私は、読んでいる間中ゾワゾワが止まりませんでした)。

過酷なアイガー北壁での「死闘」のあとにエピローグで描かれるエンディングは、感動のクライマックスでした。このエンディングについては、冒険小説やミステリーを多く読んできた人なら、予想できる結果だと思いますが、これ以上のハッピーエンドはありえないと思います。

また、プロローグで張られた伏線がエンディングで鮮やかに回収される構成も見事で、切ないロマンスや友情etc.も盛り込まれ、エンタメとしても一級品です。

一見単純なプロットのように思えるんですが、読めば読むほど奥が深く、本作の素晴らしさをここでは十分に書ききることができません。
とにかく、文句なしの大傑作です。