実は著者の吉田修一さんの本は、別の作品を以前読んだときにはそれほどハマらなかったんだけど、これはめちゃ面白かったです。これを機会に他の作品も読むつもりです。
極道の家に生まれた喜久雄は、ヤクザの抗争により父親を亡くし、跡目を継いだヤクザの縁を頼りに、歌舞伎役者花井半次郎に引き取られ、部屋子となる。そこで、半次郎の実の息子である俊介と出会い、ともに芸の道を極めていく・・・というストーリーです。
天賦の才能と美貌に恵まれた喜久雄と、梨園の血筋に恵まれた俊介。どちらも実力がありながらも、芸の道は順風満帆とはいかず、それぞれが過酷な運命にさらされます。
特に、血筋と後ろ盾がものを言う歌舞伎界で、半次郎亡き後後ろ盾を失った喜久雄は、泥水をすするような困難を味わいます。一方、俊介の方にも、坊ちゃん育ちにはかなり堪えるであろうほどの試練が訪れます。
歌舞伎界で切磋琢磨しながらキャリアを重ねるにつれて、喜久雄と俊介の関係も、遊び友達から、共演者、ライバル、そして同志へと変化していくのが素敵でした。それでも、物語序盤で実力に明暗が分かれ始めてから、無邪気な遊び友達だった二人の関係によそよそしさが入ってきたときは、切なくなりましたが。
上下巻でトータル1000頁近い大作で、喜久雄の幼少期から晩年までが丁寧に描かれているので、喜久雄の芸が円熟期を迎える終盤では、これまでの喜久雄の人生がフラッシュバックされて、感情移入して、涙ぐんでしまう場面が多くありました。このへんは、これから読む方もいらっしゃると思うので(というか、絶対に読んで欲しいです)、あまり詳しく書きません。
舞台裏やスキャンダル、マスコミ、芸能関係者など周囲の環境も描かれ、喜久雄の腐れ縁で幼少期から喜久雄の周りをうろつく徳次や、喜久雄と俊介を陰で支える家族のサイドストーリーも面白くて、エンタメとしても傑作です。
映像化しても面白いと思います。とすると、キャストは・・・喜久雄役には玉木宏さんで、俊介役には妻夫木聡さんがすぐに思い浮かびました。