SIIの症状は、器質性幻聴なのかも・・と思える極めて興味深い・・内容
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Kyupinの日記 気が向けば更新(精神科医のブログ)より
http://ameblo.jp/kyupin/entry-10406013037.html
内因性幻聴と器質性幻聴
テーマ:内因性の正体
一応、内因性幻聴とは統合失調症と躁うつ病による幻聴とする。
それに対し、この2つの疾患以外の幻聴を器質性幻聴と呼ぶことにする。本当は神経症性幻聴もありうると思うが、このブログではヒステリーすら器質性疾患と呼んでいるくらいなので、これも器質性幻聴に含める。(参考
)
だから、例えば解離に伴う幻聴は「器質性幻聴」である。(本当はそうではないのかもしれないが、そのように考えたほうが治療上、矛盾が少なくわかりやすい)
広汎性発達障害などがこじれて生じる幻聴も器質性幻聴になる(参考
)。
これら、内因性幻聴と器質性幻聴は区別できるのか?と言うと、しばらく診ていればほぼ100%できる。なぜなら、統合失調症なら顔をみると明らかだし(対人接触性の相違)、躁うつ病も経過を診ると、わかりやすい疾患だからである。ただ、躁うつ病の場合、一見してそうとわからないので、初診の時点では内因性と診断できないこともある。
このエントリでは、前半はその特徴の相違について、後半は治療の相違について書いていくことにする。
普通、内因性幻聴は自分を中傷するような嫌な内容のものが多いが、わりあい好意的なものもないわけではない。器質性幻聴は前者と少し性質が違うかと言うと、それほどクオリティに差がない場合もみられる。例えば、違法薬物(覚醒剤など)では「死ね」「殺す」などの嫌な内容の幻聴を訴える人もいる。
ただ器質性幻聴は、極めて単純な内容、例えば自分の名前を単に呼ばれるとか「アッ」とだけ聴こえるとか、鳥の鳴き声、物音など意味が極めて乏しいものも多い。つまりメッセージ性のない幻聴も多いということである。
また、幻聴に対するその人の構えの相違もある。
内因性幻聴は潜在的なパワーが膨大であり、その人を操ることもできる。だから、幻聴のために駅前で突如、裸になるとか、路上で突然土下座するというようなことも起こる。内因性幻聴は声というよりエネルギーとも言えるもので、その声体験も「脳に響いた」とか「胸で聴こえた」などと言う人もいる。だから幻聴が片耳から聞こえたとしたら、内因性由来のものでは珍しい現象と考えられる。
器質性幻聴では自我異和的に感じる人も多い。明らかに外部から侵入してくる感覚があり、その苦しみも内因性よりは言語化できる。「この幻聴をなんとかしてほしい」などという人もいる。この言い方は統合失調症の人では全くないとまでは言わないが、やや難しい訴え方である。
ただ、器質性の人でもそういう風に自我異和的に訴えない人もいる。これはより治療が難しいかは本当は微妙だと思う。なぜなら、内因性幻聴のほうがたぶん抗精神病薬の有効性が高いからである。(自我異和的でない幻聴はすべて内因性という意味ではない)
実際、覚醒剤中毒後遺症の幻聴ではそれに操られて事件を起こす人もいる。だから、幻聴と言っても漠然とした広さと奥行きがあると思う。きっちり線を引いて分けられるものではない。
人によれば、幻聴は特定の場所でしか生じないという人もいる。例えば踏み切りに行くと「飛び込め!」と幻聴が必ず出るとか、スーパーマーケットに行くと噂されている幻聴が出るといった感じである。これは一般には器質性色彩が強いもので、こういう風に言える人は幻聴をかなり嫌なもの、困ったものという認識が出来ている人の方が多い。このような幻聴はフラッシュバックとか、そのような文脈でも説明できるので、その視点でも器質的である。
ところが、統合失調症の人でも特定の場所でしか幻聴が出ないという人がいる。これはまず、その人が本当に統合失調症なのかどうか再検証が必要であろう。実は、検証してもやはり統合失調症ということもある。これはその病理により、あるいは脳の脆弱性により、ちょっとしたストレスでそういう症状が出やすいといった考え方のほうがシンプルでわかりやすい。
統合失調症の人で、ラジオを聴いていると幻聴が聴こえてくると言った人がいた。これは人の声や音楽が耳から入ることにより、ある種の情報の混乱が生じているものと思われる。普通、ラジオを聴いていて、そのDJが視聴者に「死ね」などと言うことはない。だが、統合失調症の人はその架空の世界が内省できないので、不穏状態になるか心に酷い乱れが生じる。本当に振り回されてしまうのである。だから統合失調症の人の一部に、ラジオやテレビが苦手な人がいる。
こういう風に見てくると、場所に由来する幻聴は内因性の人と器質性の人はその成り立ちがいくらか異なっているようにも見える。表面的には区別がつかず、同じように見えるが。
問題はこれらの治療である。内因性の幻聴ならば、抗精神病薬が優れている。僕は統合失調症とわかっていて、抗精神病薬の処方を躊躇い症状を悪化させることは非常に拙い対応だと思う。僕の研修医時代、最も注意されていたことである。統合失調症の人に、いかなる抗精神病薬が合うかは個人差があるので、その人に合ったものを選ぶべきである。
統合失調症の幻聴に対し、補助的に有効と思われる薬物でまず挙げられるものは気分安定化薬である。例えば、デパケンRなどを使うことで抗精神病薬を減量できることがある。デパケンRは一般的には抗精神病薬より長期的有害作用が小さいと考えられるため、そのような併用は優れていると思われる。
デパケンRは統合失調症における器質的色彩の種々の混乱を改善し、結果的に抗精神病薬を減量できる。たぶんデパケンRによる内因性幻聴の緩和は抗精神病薬の作用メカニズムと異なっている。
内因性のうち、躁うつ病による幻聴に対しては、気分安定化薬は最初から処方されていることが多い。
リーマス、デパケンR、テグレトール、ラミクタールは補助的に有効と思われる。一般に幻聴を伴うような躁うつ病では、臨床的にはセレネースやリスパダールなどの強力な抗精神病薬も併用される。これは対症療法であるが、幻聴が長期間続いて良いことは何もないので、このような併用は推奨される。(基本的に躁状態を一刻も早く収束させることは、幻覚においても治療的である)
また、一部のベンゾジアゼピンも内因性幻聴に補助的に有効である。実際、過去ログ
にも出てくるが、統合失調症の急性期にワイパックスの注射治療などは推奨されている(日本ではワイパックスの注射剤は未発売)。
問題は、レキソタンやワイパックスを飲むと幻聴が止まる人である。実は、内因性幻聴、器質性幻聴、いずれもこのような人たちが存在する。これはいろいろ考え方があるが、統合失調症にも器質性色彩の幻覚がけっこうあるといった感じかもしれない。また、統合失調症の漠とした不安に由来する幻聴とも言えるので、内因性といえばそうである。
器質性幻聴は、かなり対応が異なると考えられる。例えば、リエゾンなどで遭遇する身体疾患に由来する幻聴は、対症療法的にセレネースやリスパダール液が使われることも多い。これは一般的には有効なので、器質性幻聴には抗精神病薬が不適切とはいえない。このタイプの幻聴はその他の器質性に比べわりあい抗精神病薬が効くほうである。(実は、リエゾンで遭遇する人々は高齢のことも多く、難しい面がある。抑肝散やセロクエルなどの比較的マイルドな薬物もしばしば処方される。)
広汎性発達障害やヒステリーによる解離などの器質性幻聴の治療は、そう簡単なものではない。広汎性発達障害の人は極めて抗精神病薬に弱い人も多く見られるからである。全然効かず、かといって放置もできず、いたずらに量だけ増え副作用に苦しむ結果になりやすい。(使っても副作用が出るだけというパターン)
これらはデパケンRなどの気分安定化薬を併用し、もし処方されていたら、まず抗うつ剤を中止する対応が良い。なぜなら、抗うつ剤のために幻覚が生じている人がいるからである。この場合、やはりリスクを避けるために入院して治
また効いているようには見えない抗精神病薬もできるだけ中止する。ただ、この際に離脱が出現し、幻覚や希死念慮が増悪するような状況だと、減量すら容易ではないケースもみられる。このような際にはECTなども考慮すべきである。ECTは悪性症候群を避けられる上、離脱性ジストニアを生じにくくさせることも見逃せない。また自殺既遂を避けられることも重要である。
理想的には気分安定化薬を使いそれだけで幻聴が次第に改善すれば良いが、そうも行かない人たちも多い。
気分安定化薬のうち、特筆すべき薬物はラミクタールである。ラミクタールがフィットする人はその素晴らしさに感動するほどである。(参考 )
器質性幻聴にラミクタールが最も奏功するのは、たぶんウェールズの人 の幻覚妄想である。実はこのタイプの幻覚は内因性と呼ぶべきであるが、ラミクタールはたぶんこの病態の内因性と器質性の双方に効いているように見える。ラミクタールは症状性、あるいはてんかん性精神病による幻聴、妄想にも十分に効果的である。
それでもなお幻聴が収束しないケースは、何らかの抗精神病薬または抗うつ剤を処方する。これはフィットするかどうかの幅があり、順番的には抗精神病薬、特に非定型抗精神病薬から開始されることが多い。
しかし、抗うつ剤のほうがむしろフィットすることもあるのが極めて重要である(もちろん悪化させることもある。上に書いた通り)。内因性幻聴では、抗うつ剤がむしろ良いなんて人は皆無に近いので、そこが器質性と大きく異なる。
ごく最近、激しい幻聴を訴えて入院した若い女性がいた。外から悪口が聴こえてきて、もう耐えられない、引越ししたいほどだと言う。彼女はこの文章だけだと、統合失調症のように見えるが、顔を見るとひとめ統合失調症ではなかった。彼女の幻聴は支配されることもなく自我異和的であった。
彼女にはアナフラニールを毎日1アンプルだけ点滴静注することに決めた。翌日にはあれほど酷かった幻聴が収まったのである。嘘みたいだが、本当の話だ。こういう人に、安易にリスパダール液とかジプレキサザイディスを投与するから迷宮に入るのである。
彼女は最終的に、デパケンR、デプロメール、アナフラニール、ルーラン少量の組み合わせで十分だと思う。もしラミクタールが合えば、ラミクタールとデパケンRの2剤でも良いかもしれない。この人は今後、統合失調症に発展することはない(参考 )。過去ログ ではパキシルで幻聴が収まった話も出てくる。
実は、器質性幻聴はバリエーションが大きすぎて、マニュアル的にこういう方法なら良いという話にはならない。創造性のある対応が必要なのである。
最近はこういうタイプの幻覚(つまり器質性幻聴など)が増えてきているので、臨床現場の混乱が生じていると思われる。
今日のエントリは、1つは操作的診断法の普及のため、統合失調症も広汎性発達障害もワケがわからなくなっていることへの警鐘でもある。
今の現代風、軽微な器質性疾患の増加は、奇しくもDSM-4などを代表とする操作的診断法のダメっぷりを知らしめる結果になっている(参考 )。
