不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その87
本日は、使用許諾関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。
本裁判例は、LEX/DB(文献番号25109077)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。
岐阜地裁多治見平8・4・3〔著名デザイナー名に係る物品販売差止等事件〕平5(ワ)2
甲事件原告(丙事件被告) ヤマカ陶器株式会社(以下「原告ヤマカ陶器」)
乙事件原告 株式会社桂由美ブライダルハウス
甲・乙事件被告(丙事件原告) 株式会社京林(以下「被告」)
■事案の概要等
本件は,商標の名称を「桂由美」等とする本件商標権を管理している原告A及び本件商標の再実施権取得契約を締結している原告Bが、被告が原告らの承諾なく、勝手に被告の商品及びその包装箱につき、「YUMI KATSURA」等の名称を使用して販売し、かつ広告を行っていたとして、被告に対し、不正競争防止法1条1項1号に基づき、販売等の差止及び不法行為に基づく損害賠償を求める本訴を提起したのに対し、被告が、被告は原告らの承諾を得て被告商品の製造販売をしたにもかかわらず、原告Bは被告の製造販売を妨害したとして、原告Bに対し、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償を求める反訴を提起した事案です。
◆争いのない事実等
・原告ヤマカ陶器は、岐阜県多治見市に本店を置く陶磁器の販売等を目的とする。
・被告は、岐阜県土岐市に本店を置く陶磁器の加工・販売を目的とする。
・原告桂由美ブライダルハウスの代表取締役である結城由美は、全国的に知られたブライダルファッションデザイナーであり(争いがない)、「桂由美」商標は、第20類 家具・屋内外装置品・記念カップ等、第19類 台所用品・日用品等を指定して商標登録されている。
・原告桂由美ブライダルハウスは、代表取締役である結城由美の右登録にかかる商標権を管理し(弁論の全趣旨)、自己のブランドに「桂由美」、「YUMI KATSURA」の名称をそれぞれ使用し(争いがない)、ブライダル商品や贈答品その他台所用品等について、右の商標・氏名を使用する権利を30社に付与し、ライセンス契約を締結した業者にこれらの商品を生産させている(弁論の全趣旨)。
・原告ヤマカ陶器は、昭和63年1月30日、株式会社イトマンデザインクリエイターズとの間で、同社が商標の実施権を取得している「桂由美」について、商標の再実施権を取得する契約を締結し、同契約は更新され現在に至る(争いがない)。
・原告ヤマカ陶器は、「ヤマカ」「華窯」「YAMAKA」などの商標を用いて陶磁器を販売しているところ、右「桂由美」の商標再実施権取得契約に基づいて陶磁器を販売する場合には、「桂由美」もしくは「YUMI KATSURA」の商標を陶磁器に使用し、その裏面に「華窯」または「YAMAKA」などのネームを入れて陶磁器を販売(争いがない)。
6 原告ヤマカ陶器は、被告に対し、原告ヤマカ陶器作成名義の平成2年9月吉日付けの販売許可書(以下「本件販売許可書」という。)を交付したが、右販売許可書には、「ヤマカ陶器株式会社は、桂由美ブライダルハウスと契約した陶器デザイン商品の内、双方協議の上オリジナル商品として最適と看した商品を株式会社京林が販売する事を許可致します。」と記載(争いがない)。
7 被告は、平成4年3月頃から、別紙一の物件目録記載の商品に関する広告に桂由美の標章や「YUMI KATSURA」の名称を付して頒布し、さらに「YUMI KATSURA」及び「YAMAKA」の名称を付した同目録記載の商品(以下「本件商品」)を、東京・大阪地区を中心とする問屋やカタログ販売の方法によって一般消費者を取引相手とする問屋などに販売(争いがない)。
8 原告ヤマカ陶器は、問屋等の取引業者に対し,桂由美ブランドで陶磁器の裏に「YAMAKA」とネームが入った陶磁器が販売されている旨を連絡するとともに、被告に対し、平成4年5月28日、右陶磁器の製造及び販売を中止するように求める文書を送付(争いがない)。
9 被告は原告ヤマカ陶器の右行為により、陶磁器の製造及び販売を中止せざるをえなくなった(被告代表者本人)。
◆争点
1 本件商品を製造販売することについて被告は原告らから承諾を得たか否か
2 原告ヤマカ陶器の前記二8記載の行為が被告に対し債務不履行もしくは不法行為に該当する場合、原告ヤマカ陶器が支払うべき損害金いくらか
■当裁判所の判断
Ⅰ.争点1について
1.裁判所は、認定事実に基づき、リリーの花の柄のデザインがによる商品(以下「リリー商品」)は「原告ヤマカ陶器と被告との間で商品として販売する方向で進められていたと認めるのが相当である」と判断しました。
すなわち、「リリーの花の柄のデザインはサンリエ商事が被告を介してまた桂由美ブランドの商品の販売を始めようとしていると思っていた旨証言する」が、
「サンリエ商事と原告ヤマカ陶器との間のスイートメモリーシリーズの販売は不振で」、「サンリエ商事は…原告ヤマカ陶器に対し、スイートメモリーシリーズの販売を止めたい旨申し入れて…半完成品を納品し、以後の製造は中止の状態であったこと、
その一方で、サンリエ商事は、原告ヤマカ陶器の承諾のもと、スイートメモリーシリーズに代わる商品としてバラの商品の販売の準備を始めたが、結局、バラの商品については販売するにいたらず、バラの花のデザインの転写紙については被告が引き取ったこと、
その際、スイートメモリーシリーズの製造販売契約に締結にともなって差し入れた保証金のについて被告が転写紙の代金として支払った金30万円等を控除した残金70万円を返還してもらったこと、
リリーの花の柄のデザインについて、サンリエ商事の関係者が原告ヤマカ陶器の関係者と直接もしくは間接に接触したことはないことからすれば、
原告ヤマカ陶器とサンリエ商事との間の取引は、スイートメモリーシリーズの保証金を返還した時点で終了し、リリーの花のデザインについては被告が当事者となって交渉していたと認めるのが相当である」。
また「本件販売許可書の文言は「双方協議の上オリジナル商品として最適と看なした商品」を被告が販売することを許可するとなっているのであり、当時、スイートメモリーは販売されていた状態であったのであるから、同商品を被告において販売することを許すという趣旨であれば、端的にスイートメモリーと記載すればすむはずであること、むしろ、右文言からすれば、被告が販売する商品はこれから協議して作成していくものと解される内容となっていることに加えて当時バラの商品を販売するという方向で原告ヤマカ陶器とサンリエ商事との間で協議が進められていたことからすれば、右の「双方協議の上オリジナル商品として最適と看なした商品」とはバラの商品を念頭においていたものと認めるのが相当であ」る。
2.裁判所は、認定事実によれば「サンリエ商事が原告ヤマカ陶器との間の取引から手を引いた後は、本件販売許可書を交付したいきさつもあって被告が桂由美ブランドの商品を販売するという方向で検討されたこと、そしてリリーの商品をその販売の対象としていたことが認められ」、「そこで、バラ及びリリーの商品を原告ヤマカ陶器が製造して被告に引き渡すにとどまらず、被告が自分で製造することまでの合意ができていたのかについて」以下検討しました。
裁判所は「原告ヤマカ陶器がバラの花のデザインの転写紙を作成するために支出した30万円の費用を回収する必要があったとしても、そのためにロイヤリティーをもらってバラ及びリリーの製造までも認めなければならない事情であったというには疑問があること」、
「原告ヤマカ陶器は、被告宛ての平成4年2月3日付けの「御見積書」を作成し、同見積書を被告に交付したことが認められるところ、右見積書には、バラ・リリーの単価が運賃を含まずという前提で示された上、その有効期限が平成5年12月末日であり完納予定日が受注後約10日間と記載され…この時点では、バラ・リリーについては原告ヤマカ陶器と被告との間で商品として製造販売する方向で…、商品の製造は原告ヤマカ陶器が、販売は被告がするという方向であったと窺えること」、
「桂由美ブライダルハウスとの契約により、桂由美ブランドの商標についての使用権を第三者に再許諾できないことになっているところ…原告ヤマカ陶器においてバラやリリーの商品を被告に製造させることまでも原告桂由美ブライダルハウスに説明し、同意を得ていたとは認められ」ず、「果たして原告ヤマカ陶器が被告に製造させることまでも同意していたのか疑問があ」ること、
その他、原告ヤマカ陶器と被告との間で本件商品について被告が製造販売するという合意が出来ていたと認めるに足りる証拠はない」。
Ⅱ.争点2について
裁判所は「本件合意が成立していたとは認められないから、被告の販売行為を差し止めようとした原告ヤマカ陶器の行為が債務不履行や不法行為に該当するとはいえない」とし、被告は「事情を知らない被告に対し、なんら警告注意を与えることなく、むしろ積極的に桂由美の商標使用を許した如く申し向け、被告をしてその旨信じ込ませたと主張するが」、「原告ヤマカ陶器と被告との間で本件商品について被告が製造販売するという合意自体が成立していたと認めるに足りないし、被告が合意が成立したと誤信したとしても…原告ヤマカ陶器にそのように誤信させたことにつき責任を負うべきであるという事情があったともいえない」とし、「被告の右主張も理由がない」と判断しました。
■結論
裁判所は「原告ヤマカ陶器が被告に対し、被告が本件商品を製造販売することを承諾したとは認められないから、原告ヤマカ陶器及び原告桂由美ブライダルハウスの請求のうち、本件商品の使用及び販売の禁止を求める部分は理由があり、被告の反訴請求は理由がない」と判断しました。「次に、原告らの請求のうち、被告が販売した本件商品が原告ヤマカ陶器の販売品より粗悪品であり、原告ヤマカ陶器の商品表示のもつ信用が毀損され無形の損害を被ったとして、原告ヤマカ陶器は金100万円を、原告桂由美ブライダルハウスは金200万円をそれぞれ被告に請求している部分は…本件商品のデザイン自体は原告桂由美ブライダルハウスの承認を得たものであり、被告において製造する際に用いた転写紙及び生地が原告ヤマカ陶器の販売品よりもことさら劣るものであったとも認められないから、結局、粗悪品であったとの点において証明不十分であり、理由がないというべきである」と判断しました。
■BLM感想等
前回見た著名建築家事業承継事件や、FOXEY事件等とは異なり、本件は、原告ヤマカ陶器は、「ヤマカ」「華窯」「YAMAKA」などの商標を用いて陶磁器を販売しているところ、著名デザイナー名称等からなる「桂由美」の商標再実施権取得契約に基づいて陶磁器を販売する場合には、「桂由美」もしくは「YUMI KATSURA」の商標を陶磁器に使用し、その裏面に「華窯」または「YAMAKA」などのネームを入れて陶磁器を販売しているという事案で、かかる著名デザイナー名等を出所識別機能が発揮する態様で使用した事例でした。したがって、かかる識別力を発揮するような態様で使用する商品は、そのデザイナー名等の商標・その他の表示を使用する商品のデザインや物理的な品質等が、その著名デザイナーのイメージやコンセプトを毀損しない方向で管理される必要があります。
この点、裁判所は「原告ヤマカ陶器とサンリエ商事との間の取引は、スイートメモリーシリーズの保証金を返還した時点で終了し、リリーの花のデザインについては被告が当事者となって交渉していたと認めるのが相当である」とし、「本件販売許可書の文言は「双方協議の上オリジナル商品として最適と看なした商品」を被告が販売することを許可するとなっているのであり、当時、スイートメモリーは販売されていた状態であったのであるから、同商品を被告において販売することを許すという趣旨であれば、端的にスイートメモリーと記載すればすむはずであること、むしろ、右文言からすれば、被告が販売する商品はこれから協議して作成していくものと解される内容となっていることに加えて当時バラの商品を販売するという方向で原告ヤマカ陶器とサンリエ商事との間で協議が進められていたことからすれば、右の「双方協議の上オリジナル商品として最適と看なした商品」とはバラの商品を念頭においていたものと認めるのが相当であ」るなどと判断し、原告が被告に許諾したのか等、細かく認定しています。商標・その他の表示の出所識別機能を発揮する使用と、単に記述的に使用し事実を事実として述べるのと、どうちがうのでしょうか。結局、前者は、事実以上のもの、商品や・サービスを介して得られる提供価値等が一貫して伝達されているか、ということなのかなぁと思います。これを法律上の話に戻すと、本件の場合は、最終的に、株式会社桂由美ブライダルハウスが商標・その他の表示の使用を、特定のデザインの商品に使用することを承認(許諾)しているのかが問題で、第二に、同社がこの会社なら安心して任せられるという製造販売業者が関わって、管理しているのかという問題で、本件では少なくともこの2つをクリアーして初めて商品として世に出せた、ということなのかもしれません。
By BLM
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