不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その30

 本日も、元従業員と会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  東京地判平30・3・13〔FOXEY事件〕平28(ワ)43757(知財高判平30・10・11〔同〕平30(ネ)10028)

原告 株式会社フォクシー
被告 株式会社ローブデコルテ(以下「被告会社」)
被告 A(以下「被告A」)

 

 

■事案の概要等 

  本件は、原告が、(1)被告会社において、原告の顧客に対し、その代表者である被告Aが原告の元デザイナーであるとか、被告会社の商品が原告の商品と同等である等の虚偽であり、かつ、品質等の誤認を惹起させる事実を告知・流布して、原告の顧客をその旨誤信させたことが不正競争防止法2条1項15号ないし14号所定の不正競争に該当し、(2)被告会社において,原告の周知ないし著名な商品等表示である「FOXEY」ないし「フォクシー」との表示を使用して営業活動を行い,あたかも被告会社が原告の姉妹ブランドであるかのような混同を生じさせたことが同項1号ないし2号所定の不正競争に該当し、(3)仮に,被告会社の上記(1)ないし(2)の各行為が不正競争に当たらないとしても,これらはいずれも民法709条所定の不法行為に該当し、(4)被告Aは,被告会社の上記各行為について、同社の代表取締役として会社法429条に基づく責任を負うほか、一般不法行為上の責任も負う旨主張して,被告会社に対し差止・損害賠償等求めた事案です。

 本ブログでは、上記(2)の同法3条1項,2条1項1号,2号に基づき,同社の商品販売に当たり,「FOXEY」及び「フォクシー」の表示を用いることの差止めに関する裁判所判断を主に見ていきます。

 

◆当事者等
・原告:昭和57年2月1日設立。高級婦人衣料品,毛皮及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を主たる業とする。原告は、創業者Bがデザインを統括する「FOXEY」及び同人の長女Cがデザイン統括する「ADEAM」を自社ブランドとして展開。
・被告A:平成12年11月6日から平成14年10月31日まで、原告企画部に在籍。自己都合により退職。その後、被告Aは、平成25年5月2日,被告会社を設立し,ブランド「ローブデコルテ」を立ち上げて営業活動開始。
・被告会社:被告Aが自らを代表取締役として設立。高級婦人衣料品,毛皮及び宝飾品等の雑貨等の企画,デザイン,製作及び販売等を業とする。
・D:「D’ちゃんのブログ」と題するブログを開設し,執筆する者。


◆被告会社のウェブサイト上の記載等
(1)被告会社は,平茂28年9月26日当時,自らのウェブサイトで「その代表者である被告Aの「略歴」として「…帰国後,国内ブランド・フォクシーFOXEYのデザイナーとしてFOXEY INTERNATIONALに入社。FOXEY BOUTIQUEラインのデザインを担当。ドラマタイアップ<やまとなでしこ>,フォクシー伊勢丹店出店,名古屋店リニューアル,青山店リニューアルなどの企画に従事。」と記載していた。
(2)原告は,平成28年9月26日付けで、原告のホームページ上に,「注意喚起」として,「“FOXEYの元デザイナー”を騙り,FOXEYのブランド名や信用を利用してコピー商品やデザインが酷似した類似品を販売する業者が確認されておりますが,これらは法令に違反する行為であり,当社とは一切関係ありませんのでご注意ください。」などと記載された警告文…を掲載した。
(3)同日中に、被告会社のウェブサイトにおける被告Aの略歴の記載は,「…帰国後,国内ブランド・FOXEY INTERNATIONALに入社。企画・デザインを担当。」と変更され、同年12月8日には「…帰国後,国内ブランド・FOXEY INTERNATIONALに入社。FOXEY BOUTIQUEラインの商品企画・デザインを担当。」と変更された。

 

■争点

(1)被告会社について
ア 不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為(信用毀損行為)の有無(争点1)
(ア)原告・被告会社間の競争関係の有無
(イ)被告会社が行った告知・流布の内容
(ウ)被告会社が告知・流布した事実が虚偽であるか
(エ)被告会社の告知・流布により原告の営業上の信用が害されたか
イ 同法2条1項14号所定の不正競争行為(誤認惹起行為)の有無(争点2)
ウ 同法2条1項1号所定の不正競争行為(混同惹起行為)の有無(争点3)
エ 同法2条1項2号所定の不正競争行為(著名表示冒用行為)の有無(争点4)
オ 不正競争に基づく謝罪広告掲載の必要性の有無(争点5)
カ 不正競争に基づく損害賠償責任の有無等(争点6)
キ 一般不法行為に基づく損害賠償責任の有無等(争点7)
(2)被告Aについて
 損害賠償責任の有無等(争点8)

 

 

■当裁判所の判断
 裁判所は、被告Aの職務内容等に関する事実認定(本ブログでは省略)を詳細に行ったあと、以下のように認定・判断しました。

 

1.不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為(信用毀損行為)の有無(争点1)

(1)競争関係について
 裁判所は、原・被告は、不正競争防止法2条1項15号所定の「競争関係」にあることを認めた上で、認定事実から、以下のように判断し、被告会社による告知・流布行為(法2条1項15号所定の不正競争行為)を認めるに足りない」と判断しました。

 

 裁判所は、「被告Aが原告の元デザイナーであった」「同人が原告においてデザインを担当していた」との事実が虚偽か否かについて、認定事実、とりわけ,①「被告Aが、原告における「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」の募集広告に応じて,原告に履歴書やデザイン画を送付し,筆記試験及び面接を受けた結果,原告に採用された」こと、②「被告Aは,原告の企画デザイン室において,他のデザイナー…とともに稼働し,Bや先輩であるHの指導を受けながら見習い的な業務を行いつつ,自らも,デザイン画を描いたり,サンプル説明会の資料を作成するなど,一定の創作性を発揮し…」、「デザイナーの給与として記載されていた程度の給与を受領していたこと」、③「原告が関与した新聞記事や原告自身が発行する雑誌」で、「B以外の者がデザイナーとして扱われており、原告が実際にそのような取扱いを行っている事例があること」、④「被告Aが原告から「デザイナー」との肩書入りの名刺」を交付されたこと等によれば、被告Aは,原告において「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」として,又は,少なくともその候補者として扱われ,実際にデザインに関する様々な業務に携わってい」と認め、「被告Aが原告においてデザインを担当していた」との事実が虚偽であるとは認められないし、「被告Aが原告の元デザイナーであった」との事実についても虚偽であるとは未だ認めるに足りないと判断しました。


 さらに、被告会社が自身のホームページにおいて行った記載について、裁判所は、「被告Aが,原告においてドラマタイアップや新規出店,店舗リニューアルなどの企画に従事したかは,「被告Aが原告の元デザイナーであった」などの事実とは異なり,高級婦人服の購入を検討する者の意思決定にとってさほど意味のある事実とは認められないから、仮にこれらが虚偽の事実であったとしても,現在それらの事実の告知・流布が行われていないことも考慮すれば,過去における告知・流布のみにより原告の営業上の信用が害されたとまでは認めるに足りない」と判断しました。

 

 以上のほか「Dが被告会社の従業員であり,同人が自らのブログ」で行った記載について被告会社が使用者責任(民法715条1項)を負うなどと主張するのに対し、「株式会社ローブデコルテ 企画 D」と記載された名刺…の存在等によれば,Dが被告会社の仕事に一定程度関与していたことは認められるものの,それ以上に,被告会社とDとの間の指揮命令関係の存在まで認めるに足りる証拠はない」として、原告の主張を認めませんでした。

(裁判所の被告Aの職務内容等に関する事実認定で、Dについても認定しており、それによれば「原告の商品を大量に購入してきた者であり、「D’ちゃんのブログ」…を開設し、ここで、原告の商品が好きである旨繰り返し述べ…、ファッションに関する様々な記載をしてきた。Dは…被告会社に客として来店し,その後も,頻繁に同社に客として来店」し、「被告Aは、Dと話をするうちに,…社会復帰を望んでおり,また,同人はファッションが大好きであることを知ったので…週2回程度,出勤時間は午前11時から午後6時まで程度として,被告会社で…雑務をしてもらうことにした」とあります。)


2.不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為(誤認惹起行為)の有無(争点2)
 原告は,被告らが、…各事実を表示し,当該表示に係る商品を販売したが,これらの表示は,いずれも被告商品の「品質」,「内容」,「製造方法」及び「役務提供の質」を誤認させる旨主張しましたが、裁判所は、被告会社の行為として認められるのは、「被告Aは原告の元デザイナーである」との事実」等一定のものを表示した点にとどまるとし、上記表示が,被告商品の品質等を誤認させる表示であるとは認められず、被告会社による不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為があったとは認められないと判断しました。

 

3.不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為(混同惹起行為)ないし同項2号所定の不正競争行為(著名表示冒用行為)の有無)(争点3及び4)
(1)判断基準

 不正競争防止法2条1項1号ないし2号は,周知ないし著名な商品等表示が有する出所表示機能や自他商品識別機能の保護を目的とするものであるから,上記各号所定の不正競争行為が成立するためには,単に他人の周知ないし著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付したり広告に用いるだけでなく,それが商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられることを要するというべきである。

 

(2)本件に関する判断
 不正競争防止法2条1項1号に関して、裁判所は、認定事実に照らし、「認定できる告知は、「被告Aが原告の元デザイナーであった」とか「同人が原告においてデザインを担当していた」旨の被告Aの経歴を説明する際に原告名を用いたものにすぎず,被告会社の商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いたものではないから,被告会社の上記行為によって,「FOXEY」ないし「フォクシー」との表示(本件表示)が有する出所表示機能や自他商品識別機能は何ら害されておらず,被告会社が本件表示を「使用」(不正競争防止法2条1項1号ないし2号)したものとは認められない」とし、「その余について検討するまでもなく,被告会社が同号所定の不正競争行為を行ったとはいえない」と判断しました。

 なお、同項2号に関しては、商品等表示の「著名」性を否定しました。

 

4.その他
 一般不法行為の成否(争点7)について、裁判所は、「被告会社の上記各行為が,全体として,公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われたとか,被告会社において害意が存在したとは認められない」とし、「被告会社による上記各行為について,民法709条所定の一般不法行為が成立」を認めませんでした。被告Aの責任(争点8)についても認めませんでした。

 

5.結論
 以上により、裁判所は、原告の請求はいずれも理由がないとし棄却しました。


■BLM感想等

 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の商品と同種の商品を製造・販売等する場合、元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。

 本件は、元従業員が立ち上げた会社の商号・その他の表示は、従前に所属していた商号・その他の表示と全くことなるもので、一般の商標権侵害や不正競争防止法2条1項1号の争いとは趣をことにしています。

 一方、これまで見てきた裁判例のうち、東京地判平3・11・29〔オータ事務所事件〕平1(ワ)1519、平1(ワ)15555と同種の事例と考えます。同事件でも、裁判所は、出所識別機能を発揮する使用に該当しないと判断しています。同事件のBLM感想等として「従前務めていた組織(会社、事務所等)でスキル等を磨き、自己に蓄積してきたスキル等を活かして独立しようとする場合、どのような組織でスキルを磨く等してきたかで、顧客から得られる信用は異なってくると思います。そうすると、確かに、原告・オータ事務所で過去に勤めていたことを謳うことは、同事務所の信用力を利用しようとする行為と言えなくもないですが、被告が原告・オータ事務所の名称にフリーライドし、出所の混同により原告の顧客を奪おうとの意思が認められないような場合には、不正競争の目的を認める必要性も許容性もないと言えます。さらに、見方によっては、被告が優秀であれば、原告・同事務所の信用も高まる可能性もあるわけです。一方、被告のサービスの質が悪い場合には、原告と被告は無関係とすべく、「オータ事務所」等の使用の差止の必要性はあるかもしれません」と述べましたが、本件でも同様のことが言えるように思います。

 本件では、裁判所は、「主として被告Aの職務内容等に関するもの」の事実認定を詳細に行っています。例えば、「被告Aは、文化服装学院アパレル技術科を卒業後、英国に留学し、英国ノッティンガム芸術大学大学院の修士課程を修了し、日本に帰国後も株式会社オンワード樫山などで勤務していたが、上記の原告の広告等を見て、原告のデザイナー又はアシスタント・デザイナーに応募することにした。被告Aは,原告に履歴書とデザイン画を送り、その後、筆記試験を受け、さらに、Bなど3名による面接を受けた後、平成12年10月10日頃,原告から採用内定の通知を受けた。」等の被告のバックグラウンドや採用過程も詳細に検討し、かかる事実や、争点1の①乃至④で認定した事実等を総合し、裁判所は「被告Aは,原告において「デザイナー」ないし「アシスタント・デザイナー」として,又は,少なくともその候補者として扱われ,実際にデザインに関する様々な業務に携わってい」たと認め、「被告Aが原告においてデザインを担当していた」及び「被告Aが原告の元デザイナーであった」との事実を虚偽と認めず、したがって、同項1号の適用上も、単に事実を述べたまでのこととして、出所識別機能が発揮しない記述的な記載と判断したと考えます。なお、本件において、同項1号等の適用上、洋服の形状やデザインが似ているなどの争いは提示されていませんので、不正競争がないと判断しやすい事例と考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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