不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その71

 本日は、事業承継事例に係る紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28082182)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平15・6・27〔AFTO事件〕平14(ワ)19714

原告 株式会社大禄 
被告 アフトシステム株式会社 
被告 有限会社綾南 

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告アフトに対し、原告アフト事業部が使用している原告標章が取引関係者間に広く認識されていたにもかかわらず、被告が被告アフト商号を使用し、被告標章を使用して営業をしたことにより、第三者をして原告の営業と被告アフトの営業を混同させ、原告の営業上の利益が侵害されたと主張して、不正競争防止法2条1項1号等に基づき、被告標章及び商号の使用差止、抹消等を求めた事案です。

◆争いがない事実等
(1)ユニオンフード販売株式会社(以下「ユニオンフード」)は羽田事業部で,「AFTO」の文字標章(以下「原告標章」)を使用して,水産物及び青果物等の集荷,配送業務等を行っていた。原告は,食料品等の売買及び輸出入業等を目的とする。平成12年3月、ユニオンフードから営業譲渡を受けて、主に集荷、配送業を扱うための原告羽田事業部AFTO(以下「原告アフト事業部」)という事業所を設立し,原告標章を使用し水産物及び青果物等の集荷,配送業務等を行っている。
(2)被告有限会社綾南(以下「被告綾南」)は,一般区域貨物自動車運送業,自動車運送取扱業等を目的とする。
(3)被告アフトシステム株式会社(以下「被告アフト」)(平成11年8月3日設立。自動車運送取扱業,自動車のリース業及びこれらに付帯する一切の事業を目的とし,本店埼玉県北本市。代表取締役Aは、被告綾南の代表取締役Bの妻。)は、平成14年7月17日,本店所在地を肩書地に変更する旨の登記を行い、平成11年8月3日以降,「アフトシステム株式会社」の商号(以下「被告アフト商号」)を使用し、営業用運送トラックや社員の名刺等に別紙目録〔1〕ないし〔7〕記載の各標章(以下「被告標章」)を使用し、水産物及び青果物等の集荷,配送業務等を行う。

 被告綾南は,従来ユニオンフードないし原告アフト事業部との間で,その車両本体に「AFTO」を含む標章が表記された営業用運送トラックをリースしていたが,同リース契約が解除された平成14年7月1日以降,原告アフト事業部がそれまでリースを受けていた上記営業用運送トラックを上記「AFTO」を含む標章が表記されているままの状態で,被告アフトに使用させた。

 

■当裁判所の判断(下線・太字筆者)
 裁判所は、認定事実に基づき、以下のように判断しました。
Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号
1.争点1(原告標章の周知性の有無)について
(1)裁判所は認定事実に基づき以下の事実を認定しました。

「ユニオンフードは,平成8年12月,羽田事業部を開設し,第一種利用運送事業について貨物運送取扱事業法3条所定の許可を得て,以後,水産物等の集荷,配送業務を行」い、「ユニオンフード羽田事業部は,その社員の名刺や取引先に対する請求書に「AFTO」の標章を使用していた」。
(2)「ANA CARGO」平成9年(1997年)7月号…ホームページでは,「ANA済性を加味した高品質なサービスの提供を目指して設立」等が掲載。
(3)「原告の当時の常務取締役がユニオンフードの代表取締役に就任し,その後ユニオンフードの事務所が原告の本店所在地に移転するなどして,原告は,ユニオンフードの営業権を取得した。原告は,平成12年3月1日,ユニオンフードから営業譲渡を受ける旨の契約を締結し,ユニオンフード羽田事業部を承継する形で原告アフト事業部を開設し,ユニオンフードと同様に水産物及び青果物等の集荷,配送業務を行ってきた。なお,ユニオンフード羽田事業部と原告アフト事業部の所在地は同一である」。
(4)「ユニオンフード羽田事業部は,取引書類に「AFTO」を使用し,原告アフト事業部は,「株式会社大禄羽田事業部AFTO」の名称を取引先に対する請求書等に使用し、「ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部は,被告綾南から運送用貨物トラックのリースを受け,その車両本体に原告標章を表記し,水産物及び青果物等の集荷,配送業務を行っていた」。
(5)「ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部の平成11年3月から平成14年9月までの売上高は…当初は月間3000万円前後,その後は月間5000万円前後で,ユニオンフードから営業譲渡を受けた後の売上高は,年間5億円ないし6億円…。…平成11年8月から現在…まで…ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部の取引先や配送先も,東北地方及び関東地方一円並びに静岡県を中心に全国に及」び、「同種の業者は東京都内では原告の外10社程度,埼玉県及び千葉県にはそれぞれ1社存在するのみで…地域別シェアも,ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部が東京都内で約3割から5割,埼玉県で約5割,千葉県で約9割,静岡県で8割,東北地方で約3割を占めている」。

 

(2)裁判所は、以上の認定事実により以下判断しました。

 「原告標章である「AFTO」の文字標章は,水産物及び青果物等の集荷,配送業務を行っていたユニオンフード羽田事業部の営業表示として,遅くとも平成11年8月ころまでには,関東地方の取引者ないし需要者に周知となっていた」。

 そして「営業譲渡の後は原告アフト事業部が原告標章を使用しているところ,ユニオンフード羽田事業部と原告アフト事業部とは,水産物及び青果物等の集荷,配送業務を行うという点で営業形態が同一であり,事務所の所在地も同一であって,営業活動の継続性が認められるから,原告は,ユニオンフードから営業譲渡を受けることによって上記周知性を承継し,その後も売り上げを伸ばして,原告標章は,原告の営業表示として現在に至るまで周知であるということができる。

 

2.争点2(原告標章と被告標章及び被告アフト商号との類似性)について
(1)裁判所は、被告各標章について、「AFTO」という文字表示そのもの、「AFTO」という文字表示の背景にデザインがあるもの、及び、「AFTO」という文字表示を大きく表示し,「アフトシステム株式会社」等の文字が小さく付されているもののいずれについても、「AFTO」という部分を要部として、いずれも原告標章と類似であると認定しました。
(2)裁判所は、「被告アフト商号のうち,「株式会社」という部分は,会社の種類を示す部分であるから識別力がなく,また,「システム」という部分は,組織,系統ないし仕組みを意味するから、同様に識別力がなく,その余の「アフト」という部分が,識別力を有し、原告標章と称呼及び観念において同一であり、被告アフト商号は,原告標章と類似すると判断しました。

 

3 争点3(誤認混同の有無)について
(1)裁判所は、現実の誤認等が生じている事実を認定し「被告アフト商号又は被告標章が被告アフトの営業表示として使用される」と、「原告の取引先又は需要者は,同被告と原告を同一の営業主体と誤信するか,又は両者間に系列関係など密接な営業上の関係が存在するものと誤信するおそれがあ」り、「被告アフトが被告アフト商号で営業活動を行い,被告標章を使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に当たり,原告の営業上の利益を侵害しており,今後も侵害するおそれがある」と判断しました。


4 争点4(原告の同意の有無)について
 裁判所は、「被告らは,当時ユニオンフード羽田事業部所長としてユニオンフードから包括的代理権を与えられた支配人又は表見支配人に当たるCが被告アフト商号及び被告標章の使用に同意したので,被告らの行為は不正競争行為に当たらないと主張」等しているところ、「全文が手書きの体裁のCの陳述書(甲53)の記載によると,同人は被告アフトの存在を知らなかったなどとして同意の事実を否定し」ている等により、「被告アフト商号及び被告標章の使用に原告の同意があったとい」えないと認定しました。なお、「Cは,原告がユニオンフードの営業権を取得した平成10年4月以降,ユニオンフード羽田事業部の所長という肩書きであり,その後原告アフト事業部所長という肩書きであったことが認められるものの」,「ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部自体,ユニオンフードないし原告の一事業部にすぎず,Cは,原告の組織上は課長待遇を受けていたにすぎ」ず、「「AFTO」の営業表示やそれを含む標章の使用を第三者に許諾するという重要な業務執行事項についての決定権限を有していたことを認めるに足りる証拠はない」。


5 争点5(原告の請求主体性の有無)について
(1)判断基準

 「貨物運送取扱事業法17条1項は「利用運送事業の譲渡し及び譲受けは,国土交通大臣の認可を受けなければ,その効力を生じない。」と規定しており,上記事業の譲渡の効力を認可の有無にかからしめているから,原告が上記認可を受けてはじめてその効力が生じるものと解される」。「同法は,貨物運送取扱事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,貨物運送取扱事業の健全な発展を図るとともに,貨物の流通の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応した貨物の運送サービスの円滑な提供を確保し,もって利用者の利益保護及びその利便の増進に寄与することを目的とするものである(同法1条)。このような同法の趣旨からすると,上記認可に関する規定も,利用者の利益の保護を図るためのいわゆる取締規定と解するべきであり,上記認可を受けずに行った運送契約の締結等の取引行為の私法上の効力が直ちに否定されるものではない。
 

(2)判断基準

 「不正競争防止法は,事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである(同法1条)。そして,他人の不正競争によって営業上の利益を侵害された者は,差止請求権及び損害賠償請求権を有する…(同法3条,4条)」

 

(3)本件に関する判断

 裁判所は「原告は、ユニオンフードから営業譲渡を受け、本訴提起後の平成14年10月11日に第一種利用運送事業の譲渡譲受認可申請をし,同年11月27日に関東運輸局長から認可を受けた」を認めました。その上で「原告は,貨物運送取扱事業法所定の許可を得て事業を行っていたユニオンフードから営業譲渡を受け,その後第一種利用運送事業の譲渡譲受認可を受けたものであって,営業譲渡の後上記認可を受けるまでの間に取引行為を行ってきたことの一事をもって,不正競争防止法上の請求主体性を欠くということはできない」と判断しました。


6.争点6(被告らの故意の有無及び共同不法行為の成否)について
(1)裁判所は、上記のように、「原告標章は,原告アフト事業部の前身であるユニオンフードの営業表示として,遅くとも平成11年8月ころには関東地方を中心に周知」で、「営業譲渡後は原告の営業表示として周知である」と認めた上、「被告綾南は,ユニオンフードと平成9年ころから取引関係にあり,ユニオンフードの営業譲渡後は原告とも取引関係にあり,その際「(株)大禄羽田事業部AFTO」を名宛人とする請求書を使用し」、「平成11年8月に被告アフトが設立され,被告綾南の代表取締役であるBが同アフトの取締役にな」り、「被告綾南の代表取締役と同アフトの代表取締役とが夫婦で」、「当初被告綾南と同アフトの本店所在地が同一であ」り,「被告綾南は,平成14年6月30日、原告アフト事業部から継続的取引関係を解約されたところ」、「被告アフトに対し,原告アフト事業部が標章を付して営業上使用していた営業用運送トラックを,上記標章が付されたままの状態で,営業活動に使用させたこと」の事実が認めた上、以下のように認定し、判断しました。
(2)「被告アフト及び同綾南は,いずれも原告標章が周知であることを知っていた」と認められ、「被告アフトと同綾南との間に主観的にも客観的にも関連共同性が認められる」。「被告綾南は,同アフトの行為によって原告に生じた損害について,被告アフトとともに共同不法行為責任を負う」。


7.争点7(損害の発生及び数額)について
 証拠(甲57,61,62)及び弁論の全趣旨によると,被告アフトの平成13年1月期の収入が5000万円であり,平成1(省略)


■結論
 裁判所は原告の請求、すなわち、被告アフトシステム株式会社は、その自動車運送取扱,自動車のリース業その他これらに付帯する一切の営業に別紙目録記載の各標章を使用してはならない旨、本店,埼玉県等の各所在の営業所の各店舗内,営業用運送トラック及び社員使用に係る名刺に付された営業表示から,前項記載の各標章を抹消せよとの旨、「アフトシステム株式会社」の商号を使用してはならない旨、「アフトシステム株式会社」の商号の抹消登記手続をせよとの旨の判断をしました。

 

■BLM感想等 

 本件は、ユニオンフード販売株式会社が、羽田事業部で「AFTO」の文字標章(以下「原告標章」)を使用して,水産物及び青果物等の集荷,配送業務等を行っていたことから始まります。この段階で周知性の獲得が認めらえています。 次に、原告株式会社大禄は,ユニオンフードから営業譲渡を受けて、主に集荷、配送業を扱うための原告羽田事業部AFTO(以下「原告アフト事業部」)という事業所を設立し,原告標章を使用し水産物等の集荷,配送業務等を行っていました。この際、裁判所は「ユニオンフード羽田事業部と原告アフト事業部とは,水産物及び青果物等の集荷,配送業務を行うという点で営業形態が同一であり,事務所の所在地も同一であって,営業活動の継続性が認められる」とし、営業譲渡により、上記「周知性を承継し,その後も売り上げを伸ばして,原告標章は,原告の営業表示として現在に至るまで周知である」と判断しています。営業譲渡という契約があることが前提となっていますが、それだけでなく実際に「営業形態が同一」で「事務所の所在地も同一」で「営業活動の継続性」が認められることで、周知性の承継を認めているものと考えます。

 一方、被告有限会社綾南はユニオンフード販売株式会社と従前取引関係にあり、営業譲渡後は原告とも取引関係にあり、また、ユニオンフード羽田事業部ないし原告アフト事業部は,被告綾南から運送用貨物トラックのリースを受け,その車両本体に原告標章を表記し,水産物等の集荷,配送業務を行っていたこと、被告綾南は、被告アフトに、原告アフト事業部が標章を付して営業上使用していた営業用運送トラックを、上記標章が付されたももの状態で営業活動に使用させたことが認められています。原告主張によれば「原告がユニオンフードから営業権の譲渡を受け原告アフト事業部を設立した直後の平成11年8月3日,被告綾南の代表取締役であるBが取締役,被告綾南の取締役であるAが代表取締役となって,被告アフトが設立された」とのことです。本ブログで、周知性が途切れる裁判例を見ましたが、かかる周知性が途切れる空白の期間に、アフトシステム株式会社という商号で被告アフトの設立を試み、正当化されるとも考えたのかもしれません。この点、丸美屋食品工業事件では、創業家が営業を本格的に再開していない約9年間の空白の間に、元従業員等の会社が周知性を獲得できた事案があり、被告アフトもかかる事件と同旨の内容であれば、その商号を使用する正当性も認めらえる余地があったかもしれません。しかし、丸美屋食品工業事件と異なるのは、営業譲渡という当事者間の契約がある点かもしれません。そうすると、空白の間が仮にあったとしても、不正競争の目的がない、という点が重要でしょう。丸美屋食品工業事件では、元従業員等は「是はうまい」の品質に精通していた者であったといえそうで、この点も加味された可能性があります。契約、実体ともに本件は被告が正当化される余地はなかったといえそうです。かかる状況で、貨物運送取扱事業法上の許可がなかった間に事業を開始した点も特に被告の有利に働きませんでした。

 

By BLM

 

 

 

 

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