不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その68
本日は、前回のホテルつながりで、ホテルに関係した事例を見ていきます。
本裁判例は、LEX/DB(文献番号28080275)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。
大阪地判平14・11・14〔おしゃれマジック事件〕平14(ワ)3648
原告 有限会社三番館
被告 A
■事案の概要等
本件は、原告は「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っていたが、資金繰りの悪化により、本件建物につき抵当権を実施されたため、競売により本件建物を取得し、ホテルの営業をしている被告に電光客室案内板等の所有権は自らにあるとして、電光客室案内板等の引渡しと損害賠償を求めた事案です。
(下線・太字筆者)
裁判所は以下のように認定し、判断しました。
1 請求原因(1)(当事者)の事実
当事者について、原告は「旅館業を目的とする有限会社であり、平成13年11月29日まで本件建物において、「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っていた」こと、及び「ホテルの営業の資金繰りが苦しくなり、株式会社整理回収機構により、本件建物につき、抵当権に基づく不動産競売の申立てを受け」、そして、被告が「競売による売却により、本件建物の所有権を取得した」こと、被告は「本件建物において、「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っている」ことは争いがないところ、争いのある「被告が本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を開始した日」について、裁判所は、「平成13年12月17日」と認めました。
2 請求原因(2)(所有権に基づく返還請求)
「被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を本件建物の3部屋に収納して保管していること」、「本件不動産引渡命令執行が、遅延しており、未だに完了していないことは、当事者間に争いがない」とした上、かかる「保管していること」により、「それらの動産の一部を占有している」と認め、かつ、「原告が別紙物件目録1(1)記載の動産を所有している」ことを認めました。そして、かかる「占有していること」により、「原告のこれらの動産に対する所有権が侵害されている」か、事実認定を行いました。
まず、「被告は、平成13年10月18日、本件建物につき売却許可決定を受け、直ちに、原告及び有限会社アース開発に対し、本件建物内にある別紙物件目録1(1)記載の動産の撤去を要求し、…動産を買い取ってもよい旨の交渉を申入れた」。「これに対し、原告代表者らは、動産の売買価格について…高額な要求を」するなどした経緯を認定しました。
そして、「原告は、本件不動産引渡命令執行が未だに完了しないのは、被告が不必要に搬出の時間を制限したり、搬出に階段のみの使用しか認めないからである旨主張する」が、「別紙物件目録1(1)記載の動産は、従前ホテルの営業に使用されてきたもので、経済的価値はほとんどな」く、「被告は、これらの動産の一部を、本件建物の3部屋に収納して保管しており、それによって本件建物の使用が妨げられていることからすれば、被告が、殊更にこれらの搬出を妨害することは考えられ」ず、「原告が被告に対し、別紙物件目録1(1)記載の動産について高額な価格による買取りを要求し、それが断られると、それらの動産が原告の債権者数名の所有である旨主張し、それに呼応するようにしてEらがこれらの動産の使用及び処分の禁止を求める仮処分を申し立て、これについて、譲渡担保契約書が真正に成立したとは認められないなどの理由によって同仮処分の却下決定が行われていることなど前記認定の一連の経緯に鑑みれば、原告は、本件建物について行われた不動産競売の強制執行を妨害する意思を有するものと推認される」と判断しました。
その他事実認定の上、裁判所は「したがって、別紙物件目録1(1)記載の動産について、原告の所有権に基づく引渡請求は、理由がない」と判断しました。。
また「別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、ねじ及び接着剤のコーキングにより、本件建物の1階ロビーの壁面に固着されていること、この電光客室案内板は、コンピューターと連動しており、案内板から各客室まで、壁や天井内部を通して配線が施されていること、この客室案内板には、本件建物の客室ごとにその内部写真が貼り付けられた案内パネルが設けられ、各客室の案内パネルのスイッチを操作すると、各客室の施錠が自動的に解除されるようになっていることが認められる」とし、裁判所は「別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属する」と認定しました。
また「別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて」は、「ほとんどが客室の壁及び床に接着剤によって固着されており、4室ほどは、ベッド頭部にある壁、床に設置された備付台に接着剤で固着されていること、これらのコントロールパネルは、設置場所ごとに異なった形の台枠等を備え、設置場所からの移動を予定していないこと、これらのコントロールパネルには、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等のスイッチがあり、壁、床、天井等を通して電気配線がされており、各客室には、他にスイッチはなく、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等の操作は、コントロールパネルによってしか行うことができないことが認められる」ため、「本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属する」と判断しました。
3.請求原因(3)(不正競争防止法に基づく請求)
(1)前提事実
「本件不動産引渡命令執行を担当する当庁堺支部執行官は、平成14年7月9日、被告に対し、通知書を交付し、〔1〕別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて、原告及び有限会社アース開発に引き渡さない、ただし、「おしゃれマジック」の名称を適当な方法により外部から見分できないようにする、〔2〕別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板について、原告及び有限会社アース開発に引き渡さない、〔3〕建物壁面に設けられた看板、ポールに設置された看板について、原告及び有限会社アース開発の費用により、「おしゃれマジック」の名称の記載された部材を取り外す、〔4〕ネオン管について、原告及び有限会社アース開発の費用により、「おしゃれマジック」の部分を取り外す旨を通知した。被告は、この通知の内容に対して執行異議を申し立てたが(当庁堺支部平成14年(ヲ)第311号)、当庁堺支部は、同年9月24日、同執行異議の申立てを却下する旨の決定を行った」。
(2)周知性等
裁判所は「原告は、平成7年1月ごろから、本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っていたものと推認され」る等認定し、「原告が、食品衛生法21条の営業許可を「おしゃれマジック」の名称により取得して、平成7年1月ごろから本件建物においてホテルの営業を行い、仮に、平成12年12月1日から平成13年11月30日までの休憩、宿泊の件数、売上等が別表2のとおりであったとしても、これらの事実だけからでは、同日の時点で、「おしゃれマジック」という表示が原告の営業表示として周辺地域の需要者の間で広く認識されていたことを認めることはでき」ないと判断しました。
(3)出所の混同等
「原告は、本件建物が競売されたことにより本件建物でのホテルの営業の廃止に追い込まれたものであるが、他に「おしゃれマジック」の表示でホテルの営業を現に行っていることを認めるに足りる証拠はない。そして、被告が「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行うことにより、原告のホテルの営業と混同を生じ、原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあることを認めるに足りる証拠もない」。
(4)以上の認定事実により、裁判所は「原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がない」としました。
4.請求原因4(不当利得)アについて
裁判所は、「被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産を、本件建物の3部屋にまとめて収納して保管し、新たに什器備品を購入してホテルの営業を行っており、別紙物件目録1(1)記載の動産をホテルの営業に用いていないことが認められ」、「仮に別紙物件目録1(1)記載の動産が原告所有のものであったとしても、被告がそれを占有することにより、営業利益を上げ、法律上の原因なく利得を得ているとはいえない」とし、また「別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属するものというべきであり、それらをもって、原告の所有に属する動産ということはできないから、被告がそれを占有することにより、営業利益を上げ、法律上の原因なく利得を得ているとはいえない」とし、原告の不当利得返還請求は」理由がないと判断しました。
■BLM感想等
本件は、競売で売却許可決定を受け、不動産を買い取ったものが、元の不動産所有者がその有する物等を引き取らず、かつ、その所有権を主張していたため、いわば負の関係が形成され、これを切り離すのに苦労した、といった捉え方で、関係解消事例の一つとして本ブログにあげてみました。特に商標・その他の表示に係る物について、所有権を主張しつつ、これを引き取らない、という事態は、不動産を買い取った者としては困り果ててしまいますよね。はやく排除して関係を解消したいところです。
前回のホテルサンルーツ事件のように関係解消事例では、差止請求の対象となった元関係者は、これまで使用してきた商標・その他の表示の使用を止めなければいけませんが、それらを使用し続けていたい場合もあります。物理的に商標・その他の表示を削除等する作業は大変ですし。
また、例えば建物施設を買い取った場合、従前のホテルの施設をそのまま用いるとして、商標・その他の表示が残っている場合、どこまで使用できるのかというの点も悩ましいです。従前の表示に商標権もなく、周知性も認められない場合はそのまま使用してもよい場合もあり得ます。ホテル名自体は変更するでしょうが、それ以外で、自他商品識別機能を発揮し得るのか否か微妙な文字や形状等は、標識として意味をなすのかなさないのか解らないケースもありそうです。
本件の場合、問題となった物について、一部は原告に所有権があり、一部は、「本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属する」と判断されました。また、「おしゃれマジック」の表示は周知性がないとされました。
地球にやさしいエコな経済活動を志向する場合、できるだけ従前の物、建物で、いいものは引き継いで使用したい場合も多いかもしれませんが、使用することで関係ができてしまい、商標・その他の表示に対するフリーライドと認定される危険もあるので、難しいところですね。全部壊して捨てて関係を解消した方が得策なのか、難しいところです。
By BLM
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