不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その47

 前回、峰屋商号使用禁止仮処分申請事件事業承継事例、又は、元経営者との紛争事例を見てみたので、本日もこれに類似のものを見てみたいと思います。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号27412131)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京高判昭48・10・9〔花ころも事件・控訴審〕無体集5巻2号381頁(長野地判昭和46・2・19〔同・第一審〕無体例集/無体財産例集5巻2号393頁)

控訴人・株式会社花ころも
被控訴人・有限会社小島屋 外一名

 

■事案の概要等 

 本件は、被控訴人有限会社小島屋の代表者である小島Tは、友人の近藤と相談し、被控訴人が天ぷら等の製造販売を営みながら製造し「花ころも」という商標を付して販売していた天ぷら専用粉を専門に量産して販売するため控訴会社を設立し、代表取締役に就任し、かつ、小島Tは、発起人会で(又は創立総会で)、控訴会社が設立されたときは、被控訴人小島屋の天ぷら専用粉の製造販売に関する営業一切を控訴会社に譲渡する旨の停止条件付営業譲渡契約を締結するとともに、被控訴人小島屋は天ぷら専用粉「花ころも」又はこれに類似するものの製造販売をせず、控訴会社の営業を一切妨害しない旨の特約をし、これが成就し、被控訴人は設備一切を控訴会社に売渡したほか、仕入先や得意先を引継がせ、「花ころも」の商標を使用させたにも関わらず、その後、被控訴人(小島Tは控訴会社の代表取締役を辞任)及び小島Tが別途設立した会社とともに、「花ころも」等の商標を使用して、同種の商品を販売したため、控訴人が商法25条3項及び不正競争防止法に基づき仮処分命令を求めた事案です。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.被控訴人小島屋の営業行為
 裁判所は以下の事実を認定し、判断しました。

1.被控訴人有限会社小島屋の表示「花ころも」の周知性の獲得

 「惣菜の製造、販売等を目的とする被控訴人小島屋は、昭和34年頃から、小麦粉(薄力粉)に特殊な添加剤(種)を混合して天ぷら専用粉を製造し、これを使用して天ぷらの製造販売業を営むかたわら、その天ぷら専用粉に「花ころも」という商標を附してこれを販売していたところ、その売行きが順調に発展し、昭和44年4月頃には「花ころも」という商標は、長野市およびその周辺において、同被控訴人の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示するものとして、取引者および需要者の間に広く認識されるに至つた」。

 

2.控訴人株式会社花ころもの設立

 「被控訴人の代表者である小島Tは、知人である近藤Tと協力のうえ、同被控訴人の営業のうち天ぷら専用粉の製造販売部門を独立させ、これを専用に行うため別会社を設立しようと企て、両名のほか一五名の株式引受を得て、昭和44年6月2日、天ぷら材料の製造販売等を目的とし…商標「花ころも」を商号の一部とする控訴会社を設立し、自らその代表取締役に就任」。

 「控訴会社は同年6月30日被控訴人小島屋から天ぷら専用粉の製造販売に要する設備一切を譲り受け…の天ぷら専用粉を「花ころも」という商標を使用し、同被控訴人の仕入先、得意先を引継いで製造販売する営業を開始」し、同日以後「被控訴人小島屋は、試験改良のため少量の天ぷら専用粉を自ら製造したほかは、控訴会社から天ぷら専用粉を買い入れ、これを使用して天ぷらを製造販売し、天ぷら専用粉を業として製造販売することは行わなかつた」。
 

3.商法上の判断(被控訴人小島屋の行為)

 以上認定の事実によれば、「特段の事情の認められない限り、控訴会社が設立された同年6月2日頃、「花ころも」という商標によつて表象される営業組織、顧客先関係、仕入先関係等を含む被控訴人小島屋の天ぷら専用粉の製造販売に関する営業一切が控訴会社に譲渡された…と推認する」。「もつとも、この営業譲渡に対して対価を支払うべき旨の約束がなされたことの疎明はない」が、「控訴会社設立の経緯に徴すれば、このことは営業譲渡を否定すべき理由にはならないし、他にこの推認を妨げるべき特段の事情の疎明はない」。

 そうだとすると「被控訴人小島屋が営業譲渡の実効を失わしめるような不正競争の目的をもつて控訴会社と同一の営業を行うことは、商法第25条第3項により、その地域および時期のいかんを問わず、許されない」。

 

Ⅱ.被控訴人小島屋及び美川屋の商品の販売行為 

 裁判所は以下の事実を認定し、判断しました。

 

1.控訴人株式会社花ころもからの離脱と新会社設立等

 「前認定の営業譲渡が行われた後である昭和44年8月23日、控訴会社の代表取締役であつた小島Tが同人個人名義で「花ころも」の商標登録出願をし」、「主な原因となつて同人と控訴会社の専務取締役であつた近藤Tとの間に確執が生じ、その結果昭和45年2月17日小島は控訴会社の代表取締役を辞任し、近藤が代表取締役に就任」。被控訴人小島屋は「控訴会社から天ぷら専用粉を買受けていたが」やめて、直接、訴外製粉業者Eに注文し「小麦粉(薄力粉)に混合する添加剤(種)を控訴会社の使用するものと多少変更を加えて天ぷら専用粉を製造させ」、「適当な分量に分けてビニール袋からなる容器に収納し、これを販売する営業を開始」した。「当初はその容器に「花ころも」という商標を附していたが」「「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」」の商標を附した容器を使用し販売」し、「天ぷら専用粉ニュー花ころもの製造販売を目的とし、被控訴人小島屋が使用している建物の所在地を本店所在地とする被控訴人美川屋が設立され、小島Tの妻小島Sが取締役に就任」した「同被控訴人はその頃から単独でまたは被控訴人小島屋と共同して、「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」という商標を附した容器を使用して天ぷら専用粉を販売しはじめ、控訴人の得意先に売込み販売」し、これにより「控訴会社は被控訴人等にその得意先の一部を奪われ、長野市内等の大口販売先に対する売上げが激減」した。

 

2.旧法旧不正競争防止法1条1項1号上の判断

 裁判所は、以上の認定事実に基づき以下のように認定、判断しました。

(1)「被控訴人小島屋は控訴会社に対して「花ころも」の商標による天ぷら専用粉の製造販売に関する営業を譲渡したにもかかわらず、その後控訴会社となんら話合もせずにこの商標と称呼観念において類似する「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」の商標を附して添加剤に多少の相違があるとはいえほぼ同種の天ぷら専用粉を製造販売し、控訴会社の得意先を奪おうとしたもので」、「不正競争の目的をもつて、控訴会社と同一の営業を行うもの」で、控訴会社は同被控訴人に「商法25条3項により商標を使用する天ぷら専用粉の製造販売の差止を求める権利がある」。

 

(2)「被控訴人美川屋は、「花ころも」に類似する「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」の商標を使用した天ぷら専用粉を販売して控訴会社の製造販売する天ぷら専用粉と混同を生ぜしめる行為をし」、「控訴会社が営業上の利益を害されるおそれがある」。ところで「「花ころも」の商標は被控訴人小島屋の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されていたところ,これが控訴会社の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示する商標として広く認識されるに至つたという疎明はない」。「しかし、不正競争防止法第1条第1項第1号は、競業秩序を維持するとともに、商標等の使用者の商標等によつて表象されるいわゆるグツドウイルを保護することを目的とするところ、控訴会社は、前認定の営業譲渡により、「花ころも」という商標によつて表象される被控訴人小島屋のグツドウイルを正当に承継して同商標を使用しているものであるから、控訴会社は被控訴人美川屋に対し」、同号により「前認定の販売行為の差止を求める権利がある」。(下線筆者)
 

(3)「さきに認定した事実によれば、控訴人が本案判決の確定を待つていたのでは回復がしがたい損害を受けるおそれがあることが容易に推認され」、「その損害の発生を防止して前判示の被保全権利を保全するためには、被控訴人小島屋に対しては前認定の商標を使用する天ぷら専用粉の製造販売を、被控訴人美川屋に対しては同物件の販売をそれぞれ禁止するとともに、被控訴人小島屋の店舗および倉庫であり被控訴人美川屋の工場である…各建物内にある前記商標を附した容器または包装に収納された天ぷら専用粉を執行官に保管させる必要がある」。「ただし、被控訴人等は、前記商標を使用して天ぷら専用粉を販売することが禁ぜられるだけで、これを自ら天ぷらを製造するために使用することを禁ぜられ」ない。被控訴人等の申出があれば「執行官は、その保管にかかる専用粉を前記の容器または包装から取出し、容器または包装を除いてこれを被控訴人等に返還しなければならない」。 

 

■結論

 裁判所は、「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」という商標を使用して天ぷら専用の味附小麦粉について、「被控訴人有限会社小島屋は製造販売を、被控訴人有限会社美川屋は販売をそれぞれしてはならない旨、別紙目録記載の建物内にある「ニュー花ころも」もしくは「ニューはなころも」という商標を附した容器または包装に収納された天ぷら専用の味附小麦粉に対する被控訴人等の占有を解き、長野地方裁判所執行官にその保管を命ずるなどし、執行官は、被控訴人等の申出があるときは、前項の味附小麦粉を容器または包装から取り出し、容器または包装を除いてこれを被控訴人等に返還しなければならない旨判決を下しました。

 

■BLM感想等

 前回、峰屋商号使用禁止仮処分申請事件事業承継事例、又は、元経営者との紛争事例を見てみたので、本日もこれに類似のものを見てみました。本件は、商標法のように移転登録制度がない不正競争防止法上の周知な商品表示又は営業表示を譲渡することができるか、という論点として取り上げられる裁判例ですが、譲渡直後、つまり譲受人が自ら周知性の獲得に貢献していない段階で、営業譲渡を伴い表示が承継されたため、周知性も譲受人が援用できるとして、差止が認められたものです(不正競争防止法上の差止は、別途立ち上げた有限会社美川屋に対してです)。

 裁判所は、「ところで「「花ころも」の商標は被控訴人小島屋の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されていたところ,これが控訴会社の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示する商標として広く認識されるに至つたという疎明はない」。「しかし、不正競争防止法第1条第1項第1号は、競業秩序を維持するとともに、商標等の使用者の商標等によつて表象されるいわゆるグツドウイルを保護することを目的とするところ、控訴会社は、前認定の営業譲渡により、「花ころも」という商標によつて表象される被控訴人小島屋のグツドウイルを正当に承継して同商標を使用しているものであるから、控訴会社は被控訴人美川屋に対し」、同号により「前認定の販売行為の差止を求める権利がある」と認定・判断し、グッドウィル概念を採用して判決を述べている事案です。

 本件は、商標・その他の表示を伴う(又はそのような約束が明示されていない)事業承継の事例において、その譲受人と譲渡人との間で紛争に至り、関係が解消された事例となりますね。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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